【レポート】ロボット開発と日本の21世紀

  [2001/01/01]

昨年11月、HONDAとSONYから続けて2足歩行の新型ロボットが発表された。21世紀まであと1ヶ月というタイミングだ。その見事な動作は目を見張るばかりの生命感をアピールし、まさしく21世紀の新しい生活を強烈にイメージさせられるものだった。

20世紀後半、日本は米国をお手本に成長してきた。自動車、航空宇宙、コンピュータ、インターネット、そして今はバイオと、米国の選択は常に成功し、世界を引っ張ってきた。日本は自動車、コンピュータ、インターネット、バイオと米国に遅れまいとするフォローアップ政策を推進し続けてきているのだが、ここにきて最近ではハイブリッドカーやi-Modeなど独自のテクノロジー文化が花開きはじめ、世界的にも注目されている。このたびの家庭用ロボット技術も、そんな日本ならではのハイテク文化として大きく成長しそうな雰囲気が感じられる。

家庭用ロボットは非常に奥が深い技術分野だ。ハードウェア的には「しなやかさ」を追求する技術開発が求められ、機械・精密工学的アプローチでどこまで生物的な機能を実現できるか問われている。

それをコントロールする中枢・制御回路も難しい。ロボットが「パラパラを踊る」といっても大変な事で、手を上に挙げるだけで重心が動くので、そのままでは転倒してしまう。全身でバランスを取らなければ手も挙げられない。HONDAとSONYの新しいロボットでは重心の移動を予測しながら動作するという制御ロジックが組み込まれた。リアルタイムに全身の重心を計算し、その移動先を予測しながら全身の動作を修正して、倒れないようにしているという。この制御回路のおかげで、人と見まがうほどのスムーズな動作が実現した。

そして、今回のHONDAとSONYのロボットは、限られた環境ながらシンプルな自律運動ができるようになっていたが、将来像としてはこれを推し進めた汎用的な自律運動がある。周囲を自身で判断しながら自律的に行動する、というものだ。高度なロボットになれば、抽象的な目的を与えるだけで自ら思考・判断し、経路上に現れる問題を自力で解決し、行動できるようになるだろう。

ここで、ロボットの判断、思考、感情、といったメンタルな部分に注目すれば、そこにはもっと困難な技術領域が隠されている。ニューラルネットワークテクノロジーと呼ばれる、脳を模した新しい情報処理技術がその入り口だが、この技術は理学系の難問である複雑系の科学と関わっており、数学的には非線形問題と捉えられる難しく、自然科学の世界では普遍的で影響力が大きく、大変注目されている学問的問題が顔を見せるようになる。

脳の情報処理で特徴的かつ未知の領域の一つは直感と呼ばれる思考法だが、これは上記の学問上の問題と密接に関連していると考えられ、そして未来のロボットに必要な思考回路と思われる。例えば、ロボットが歩くための最短・最適経路を求める問題を考えたとき、きわめて正確だが全てのケースについて検討しなければ結論が出せない現在のロジカルな思考回路だけではなく、多少不正確ではあるものの、膨大な情報を元に瞬時に結論を下すことができる直感的思考回路が求められてくるだろう。

例えば、ロボットが高速で運動しながら周囲360度の3D空間をリアルタイムに判断し、自らの行動を決定しようと言うとき、現在の論理的思考回路ではいくらコンピュータの性能を上げても追いつけないのではないか。そもそも、人間自身がそのような思考では判断・行動していない。膨大な情報から瞬時に結論を下すことができる直感的な思考回路がなければ、ロボットにこうした自律的判断をさせることは難しいだろう。

他には翻訳エンジンを例に取ると、現在用いられているロジカルな思考回路では自動翻訳に限界があると思われる。多くの単語は複数の意味を持っており、文脈によって様々に意味を持つ。この文例を全てインプットし、論理的な思考回路で正確な翻訳をすることは難しいと思われる。それよりも文章を単語の並びのパターンとして認識し、単語と文章の意味を類推できる直感的な思考回路を用いることで翻訳の技術は大きく進歩する可能性があると思われる。この延長線上には、人間と自由自在に会話する事ができるロボットがある。ロボットが人と会話するためには、直感的な思考回路を使って、人の話す不定形な文章の意味を、周囲と前後の状況を加味しながら瞬時に類推できなければならない。

人間は論理的思考に加えて直感的思考を上手に活用して生活しているが、それを模した直感的思考回路の実用化には、根元的には複雑系科学、非線形数学といった新しい学問分野の進展が不可欠と思われる。ロボット技術をつきつめていくとこうした高度な学問上の問題に行き当たるが、これらを進展させ実用化することは、到底いち企業の研究努力で支えきれるものではないと考えられ、国が積極的に予算を使って推進していく姿勢が望まれる。

20世紀の日本は、米国をはじめとする先進国を追いかけてきたが、21世紀には米国・欧米とは違ったテーマで世界をリードしていくことが求められていると思われる。そこでは日本の文化にフィットするテーマが求められるだろう。家庭用ロボットは、人と機械のコミュニケーション、感情の交わりといった事が重視されるメンタルな存在だ。このように考えてみると、21世紀の日本を支える技術分野として、家庭用ロボットテクノロジーを強く推進していくことは一つの有意義な方策ではないかという印象を持つ。日本の土壌に合ったテーマであると感じられるし、その開発を通じて得られる経験は、深いレベルで様々な産業分野に波及し、結果として日本の21世紀を支え、世界に貢献することだろう。

22世紀の火星に、日本が開発した人間型ロボットが定住し、人間のために資源を開拓している様子が目に浮かぶような気がする、というのは気の早い空想だろうか…。

○参考ウェブサイト

京都大学大学院情報学研究科複雑系科学専攻
http://www.acs.i.kyoto-u.ac.jp/

日立製作所 - ニューラルネットワークシミュレータNEUROLIVE
http://www.hitachi.co.jp/Prod/comp/soft1/VOS3FS/v3ga0119.htm



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