通関待ちトレーラーの行列が延々と続く。通関待ちの渋滞は、国境まで20km以上の行列になることも珍しくないという。どの車も海運会社のコンテナを載せた大型車だ。シンセン経済特区から東莞市の中心部までの道のりは、およそ90km。片道4車線の高速道路の両側は、工場地帯が延々と続く。近代的な工場群、建設中の建物、醸成が終わり分譲予定の工業団地…。車の窓からおよそ1時間、このような風景がほぼ途切れることなく続く。
東莞市は、中国パソコン生産の一大拠点となった。東莞市の面積は2465平方キロメートル、神奈川県ほどの面積。数年前までは人口3万人ほどの貧しい農村だった。しかし、現在人口は398万人。中国屈指の工業都市に急成長した。東莞市経済貿易委員会の責任者である張順光副市長は「1999年の輸出額は151億米ドル。輸出額は、広東省の輸出総額の20%、全国の7.7%を占め、シンセン264億米ドル、上海163億米ドルに次いで、中国第三位」と胸を張る。
東莞市に進出している外国企業は、1999年末で13,800社。その中でもハイテク関連では台湾企業の動きが目立つ。同市に進出している台湾企業は、およそ3,800社。東莞市の輸出額のおよそ7割を占める。東莞市にはおよそ4万人の台湾人が住み、この秋から駐在している台湾人子弟のための学校が開校になっている。その背景には、東莞市政府の積極的な企業誘致政策がある。政治的には依然対立状態にある中国と台湾だが、経済的には重要なビジネスパートナーとなっているのだ。東莞市をIT関連製品の一大生産拠点にしたのは台湾企業だと言っても過言ではないだろう。
台湾税関、香港税関の統計では、1999年台中貿易総額は2,575億8,100万ドル(前年比14.5%)、台湾の総輸出入額に占める割合は11.1%、これは台米貿易に次ぐ規模であり、台日間の貿易額をも上回る規模。野村総研台北支店によると1999年中国への直接投資案件は、制約ベースで2499件、33.7億ドル。1990年の投資解禁からおよそ10年間の直接投資件数は4万3740件で138.3億ドル。以上は、9月にレポートした「両岸ITビジネス」でも紹介した通り。
さて、マザーボードではトップブランドの仲間入りをしたギガバイト社の工場を見学した。敷地面積は19,000平方メートル、月産生産能力マザーボード30万枚、ホワイトボックス3万台。24時間稼動のSMT(完全自動化ライン)を6本有する。東莞工場は、台湾の南平工場(月産80万枚)には及ばないものの、重要な生産拠点である。また、東莞ではホワイトボックス月産20万台を生産の工場の拡張計画を進めている。面積ではほぼ同規模。稼動予定は2001年の第2四半期。この工場が完成すると、台湾の平鎮工場ホワイトボックス月産8万台を大きく上回る規模になる。
東莞工場の従業員は750名。うち幹部職員が20人。台湾人駐在員は、工場管理者など12人。従業員は中国各省から東莞にやってきた出稼ぎのワーカー達だ。ギガバイト社の朱威同工場長によると「進出の決め手となったポイントのひとつは、質の高い労働力の確保が容易であること」だという。中国各地からシンセンや東莞に職を求めてワーカーが集まってくるのだ。ほとんどが若い女性。勤勉で、残業を好む。学校を卒業して、結婚までの数年間、工場のワーカーとして働くのだ。
彼女達の平均的な給与は、基本給に残業手当や諸手当などを加えて700元~800元(およそ一万円前後)と、台湾のおよそ十分の一。しかし、これは中国農村部の年収に匹敵する水準。ここで何年か我慢すると、田舎で働く両親の何年分かの所得が得られるわけだ。いや、「我慢」ということばはふさわしくない。女工哀史的な悲惨さはまったくなく、自発的、仕事に対する意識も高い。朱工場長は「とにかく残業を好みます。残業が多い工場へ転職してしまう人も少なくないですよ」と話す。
「従業員の募集広告など出したことないですよ。工場の入口に張り紙をだすだけ。事前に採用予定があることがうわさになって、面接日の朝には長い行列ができますよ」と別な工場の人事担当者。地方から家財道具を持って面接に来る人、少しでもいい条件の工場に転職するために朝早くから門に並ぶ人、採用を予告するとあっという間に人が集まるという。工程に細かな部品の選別作業がある工場では、面接の前に視力検査がある。「門のところに視力検査表があるんですよ。視力2.0以下の人は工場の入口で帰ってもらうそうです。それでも何百人も残るそうですよ。中には視力3.0とか、4.0の人もいるとか…。」と現地の事情に詳しいS氏。また、人材の質の高さはワーカーばかりではない。学歴の高い管理職から留学経験がある研究者にいたるまで、質の高さと同時に層の厚さは中国ならではだ。
「人材流動率(離職率)をいかに低く抑えるかも重要な仕事のひとつ」とギガバイト社の朱工場長は話す。優秀な人材を確保するため、また繋ぎとめておくために、各企業ともあの手この手を尽くす。ほとんどの工場が全寮制だが、エアコン完備の寮を持つ日系企業もある。バレーボール、バスケット、サッカーコート完備、課外活動やスポーツ大会、慰安旅行を行なっている会社も少なくない。
ギガバイト社の東莞工場の敷地内にも鉄筋コンクリート6階立ての立派な寮が建っている。中を見せてもらうと、ほとんどが4人部屋。2段ベットが両サイドにあり、ベッドの横には収納と机がそれぞれ4つ置いてある。ベランダには洗濯ができるスペース。洗濯機はなかった。みんな手洗いだという。トイレ、シャワーは共同。浴槽はない。中国南部では入浴は、シャワーで済ませることが多いという。あまりよい環境とは思えないが、それは基準の違いか? 「中国は広いですからね。地方ではもっと劣悪な環境で暮している人もいます。中には24時間温水が出るシャワーにびっくりした人、6階建ての建物に住めるというだけで喜んでいた人もいましたよ」と朱工場長。
さて、注目すべきは1Fの共有スペース。まず、500人が一度に食事できる食堂。ちょうど12時のチャイムの時間だったが、あっという間に食事の配膳を待つ従業員の長い(ほんとうに長い)行列ができた。「基本的に3食会社持ちです。外で食べてもいいことになっているので、希望者には食事手当てを給与といっしょに支給するのですが、まず希望する従業員はいません」と朱工場長は自慢げだ。理由は、外で食べると高くつくこと、それに何よりギガバイト社の食堂のメニューは、ボリュームがあり、うまいのだ。食事の後はテレビ。2台の大型テレビが食堂に置いてあり、食事を追えた従業員をくぎ付けにする。食堂の横には、卓球場、ディスコティック風のパーティ会場、カラオケルームなどがある。週に一度はディスコ(?)パーティ、カラオケ大会などがあるという。
また、日系のある工場では、定期的にバス旅行を行なうという。「一度に社員全員は無理です。何班かに分けて実施します。行き先は、社内でアンケートを行なって、社員たちが自分達で決めています」と福利厚生担当のT氏。もっとも人気があるのは、意外にもシンセンだという。シンセンは経済特区で、特区内には通行許可証がないと自由に出入りできない。近代的なビル群、ブティックが立ち並ぶストリート、観光にも力を入れているシンセンではテーマパークなど観光施設も充実している。「第二国境を越えて行く経済特区『シンセン』は、彼女達にとって憧れの地。自由主義社会に触れられる別世界なんですよ」と先ほどのS氏。その先の「香港」はというと、遥かなる夢の国。果たしてそのまた先の経済大国「日本」は、彼女達とってどんな世界なのだろうか? 日本にやってくる留学生も少なくはない。多額の資金を捻出し、苦労の末、やっと訪れた日本。勉学に勤しみ、アルバイトに汗を流す留学生の皆さんに、尊敬の念を込めて拍手とエールを送りたい気持ちでいっぱいになった。(続く)
(吉村章)
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