【レポート】中国・東莞市視察レポート(2) - 外資系企業の制約

      [2000/11/20]

    中国の人口はおよそ12億。人口抑制のために「ひとりっこ政策」がとられるようになってから、およそ20年。ひとりっこ世代もそろそろ結婚の年齢になる。当然、その夫婦の子供も、またひとりっこ。つまり、生まれてくる子供たちは、将来夫婦で双方の両親と、さらにそれぞれの祖父母(みんな健在だと合計12人)の面倒を見なければならないことになる。「中国では農村戸籍と都市戸籍があり、農村部には正式な届出をだしていない無戸籍人口が相当います。推定ですが、人口統計の誤差は発表値より2,000万人から5,000万人は多いはず」という中国統計の専門家G氏。

    中国の統計資料によると都市人口はおよそ2割。平均年収は5,854元(以下、人民元)日本円でおよそ7万6千円。一方、農村人口は8割を占め(統計上は)、平均年収は2,210元、日本円でおよそ2万8千円と差が大きい。この差はますます広がる傾向にあり、改革開放政策により工業化が進んでいる沿岸部に対して、内陸地域の貧しい農村部の開発が大きな課題になっている。

    シンセンや東莞を中心とした珠江デルタの工業地帯では、都市部の平均賃金をはるかに上回る水準。ギガバイト社の場合、基本給が350~400元(およそ日本円で5千円前後)、これに残業手当など諸手当を加えると700元~800元(およそ1万円前後)になる。ボーナスなどを加えた年収にすると10,000元を超えることになり、都市の平均年収のおよそ2倍になる。「都市部でも上海、北京、それから経済特区の賃金は別格。他の地域より圧倒的に高い」とG氏。

    食事をしたレストランで「仕事の話、お給料の話をちょっと聞いてもいい?」とウェイトレスに声をかけてみた。このレストランは東莞でも有名なホテルのレストラン。突然、ちょっと失礼かと思ったが、快くわれわれの質問に答えてくれた。彼女の月収はおよそ1,200元(日本円で15,600円ほど)、地方から出てきてしばらく電子部品関係の工場で働いていたが、友人の紹介でこのレストランに転職できて、とてもラッキーだったという。こうしたサービス業で働けるのはほんの一握りの人たちだけで、どうやらけっこう狭き門らしい。彼女たちにとってサービス業に従事することは、ひとつのステイタスなのだ。「チャンスがあればシンセンへ行って働きたい」と目を輝かせて話す。やはり、憧れはシンセン。地方から東莞へ、ワーカーからサービス業へ、そしていずれはシンセンへ。こうしてステップアップしていく彼女たちなりのサクセスストーリーがあるようだ。

    東莞の平均的なホワイトカラーの月収は1,500元(19,500円)、幹部クラスだとその倍として3,000元(39,000円)前後が平均的な水準。物価が安いので生活には困らないはず。しかし、嗜好品や高級品の値段は、桁違いに高いようだ。例えば、東莞市内のちょっとおしゃれな喫茶店に入って、コーヒーを飲んだ。コーヒーの値段は一杯18元、日本円にすると一杯234円。物価水準から考えると、けっして安くはない。その他、スーツ、靴などもブランド品を中心にけっこうな値段。自動車は、フォルクスワーゲンのゴルフクラスでおよそ15万元(195万円)、つまり月給3,000元の人ならお給料50か月分ということになる。オートバイでも125ccクラスの実用車が、給料の3~5か月分。「オートバイならちょっと無理をすれば何とか」という金額だが、自動車はまだまだ高嶺の花のようだ。

    それでも最新型のベンツや日本車を乗り回している人も少なくない。ガイドのCさんによると「東莞市で車に乗っているのは、事業で成功した人か、土地持ち。それか台湾人ですよ」と説明してくれた。中国というと、みんな自転車に乗っているような先入観があったが、自転車は想像していたよりずっと少なかった。街中には自動車やオートバイがあふれ、自転車のほうは道路の端に追いやられ、ビュンビュンとばして走るオートバイに気を使いながら走っているような状況。新車が買えない人たちのために、オートバイの中古車市場も活況だそうだ。しかし、憧れはやはり自家用車。マイカー通勤が成功の証なのだ。

    高速道路は走っていると、ところどころに新しく建築された一戸建ての住宅街を見ることがある。たいてい湖のほとりや、川辺りが多い。芝が敷き詰められた庭、どの家にも車のガレージや駐車スペースがあり、プールが付いているの家もある。広い土地を住宅地として開発した分譲地で、団地の周りは高い柵で囲われている。入り口には大きな門。守衛がいて、セキュリティもしっかりしているようだ。「最近流行りの一戸建て高級マンションですよ」とガイドのCさんが教えてくれた。「分譲価格は50万元(日本円で650万円)くらいから。100万元以上の超高級マンションもありますよ」という。買うのはたいてい台湾人か、地元の土地持ち。土地持ちと言うのは、自分の土地にビルやマンションを建て、そのテナント料や家賃収入で、にわかに万元戸(金持ち)になった人たちのこと。「けっこう台湾人が多いんですよ。台湾人にとって50万元は高い買い物ではないはず。プール付きの一戸建てのオーナーになれるのですからね」とCさん。確かに不動産がめちゃくちゃ高い台北に比べれば格安だ。

    「シンセンの高層マンションのオーナーも台湾人が多いですよ。中には愛人を住まわせている人も少なくない」とCさん。どこでも世の男性の考えることは同じかと思いきや、「逆に愛人のかけもちをしている中国人の女性もいますよ。複数の台湾人から『お手当て』をもらってるんですよ。彼女たちが一番高給取かもしれませんね」とCさんは説明する。これも一種のサクセスストーリー(?)といっては不謹慎?

    さて、中国に進出する外資系企業は、大きく分類するとふたつの形態に分けられる。ひとつは「三資企業」、もうひとつは「来料加工(委託加工)」という形態。「三資」とは、独立資本、合弁、合作(提携)を意味し、基本的に製造したものを中国国内で販売する権利を有する企業のこと。「来料加工」とは、原材料を輸入して、製造した製品は完成品、半完成品に限らず、輸出をしなければならないという条件である。言いかえれば、外資系企業は、自社が中国国内で生産した製品を中国国内で自由に販売できないという制約があるのだ。来料加工企業の場合は、生産設備の導入は免税、原料の輸入も免税などの税的優遇措置が受けられる。一方、三資企業にはそのような税的優遇措置はなく、また国内販売には製品によって一定の税率が課され、取引の障害になるケースも少なくない。

    こうした制約があるため、部品の域内取引が難しい。例えば、ベアボーンを製造しているA社が、B社の電源を使いたい場合、B社が来料加工企業であればB社はA社に直接電源を売ることができず、一度国外に輸出した形を取り、A社は例えば香港経由でB社の製品を輸入しなければならないことになる。もし、B社が三資企業のいずれかで、国内販売ができるにしても、域内取引でA社に電源を売るためには複雑な手続きが必要となり、また高い税率が適応され、結果的にA社はB社が一度輸出した電源を香港経由で輸入したほうが、早くて安い電源を手に入れることができるというのだ。外資の導入、技術移転、輸出振興を最重要課題として取り組んでいる中国当局の方針だ。

    笑ってしまうようなこんな話も聞いた。C社はネットワーク関連機器メーカー。東莞に工場を持つ台湾企業。国内販売の権利もある三資企業だ。スイッチングハブを域内D社に販売しようとすると、書類審査のために中国当局の担当者がやってきた。製品を手にした中国当局の担当者は「この製品にはどこにもスイッチがないじゃないか」の質問。これに対してC社の担当者は、スイッチングハブとは何たるかという製品説明からしなければならない羽目に…。中国当局の担当者は「次回は技術スタッフを連れてもう一度審査に来る」と言い残して帰っていった。結果的に、その日の審査は何の進展もなく次回を待つことになった。言ってみれば、中国当局の台湾企業いじめ(?)かも知れない。当局の方針に従わせたい場合は、次々と難題を持ちかけ、手段を選ばない。暗に袖の下(?)を要求してくるケースもある。現地工場の責任者は、難問に対処し、的確な判断が要求される難しい任務を任されているのだ。

    もうひとつの難題といえば、ワーカーの離職率の高さ。少しでも条件のよい工場があると、すぐにそちらに移ってしまうという。どの工場でも、住環境の整備、食事の充実、福利厚生の充実など良質なワーカーを安定的に確保するために必死だ。日系企業では、全室エアコン完備という従業員宿舎を建てたところまである。「食事のメニューを工夫し、カラオケやディスコパーティを企画したり、社員をバス旅行に連れて行くなど、みんないろいろやっていますよ。でも、どれも決め手にはもう一歩なんですよ」とある台湾企業の人事担当者は苦笑いする。しかし、彼によると離職率を抑えるため方法は、中国当局との折衝に比べれば簡単だという。「どんどん残業させること。離職率を抑えるには、これが一番ですよ」と笑いながら答えてくれた。

    (吉村章)

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