前編にて、自身の撮影手法について語り中編では"撮影・レタッチにおける手法や制作環境"について紹介したヨシダナギさん。後編では、一番印象に残っている撮影など、これまでの作品制作に関するエピソードなどを伺った。

最も心に残った旅 ― ボロロ族との出会い

――これまでの撮影で、一番心に残っているものはありますか?

そうですね、どの旅もすごく思い出深いので選ぶのが難しいですが……ひとつ選ぶとするなら、2017年に撮影したボロロ族でしょうか。5年前からずっと会いたかった民族なんです。

普段はニジェール・ナイジェリア・カメルーン北部のエリアを数世帯の集団で遊牧しながら暮らしているんですが、一年に一度だけボロロ族が砂漠へ集まり、部族一の美男子を決める「ゲレウォール」というコンテストを行う、変わった伝統を持っているんです。

高身長でスタイルも良く、顔立ちもきれいで、フェイスペインティングや衣装も独特。本当にかっこ良いのでずっと会いたかったんですが、近年国の情勢が不安定で、現地の旅行会社も閉鎖してしまっているところが多く、渡航がなかなか叶わなくて……。近隣の国にまず滞在して、そこからガイドさんと一緒に陸路で国境を越えて向かうという方法で、やっと彼らと接触することができました。

――雑誌『PEN』で表紙にもなっている写真ですね。

このとき、本来は彼らの住む地域まで赴いて撮影をしたかったのですが、旅行者には危険すぎるという判断でそこまでは実現できなくて。モデルとなってくれる6人のボロロ族を、私が滞在していた首都のエリアまで1,000キロ以上離れた場所から車で連れて来てもらい、撮影を行いました。

事前に調べたり写真を見たりしていたときには、ボロロ族はプライドが高くて打ち解けるのが難しそうだなという印象を持っていたのですが、実際に会ってみると本当に温かく、理解のある人たちで。移動で絶対に疲れているはずなのに、嫌な顔ひとつせず「次はどんなポーズ? 僕たち全然疲れていないよ」とか、「僕たちをかっこよく撮ろうとしてくれてありがとう」と言ってくれ、非常に濃密な撮影ができましたね。

撮影が終わってからも仲間としての一体感がすごくありました。彼ら自身も、情勢悪化で観光客が減ってしまい、自分たちのことを発信する機会がなくなっているということに危機感を持っていたので。そんなときにちょうど私が飛び込んでいったことに感激してくれたみたいです。

――皆さんの表情からも、良い撮影だったことが伝わってきますね。線路の上での撮影という構図もかっこいいです。

線路や陸橋など、都市的な背景で撮影する少数民族の姿も、また新たな魅力が生まれて面白かったです。彼らの生活圏とは違う都市部での撮影ということで、どうなるかなという不安もあったのですが、SFっぽい不思議な世界観が作れたというか。治安面で制限された環境下での撮影でしたが、結果的にそういった緊迫感のある状況が作品に力を与えてくれた撮影旅行でもありました。

――アフリカの民族以外にも、撮ってみたいと思う被写体はありますか?

ネイティブアメリカン、カナディアンインディアン、中国の少数民族、マヤ文明の衣装をまとったダンサーの人たちなどですね。アフリカの民族に限らず、自分と見た目が違えば違うほど、魅力を感じます。

――自分と姿や文化が違うものの魅力を伝えたいという気持ちを本当に強く持っていらっしゃるんですね。

そうですね。だから、逆にいうと自分が興味を持って、強く惹かれるもの以外は写真に撮ろうというモチベーションが湧かないんです……。なので、日本にいる間は、カメラも埃をかぶってしまっています(笑)。

――ヨシダさんにとって、写真は目的ではなく、想いを伝えるための手段ということなんですね。最後に、今後ヨシダナギとしてやっていきたいことがあれば教えて下さい。

「自分の作品を自分の手で届けに行きたい」と語るヨシダさん。彼らとの再会を強く望んでいることが伝わってきました

私は、フォトグラファーという肩書きをアフリカ人から与えてもらったと思っていて。なので、撮りっぱなしではなく、撮った作品をまた彼らに届けるというところまでやりたいと思っています。

近代化の波によって、少数民族の生活も少しずつ変わって行く部分はどうしてもあって、それは仕方がないと思うんです。でも、その裏で、政府のコントロールによって文化が制限されてしまっている少数民族もいて。「服を着ろ」、「お前たちの文化はみっともない」ということを言ったり、圧力を与えたりすることが行われている。その結果、裸族が自分たちの文化を恥じらい、下着をつけるようになったり、伝統を語りたがらなくなったりしている事実があるんです。それが私はすごく悲しくて。なぜこんなにも美しく、かっこいい人たちがいるのに、それを制限するのだろうって。

だからこそ、私の撮った写真を届けて見てもらうことで、「やっぱり俺たちはかっこいい」と自分たちの文化を改めて誇りに感じてもらいたい。治安や費用面で、渡航がなかなか難しい場所もあるんですが、お礼を伝えることも含めて、できるだけ手渡しで写真集を届けに再訪したいなと思っています。

――ありがとうございました。

<プロフィール>

ヨシダ ナギ
1986年生まれ、フォトグラファー。幼少期からアフリカ人へ強烈な憧れを抱き「大きくなったら彼らのような姿になれる」と信じて生きていたが、自分は日本人だという現実を10歳で両親に突きつけられ、挫折。その後、独学で写真を学び、2009年より単身アフリカへ。アフリカをはじめとする世界中の少数民族を撮影、発表。その唯一無二の色彩と生き方が評価され、TVや雑誌などメディアに多数出演。2017年には日経ビジネス誌「次代を創る100人」に選出される。同年、講談社文化賞(写真部門)受賞。 2018年4月頃、ヨシダナギBEST作品集『HEROES』を発売予定。近著には、写真集『SURI COLLECTION』(いろは出版)、アフリカ渡航中に遭遇した数々のエピソードをまとめた紀行本『ヨシダ、裸でアフリカをゆく』(扶桑社)がある。

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