【特別企画】

秘密は直径1.3mmの凹みにあり-「飛ぶゴルフボール」を追求するミズノ

機械製品開発で一般的である、モデルを用いた数値解析は、スポーツの分野にも取り入れられている。7月25・26日に都内で開催された、アルテアエンジニアリングが主催する国内最大級のCAE、HPCに関するユーザー会、「2017 Japan Altair テクノロジーカンファレンス」では、ユーザーセッションに世界的総合スポーツ用品メーカーであるミズノが登壇。ゴルフボールの「飛び」を左右するディンプル(表面の凹み)について、最新の乱流遷移モデルを用いた解析への取り組みを発表した。本稿では、同社 研究開発部 要素技術研究開発課 鷲田雄大氏へのインタビューの様子をお届けする。

ミズノ 研究開発部 要素技術研究開発課 鷲田雄大氏

ゴルフボールを遠くに飛ばすためには?

――研究開発部 要素技術研究開発課という部署、そして鷲田様は現在どのような研究を行っているのでしょうか。

要素技術研究開発課は、当社の研究開発部門に属しており、シミュレーションやバイオメカニクスなどを駆使して先行的な研究開発を行っています。また、製品開発チームとの連携を通じて、その成果を製品へと反映させることも行っています。

――要素技術研究開発課では、数値解析をどのように活用しているのでしょうか。

数値解析については、流体解析以外に静解析や動解析などのソフトウェアを活用しています。例えば野球バットやゴルフクラブとボールの衝突挙動の解析や、シューズのクッション性評価解析、筋骨格シミュレーションを用いた動作の分析などを行っています。また、Virtual Body Designという独自技術を開発し皮膚の伸び縮みを考慮したスポーツ衣料品の設計に応用しています。

――今回の講演のテーマはゴルフボールの解析でしたね。ディンプルが飛びを改善するということは知られていますが、何らかの規定はあるのでしょうか。

ゴルフボールは国際ルールで直径42.67mm以上、重量45.93g以下と規定されていますが、ディンプル形状、深さ、個数に決まりはなく、各社各様に工夫しています。実際、ディンプル数にしても、現在登録されているボールでは252~566個と幅があるのです。

――ディンプルは数の違いのほか、深さなどさまざまな要素がありますね。今回の講演内容は、ボールの飛びを左右する要素として深さの違いに着目していましたが、一般的にどのような変化が知られていますか。

まずボールの飛距離は、速度、打ち出し角度、スピン量に影響されます。飛び出した後のボールは空気の中を回転しながら飛ぶわけですが、このときボールの速度・回転速度によりボール周辺の空気の流れが変化します。さらなる飛びのためには抗力を減らすことと適度な揚力を得ることの両方が必要です。

揚力は、ボールの回転により上下の空気の流れが変わり、その圧力差で生み出されます。抗力は、ディンプルがボール周辺の空気の流れを乱すことで剥離点が後退し、低圧部が小さくなることで下がります。一般的に、浅いディンプルは深いディンプルと比べると揚力が大きくなる傾向があります。しかし、低速低回転においては揚力が急激に減少するという問題もあるのです。

――御社の最新製品「JPX DE」は、通常ディンプル272個に加え、小さなディンプルを294個、合計566のディンプルを施して飛びを改善したとのことでした。

そうです。飛んだ後の前半は主に通常ディンプルによる揚力で高く上がり、後半には、この直径1.3mmのプチディンプルが効果を発揮することで浅いディンプルながらも高い揚力を維持し、落下角度を緩くする効果が得られます。これによりトータルの飛びを向上させることができました。

――このJPX DEはどのように開発を行ったのでしょうか。

当社では現在、ゴルフボールディンプル開発は試作品を実験的に計測して改良を行っています。製造子会社であるミズノテクニクス株式会社養老工場に、ランチャーマシンやロボットテスト、風洞実験装置など専用の計測環境を保有しており、これらを利用して、実験をベースとした開発を行っています。一部解析も利用していますが、幅広い速度、回転数を持つゴルフボールの流体解析では最終設計への活用が不十分でした。一部の研究機関ではスパコンを用いた詳細な非定常解析を行っていますが、そのような計算リソースを用意するのは難しく、よりシンプルな環境で解析できるようにしたいと考えていました。

メッシュ作成と計算量の負荷を軽減した解析を実現

――今回のゴルフボール解析は、スパコンを使わずに済む程度に計算量を抑えたモデルを確立させるといった目的だったのですね。

具体的には、回転状態を完全に再現する非定常解析でなく、回転状態を考慮した項を基礎方程式に盛り込んだ定常解析モデルを確立させるのがねらいです。

――解析には、アルテアエンジニアリングが提供するAcuSolveの最新バージョン2017を使ったとのことですが、その選定理由は何でしょうか。

AcuSolveの存在は以前から知っていました。一般的に、数値解析のための空間格子の作成は高度な技術が必要でハードルが高いものですが、AcuSolveは有限要素法を用いた流体ソフトで、解析結果がメッシュ品質に依存せず、またメッシュ数も比較的少なく計算できる利点があり注目していたのです。そして今回は、2015年に論文発表されたばかりの乱流遷移モデルを早くもバージョン2017で取り入れたというので、AcuSolveを使ってみることにしました。ディンプル形状違いというわずかな変化を数値解析で捉えるためには、この乱流遷移モデルがないと難しいと考えていたのです。

――今回の検証では、ディンプルの深いボールと浅いボールのインパクト後の飛びについて、乱流遷移モデルを使ったAcuSolveの解析結果を実際の計測結果と比較する形で行っていましたね。

乱流遷移モデルの解析結果は、風洞実験の結果とかなり一致しました。高速高回転時は浅いディンプルの方が高揚力である一方、低速低回転時時は浅いディンプルの方が低下しがち、といった結果がきちんと出ています。これまでのモデルでは一部に実験結果との乖離がみられましたが、大きく改善できました。

――それでいて、空間格子作成の負担だけでなく計算量もかなり抑えられたとのことですね。

有限要素法では空間格子作成に気を遣う必要があまりなく、空間格子は約5000万要素、ワークステーションで条件あたり約16時間の計算でした。実際にAcuSolveを使ってみて実感したのは、空間格子等の条件に捉われすぎず、実験と同様の状態を再現するにはどのような解析条件が良いか検討することに専念できたということですね。

製品開発チームにも数値解析を提案していきたい

――数値解析ならではのメリットとしては、どのようなものがあるでしょうか。

実験だけでは判別が難しかった、剥離点の位置などを細かく見ることができるようになりました。例えば、浅いディンプルは高速高回転の条件のとき、剥離点が後方になることが解析結果から明瞭にわかります。また、低速低回転条件のときは、浅いディンプルは剥離点が前方に変化することがわかります。一方で、深いディンプルは同条件でも、流れが剥離してもディンプル後方のエッジで再付着しており、剥離点が比較的後ろであることが確認できます。さらに非定常解析と組み合わせることができれば、より詳細な現象を把握することができます。

解析結果:剥離点が流れに影響を与える

――将来的には、例えば打ち出し条件とかの差も考慮した総合的なモデルへと発展していくのでしょうか。

もちろん、インパクトからのすべてをシミュレートできることが理想です。しかし、計算コストが莫大になってしまう場合は現実的ではありません。簡易な条件で実際の条件を十分に再現できる解析も設計には重要であるため、そこにも注力して解析を行いたいです。

――最後に、今後の展望についてお聞かせください。

今回の解析で実製品の設計へ活用する手ごたえを得ることができました。まだ一部に解析結果と実験結果のズレがあるので、改良した上で、上流設計に取り入れることを製品開発チームに提案していくつもりです。

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