【レポート】IPv6をクルマに応用! クルマが変えるIT社会が動き出す(1)

  [2002/02/12]

○IPv6の大規模実証実験

2002年2月8日、川崎市と慶應大学の連携で生まれた慶應大学K2キャンパス(新川崎)で、「IPv6」を利用したインターネットITS首都圏実証実験のプレスカンファレンスが開催された。

「IPv6(IP Version6)」という言葉を、しばしば耳にするようになってきた。IPv6は、簡単にいえば、現在インターネットで使用されているIPアドレス(IPv4)を拡張したものである。

現在使用されているIPv4では、たとえば毎日コミュニケーションズのサイト(www.mycom.co.jp)は、210.196.076.066という12桁の数字で割り当てられた番号となる。12桁の数字では、理論的に32ビット、すなわち約43億個のIPアドレスを設定できる。

充分に大きな数と思える43億個だが、想定する数によっては、格段に少ない数となる。たとえば、現在の地球人口約60億人を考えると、ひとり1台を割り当てることさえできない。まして、ひとりが1台以上のインターネット接続機器(PC、PDA、携帯電話など)を使うようになる未来には、数が足りなくなることが明白だ。

そこで現在研究が進んできたIPv6では、128ビットに拡張されたアドレスをもち、約10の28乗(100兆×100兆)個という膨大なIPアドレスを割り当てることができる。ひとことでいえば、「なんでもつながるインターネット」を実現するのが、IPv6なのである。

IPv6では、小さな機器での無駄をなくすため、IPv4では必須だった情報を削除したり使わなくてもよいように省力化している。逆に、認証および暗号化のための拡張機能の実装は必須となり、セキュリティ機能が強化された。

このIPv6の日本での旗振りをしているのが、慶應義塾大学SFC研究所所長の村井純教授であり、村井教授が代表をつとめる、産官学の共同研究組織WIDEプロジェクトである。

経済産業省 製造産業局ITS推進室長の堀口光氏、トヨタ自動車株式会社ITS企画部主査の小出公平氏、株式会社デンソー ITS開発部 開発3室 室長の加藤俊幸氏
日本電気株式会社 ITSソリューション推進本部 本部長の前川誠氏、インターネットITS共同研究グループ代表、慶応義塾大学SFC研究所 所長の村井純氏

○道路の未来とインターネットの未来

IPv6の実装が進んできた現在、IPv6をどこに使うか、というのが、主たるテーマとして考えられるようになってきた。IPv6を実装しなければ実証実験は進まないが、通常のPC環境にIPv6を実装してもIPv4との違いを明快にしにくい。「これがコンピュータ側の事情です」と村井教授は説明する。

いっぽうで、自動車の情報社会への対応も、重要なテーマとして考えられ始めている。カーナビゲーションや渋滞情報、エンジン制御から、日本ではなかなか進まないが、シンガポールではすでにたいへんな利用実績をもつETC、将来的な目標として掲げられている自動運転まで、自動車をインテリジェント化する話題は尽きない。車は産業としても、社会基盤としても期待される分野であり、インテリジェント化に対するニーズは高い。国際的に見ても、競争力がある。この自動車をさらに発展させ、未来の産業を生み出したい。これが自動車側の事情である。

そこで、コンピュータと車、そしてインフラストラクチャとしての国が「道路の未来とインターネットの未来のためにハイブリッドな連携」(村井教授)をしあって、Internet ITS(IPv6を基礎とした共通のITS基盤)の研究が進み、その実証実験が行われることになった。

すでに、2002年1月28日には名古屋地区で実証実験が先行してスタートし、2月8日からは首都圏(川崎地区)で実験が始まった。

インターネットITSはInternet Intelligent Transport Systems:インターネット高度道路情報システムのこと。IPv6を使った次世代自動車&情報の基盤である
次世代自動車の競争力をつけるためには、情報通信サービスが不可欠である

インターネットに期待されているネットワークに、自動車も入ってくる
インターネットITSのめざす世界。マーケティング的な発想からだれでもが思いつくようなものだが、実現するには種々の問題を解決する必要がある

さまざまなものがつながっていく世界がインターネットITSで実現する
こうしたものを実現するには、多対多のネットワークやその背後にあるサービスサーバー、社会基盤の整備が不可欠。単に自動車だけでできるものではない

○「超」実験機=ガンダム!? 登場

名古屋地区では、名古屋市内のタクシー1,570台に、IPv6の端末群を搭載。この1,570台というのは、じつに、名古屋のタクシーの約5台に1台という規模である!

1台のタクシーのなかには、ワイパーや速度などを感知できる複数の機器が搭載されている。これによって、タクシーの業務用サービス、乗客向け情報提供サービス、プローブ情報提供サービスなどが実験されているのだ。

川崎地区では、1台の高機能車両(11台のPCと5台のカメラを搭載)と70台の一般車両によって、ガソリンスタンドや駐車場、走行中のサービスガイダンス、コンテンツ配信などが行われる。2月8日の記者会見では、この高機能車両が公開された。

「ウェアラブルというのは、車のことを指すのではないか」という村井教授の言葉を頭に置きながら、高機能車両は「1台しかありません」などという説明を耳にすると、「うっ、ガンダムとジムか?」などと連想してしまうのは、コンピュータ世代の常かもしれない。

たしかに、最近、奈良先端科学技術大学などを中心に、ウェアラブルの実験は少なくないが、重たいバッテリーを身にまとうウェアラブルは、なかなか現実的にはなってこないなぁ、という印象は強く、逆に、車という外殻を「着る」と考えれば、車への愛着度というか、心理的な比重は高いかもしれない。

○ワイパーにもアドレスを

GPSによるカーナビゲーションを見てもわかるとおり、自動車の場合に、IT化をするには、単に自動車だけを高機能にするのでは不充分である。自動車のまわりにある道路や施設をIT化することによって、通信を行ったり、キャッシュレス決済を可能にしたり、コンテンツを配信したりできることが求められるのだ。

「経路探索、交通機関の予約、車両情報の把握、自動決済、タクシーなどの配車など、だれでもが簡単に思いつくサービスでも、実際にそれを実現するためには、大規模なシステムが不可欠となる。ただし、Internet ITSでは、それらぜんぶを実現しなくても、インターネットの協調分散で、可能になることができてくる。今回の実験では、部分的な実現から、未来の社会基盤の実現を探っていく」(村井教授)という。

たとえば、名古屋ではワイパーの動作状況が、インターネットで受け取れるようになっている。ワイパーにIPアドレスを振るわけだから、IPv6が必要になるわけだ。ワイパーの挙動がわかるということは、タクシーが動いてさえいれば、現在どの地区で雨が降っているのか、手にとるようにわかる、ということなのである。「雨が降っている場所ではタクシーの乗車率が増えるということが考えられるわけで、情報によって新たなニーズが生み出される可能性がある」と村井教授は話す。

実際、会見後に、インターネットにつないだところ、ちょうど雨が降っていたようで、名古屋の雨の状況が、手にとるようにわかった。ここに価値を見いだせば、新しい商売ができてくる可能性は高い。

名古屋実験では、タクシー配車などがインターネット化された。雨情報などもわかるようになった
「雨が降ったところには客がいる」と村井教授がイチオシする名古屋の雨情報。サイトにユーザー登録すると、だれでも見ることができる

速度センサーと連動した渋滞情報。どのくらいの速度が出ているのか、一目瞭然
安全運転支援なども視野に入っている

車の内部、外部とコミュニケーションできるテレビ会議システム
70台の普及用の車載サーバーの構成

(美崎薫)

【レポート】IPv6をクルマに応用! クルマが変えるIT社会が動き出す(2)
http://pcweb.mycom.co.jp/news/2002/02/12/23.html
に続きます。

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