指出一正 (さしでかずまさ)。上智大学法学部国際関係法学科卒業。ソーシャル・エコに注目した雑誌『ソトコト』の編集長。「地方移住」に関する様々なセミナーに登壇するほか、各地の地域づくり事業のディレクターを務める。主な著書は『ぼくらは地方で幸せを見つける (ソトコト流ローカル再生論)』など。趣味はフライフィッシング

関係人口が増えると町が幸せに

――今回の著書には指出編集長がメイン講師を務められている「しまコトアカデミー」について書かれています。改めて、「しまコトアカデミー」がどういうプロジェクトなのか教えていただけますか?

指出 今年で6回目となった「しまコトアカデミー」は、元々は島根県さんとソトコト、シーズ総研の藤原啓社長が中心となり始まったプロジェクトでした。プロジェクトが始動したのは、島根県のことをあまり知らない方や島根県から離れた方々に、島根県の価値観、豊さなどをより密接に感じてもらえるような行動に繋がることをしたいと考えたからです。平たく言えば、移住せずに島根県に関わるためにはどうすればいいのか、それを考えるために始まった講座ですね。

「しまコトアカデミー」グループワークの様子

――なぜ、「島根県」だったのでしょうか?

指出 「しまコトアカデミー」が始動する頃は、世間的にも「移住・定住」への取り組みが躍起になっているタイミングだったと思います。ただ、島根県さんは過疎が進んでいた地方のひとつで、もうかれこれ25年程は「移住・定住」問題について取り組んでいたんですよ。その取り組みのなかで恐らく、「移住・定住」の考え方だけでは人口が減っていく時代のなかで仲間を増やせないという”風”をなんとなく感じられたんだと思います。そうして、問題をどうにかしたいと考えた島根県さんに地域振興、産業振興のお手伝いをするシーズ総研さん、弊社がプロジェクトに加わることで「しまコトアカデミー」がスタートしました。

――実際に「しまコトアカデミー」にはどういう方々が参加されているのでしょうか?

指出 幅広い年齢・考えの方が参加されています。比較的多感で、社会そのものを面白いと感じている若い年齢層が多いような気がしますね。そういう「社会に可能性を感じている方々」は特に「関係人口」になりやすい。地域には興味があるけど、移住にはなかなか踏み出せないという方々にとって、「関係人口」はピッタリとハマる言葉だったんだと思います。今までのように「移住・定住」にとらわれなくても、地域と接点を持っていいんだという考え方・言葉が、ポジティブに地域と関われるきっかけになったんだと思いますね。

「しまコトアカデミー」インターンシップの風景(海士町)

――著者の田中さんは「関係人口」を「住んでいなくても地域を応援する仲間」と表現されていました。

指出 そうですね。たった1日でもその地域と関わることで社会が開けて、自分の関心がその場所に置かれている仲間が「関係人口」なのかなと思います。

――「関係人口」が増えると最終的にどうなっていくと考えられますか?

指出 町が幸せになるでしょうね。町が退屈な理由は、関わっている人がいないからなんですよ。決して住民数が少ないからではない。例えば「関係人口」が多くなれば、小さなマルシェやバザーが生まれるケースがあります。また、少子化で悩んでいるような地域であれば、子供のための施策を考えるような人も出てくるかもしれません。このように、「関係人口」が増えることで町が元気になり、幸せになっていくでしょうね。

――「移住・定住」をゴールに定めないというということですね。私も地方出身で、東京で働きながらも何か地元に貢献できないか、と考えています。そういう人にとって「関係人口」という言葉は救いになるような気がしています。しかし、「関係人口」が増えても、実際のところ「移住・定住」をしなければ最終的には村や町が存続できなくなる、ということになりませんか?

指出 最近になって人口減少などの話題がよく取り上げられるようになりましたが、1960年代には廃村ブームと呼ばれる時代がありました。つまり、その土地に住めないなどの問題はいまに始まったことじゃないんですよ。もしかすると長いスパンで見ると、町や村という概念はなくなってもいいのかもしれません。むしろ、その場所に住んでいる人が幸せに暮らしていければいいのではないでしょうか。そういう意味では「関係人口」と町や村の存続というのは別ベクトルのお話だと思います。

――「関係人口」が増えることと、「移住・定住者」は相反するものではない?

指出 そうですね。むしろ「関係人口」としてその地域に関わった人が「移住・定住」するケースはそれほど少なくないと思います。いつか専門家の方に調査してほしいくらいですね(笑)。「しまコトアカデミー」の例で言えば、僕たちが想像している以上に島根県に戻ったり、移り住んでくれたりしている人がいます。

「しまコトアカデミー」受講生のなかには実際に島根県に移り住んだ方も少なくないという

――実例があるとより説得力があります。今回の著書には「しまコトアカデミー」のより詳しい概要や「関係人口」について書かれていますが、どのような方々に読んでいただきたいとお考えですか?

指出 まずは地方と「関わりしろ」を作りたいと思っている方々に読んでいただきたいですね。「移住・定住」はどうしてもハードルが高いので、「移住しなくても地域に関わりたい」と思っている方はぜひ「関係人口」のことを知ってもらいたいです。あとは自分が「関係人口かも」と感じていらっしゃる方も、この本で答え合わせをしてもらえたら嬉しいですね。もちろん、市・町の関係者や行政の方々、また町や村を愛する地域の皆さんにも読んでいただきたいです。

さらに、社会学に興味がある方は「関係人口」という言葉が想像以上に大きなうねりになっていますので、この本をぜひ手に取っていただければと思います。ことしの11月には全国町村会と一般財団法人地域活性化センターが主催して「関係人口」についてのシンポジウムも行うくらい、専門機関からも注目していただいているので、学びのテーマとしても取り上げていただきたいですね。


今回お話をうかがったお二人が関わった著書「関係人口をつくるー定住でも交流でもないローカルイノベーション」は10月24日に全国の書店にて販売予定。 Amazonでは事前予約も開始している。「関係人口」について、また地域の在り方について興味のある方はぜひお手に取っていただきたい。

本記事では最後に、本著書の企画を立案し、お話をうかがったお二人からも名前の挙がったシーズ総合政策研究所・藤原啓社長の想いを紹介する。

シーズ総研・藤原社長の想い

「しまコトアカデミー」は、地方創生に先駆けて6年前にスタートしたのですが、移住を求めた地方創生に対して、はじめから移住ではなく、「つながり」を目的としていました。そういう意味でオルタナティブな志向を持った取り組みだったと思います。

その後、指出編集長という稀有な存在への支持の高まりを通して、関係人口という概念が急速に普及していきました。こうした背景と、これまで島根県内で地域づくりに取り組んできた人たちの活躍に光があたったことなどから、「しまコト」も注目していただけるようになったのですが、弊社としては、「しまコト」のはじまりそのものが、偶然の関係性が紡いだ物語であることを知っていただきたかったのです。

マーケティングや戦略性ばかりが叫ばれる地域政策が増え、賞賛されています。そのことを否定するのではないのですが、「しまコト」はそうした戦略とは遠いところにある、善意の偶然性が生み出したギフトのような活動のように感じます。島根県や地方のまちむらには、『関係人口』を生み出していく上での「善意のつながり」という無形の資産がたくさん蓄積されています。そこに次の社会の希望を考えるヒントがあるように思っています。

そのことを伝えるのにもっともふさわしい作家である田中輝美さんに執筆いただいたこと、ソトコトのしまコトメンバーである橋本安奈さんに編集を担当いただいたことに心から感謝しています。

この本が、地域の未来を考えてみたい方にお読みいただけることを願っています。

タイトル:「関係人口をつくるー定住でも交流でもないローカルイノベーション」 定価:本体1.512円(税別) 発売日:2017年10月24日(9月25日より Amazonで予約受付中 )

[PR]提供:シーズ総合研究所