「クラウドファースト」は、今や多くの企業の標準となりつつある。総務省の報告(平成28年版情報通信白書)では、クラウドサービスを「全社的に利用している」という企業の割合が2年前と比較し約9.2%増加していることがみてとれる。同調査ではおよそ6割となる59.5%の企業が、クラウドサービスを全面利用、一部利用、もしくは今後利用する可能性があることも報告しており、クライアント/サーバ モデルから脱却を検討する企業は多数を占めている。こうした時代の変化は、ユーザー企業だけでなくシステムインテグレータへもビジネスシフトの決断を迫っているといえよう。

独立系ネットワークインテグレータであるネットワンシステムズ株式会社では、この動きを兼ねてから見据え、2008年から事業のクラウドシフトを推し進めてきた。同社が目指すのは、ハイブリッドクラウド、マルチクラウドなど様々な形式のクラウド活用を支援する「クラウドブローカー」の確立だ。同サービスの確立と品質向上を進めるべく、同社では2017年、レッドハットが提供する「Red Hat OpenStack Platform」を活用したサービス共通基盤を構築。顧客へサービス提供を開始するまでのリードタイムの短縮や、顧客側のコスト負担の低減など、大きな成果を生み出している。

ビジネス課題
従来、サービスごと個別にハードウェア、ミドルウェアを選定し、各々の基盤でアプリケーションを構築してきた。しかし、顧客へサービスを提供するまでのリードタイム、調達や運用コストなどが大きな課題に。サービス品質の向上においては、各サービスで横断して利用可能なプライベートクラウド環境を構築が必要だった。
ソフトウェアとサービス
・Red Hat OpenStack Platform
利点
・優れた信頼性とサポート、OSSとの連携性を持つRed Hat OpenStack Platformを採用する事で、プロジェクトはスムーズに進行。わずか6か月という短期間で、サービス共通基盤の構築を完了できた
・セルフサービス型を取り入れたプライベートクラウド環境の構築により、顧客へのサービス提供までのリードタイムを劇的に短縮
・運用コストが従来比で50%も削減され、顧客側へのコスト負荷も低減。先のリードタイム短縮とあわせ、同社のサービス品質を大きく向上することができた

クラウドビルダーとして高い価値を持ったサービスを提供すべく、
インフラ基盤の刷新を計画

ネットワンシステムズ カスタマーサービス本部 運用サービス開発部 部長 林 龍太氏

"つなぐ"、"むすぶ"技術のプロ集団として、企業のネットワークインテグレートを支援してきた、ネットワンシステムズ株式会社(以下、ネットワンシステムズ)。長年の事業展開で培った高度な技術を次代でも活かすべく、同社では「クラウドインテグレータ」を次世代ネットワーク・コンピューティングのあるべき姿と見定め、2008年よりビジネスのクラウドシフトを推し進めてきた。ネットワンシステムズが目指すクラウドインテグレータ像は非常にユニークで、単にクラウド環境を構築するということに留まらない。マルチクラウド間の安全な接続、クラウドを含むIT基盤全体の運用など、「クラウドに関するあらゆる顧客課題の解決」を通じて顧客の成長を支援するというものであり、同社ではこれを「クラウドブローカー」と定義している。

クラウドブローカーとして高い価値を提供するには、さまざまなクラウドサービスと連携するための技術が不可欠だ。同社ではこの技術としてOpenStackに注目。2013年より、自社内でエンジニアの育成に努めてきた。2017年3月段階では、認定資格であるRHCSA Red Hat OpenStackの保有者数を100名以上にまで伸ばしている。

ネットワンシステムズ株式会社 カスタマーサービス本部 運用サービス開発部 部長の林 龍太氏は、同社がOpenStackに注目した理由について次のように説明する。

「エンタープライズの基幹システムへの採用など、パブリッククラウドの適用領域は急速に拡大しています。各ベンダーが提供するクラウドサービスにはそれぞれ特色、得手不得手があり、個々のシステムに求められる要件もまた異なるため、近い将来で、1つの企業が複数のクラウドサービスを活用する『マルチクラウド』の世界があたり前になるだろうと推測しました。クラウドブローカーとしてそこへ対応するには、どのクラウドサービスにも対応できる『オープン』な技術を有することが非常に重要になります。OpenStackは単体で稼働させるというより、周辺の機器や様々なサービスと連携させることで価値を生むものです。これはまさに当社が必要なオープン性であり、クラウドブローカーの価値を高めるものとなるだろうと考えたのです。」(林氏)

数年かけてOpenStackの技術を磨いてきたネットワンシステムズ。この取り組みを本格化すべく、同社がいま積極的に取り組んでいるのが、新サービスの開発と、それを支えるためのサービス共通基盤の刷新だ。

サービス共通基盤とは、ネットワンシステムズが提供する「クラウドHUB」や「クラウドSD-WANサービス」「DIMS(Device Information Management Service)」といったさまざまなサービスで共通して利用するプラットフォームを指す。従来は、サービスごと個別にハードウェア、ミドルウェアを選定し、各々の基盤でアプリケーションを構築、それを顧客へ提供していた。サービスが5つあれば、5つのシステムを個別に構築、運用する必要があったわけだ。

ネットワンシステムズ ビジネス推進本部 商品企画部 クラウドプラットフォームチーム エキスパート 岩本 信之氏

しかし、林氏が語るとおりクラウドサービスの普及に伴い、多様なニーズへ迅速且つ柔軟に対応していくことが求められるなか、こうした個別のシステム構築では問題が出始めたという。 ネットワンシステムズ株式会社 ビジネス推進本部 商品企画部 クラウドプラットフォームチーム エキスパート 岩本 信之氏は、従来のサービス基盤の課題について次のように説明する。

「システムごとでハードウェア、ミドルウェアを選定するため、調達や設計、構築に時間がかかり、調達や運用コストも個別に必要でした。こうしたコストは、お客さまへ負担いただく金額にも影響するため、結果として『サービスは優れているがそこまでの投資はできない』といった意見も受けることがありました。こうした意見にも表れるように、確実にニーズがあるサービスゆえに、いかに低コスト且つスピーディーに提供していくかが課題だったのです。」(岩本氏)

こうした背景から、ネットワンシステムズでは同社が提供する各クラウドサービスで横断して利用できるサービス共通基盤の構築を検討。そのための專門組織としてあらたに「運用サービス開発部」を設置し、2016年4月より計画が進められた。

サービス共通基盤の構築では、ファシリティやリソースの集約により、個別に時間や手間の大幅な削減が期待できた。ネットワンシステムズ株式会社 カスタマーサービス本部 運用サービス開発部の福地 裕樹氏は、具体的なメリットについて、「共通基盤を一元的に管理し、同時に自動化も進めることで、ニーズに応じた機敏なサービス展開が可能になります。構築・運用業務の属人化も防ぐことができ、またパッチ処理も共通して適用できるため、システムの稼働性向上にもつながります。さらに、当社としてこうしたマルチクラウドに対応したプライベートクラウド環境を自ら構築・運用することにより、ナレッジやノウハウが蓄積することとなります。これは結果として、顧客へ提供するサービス品質の向上につながると期待しました。」と語る。

これまでの提供基盤(左)と、構築が進められたサービス共通基盤(右)

高い信頼性とOSSとの連携性を背景とし、
Red Hat OpenStack Platform以外を採用する理由が無かった

ネットワンシステムズ カスタマーサービス本部 運用サービス開発部 福地 裕樹氏

ネットワンシステムズが新たに構築したサービス共通基盤では、監視や自動化をはじめとする多くのコンポーネントでオープンソースが利用されている。SDNやSDSなど高い信頼性が求められるコンポーネントにはコマーシャルソース(商用ソフト)を採用。クラウド環境を構築する上で核となるOpenStackディストリビューションには、レッドハットの「Red Hat OpenStack Platform」が採用された。

福地氏と岩本氏は、いくつか存在するディストリビューションの中でRed Hat OpenStack Platformを採用した理由として、信頼性と優れたサポートを挙げる。

「当社は『マルチベンダー』を基本的なポリシーとしています。そのため、選定においてはRed Hat OpenStack Platformだけでなく、CanonicalやMetacloudなど複数のディストリビューションで比較検証を行いました。サービス共通基盤の根幹であるディストリビューションには、特に高い信頼性が求められます。OpenStackにまつわる多くの不具合は、サーバやネットワークといった下層レイヤーを起因に発生しますが、Red Hat OpenStack Platformはこうした下層レイヤーまで動作検証がなされています。その水準や網羅性は、他と比較しても非常に高レベルでした。」(福地氏)

「多くのサービスに共通していることは、国内に拠点が無い、または(買収などを背景に)拠点はあるものの国内でのサービス提供実績が長くない、という点です。構築や運用においてベンダーサポートは欠かすことができず、先の共通要素は少なからずサポートレベルに影響を及ぼします。レッドハットはRed Hat Enterprise Linuxの提供を国内で20年以上続けており、日本においても高いレベルでサポートいただけることが期待できました。グローバルで多くの実績を持っている点も、大きなポイントでした。」(岩本氏)

続けて林氏は、商用ディストリビューションでありがながら、オープンソースコミュニティへの貢献度が高く、運用自動化に向けた製品を展開する点も魅力だったと語ります。

「柔軟性を持った基盤の構築には、オープンソースとコマーシャルソースをニーズに応じてうまく使い分ける必要があります。レッドハットは、クラウド管理のCloudFormsや、新たにグループに加えたオートメーションのAnsibleといったオープンソースを自ら展開するベンダーです。こうしたオープンソースの展開で得られた新しい技術や知見は、積極的にコマーシャル製品側へ取り入れられています。クラウド基盤としての有効性、そして、その周辺のオープンソースとの連携性を考慮した場合、Red Hat OpenStack Platform以外を採用することは考えにくい状況でした。」(林氏)

SDS、SDN、OpenStackディストリビューションを除くコンポーネントには基本的にオープンソースを使用。自動化機能については、レッドハットが展開するAnsibleが採用されている

ネットワンシステムズではサービス共通基盤の構築を2016年7月より着手し、わずか半年後の2017年1月には同基盤上で一部サービスの稼働を開始。同年3月から、サービス共通基盤の本格稼動をスタートしている。

スピーディーなサービス開発が可能に
トータルコストは5年で半減

大規模な基盤構築をここまで短期に完成できた背景には、運用サービス開発部が中心となり、アジャイル開発の手法とDevOpsの取り組みを積極的に推進したことがある。そこではRed Hat OpenStack Platformの各ツールやレッドハットのサポートも大いに貢献したと、岩本氏は語る。

「プロジェクトでは、基盤・自動化設計、運用設計、運用自動化の検討、運用自動化に向けた組織づくり(DevOps)が並行して進められました。基盤・自動化設計においては、インストールを支援するOpenStack Platform Directorをはじめとし、Red Hat OpenStack Platformが備えるツールを活用することでスムーズに進行することができました。また、構築の中で構想どおりに動作しないという場面でも、レッドハットより迅速にサポートいただけたため、結果として費用と期間を大きく削減することができました。これは、『Red Hat OpenStack Platformを使った基盤の短期構築』というナレッジを蓄積する意味でも、非常に有益だったと考えます。」(岩本氏)。

こうして新たに稼動を開始したサービス共通基盤だが、その特徴は大きく次の3つが挙げられる。まず1つは、独自のインフラ管理コントローラを提供していること。サービス共通基盤では、ネットワンシステムズが独自開発したNetOne Cloud Managerを利用し、インフラを統合管理することができる。共通化されたインフラを管理するため、設計や検証を個別に実施する必要がない。これにより新しいサービスの開発と提供がこれまで以上に高速且つ柔軟に行えるようになった。

2つめは、物理・仮想ネットワークのSDNコントローラによる一元管理だ。物理・仮想スイッチを統合管理することで、OpenStackテナントをファブリック上に自動展開できる。また、物理・仮想スイッチのすべてのポイントでルーティングの分散処理を行うことも可能で、これによりネットワーク性能のボトルネックが解消された。

そして最後の特徴は、自動化である。定常的に発生する運用業務を自動化することで、運用や増設にかかっていた工数を削減。その削減した時間を新たな付加価値の創出に注力できるようになった。林氏は、サービス共通基盤が備えるこれらの特徴によって、これまで以上に高い価値が顧客へ提供できるようになったと笑顔をみせる。

「エンジニアはNetOne Cloud Managerを利用することで、ポータルサイトからセルフサービスでインフラの調達が可能です。これまでインフラ構築には、申請から払い出しまで2週間程度の期間を要していました。現在はそれが2日ほどにまで短縮されており、これは劇的な変化です。申請自体は数分で済みますし、仮想マシンのデプロイに要する時間も数分です。これは、お客様へのサービス提供を開始するまでのリードタイムに直結するため、ビジネススピードを飛躍的に向上できたと考えています。」(林氏)

サービス共通基盤を利用する業務フロー図。セルフサービス型を取り入れることで、顧客へサービスを提供するまでのリードタイムは大幅に圧縮された

ビジネススピードだけでなく、顧客が負担するコストの低減という観点でも、サービス共通基盤は大きな成果を生み出しているという。先のとおり、共通基盤を利用するサービスには、クラウドHUB、クラウドSD-WAN、カスタマーポータル、DIMS、エキスパートオペレーションセンター(XOC)運用監視などがある。これらの累計コストは、既存サービスと比較して初年度はほぼ同額だが、運用を続けても増え続けることがない。結果として、5年間で運用コストを50%削減できる見通しであり、これが顧客側のコスト負担の削減にもつながるのだ。

サービス共通基盤を構築したことで生まれた、案件の各工程におけるメリット

クラウドビルダーというビジョンを支える強固な基盤に

サービス共通基盤の構築、そして今回あわせて取り組んだDevOps体制により、ネットワンシステムズの人員が一丸となってシナジーを生み出す、サービス品質を高めていくための基盤が整備された。 この取り組みが大きな成果を生み出せたポイントとして、林氏は「サービス共通基盤の構築やDevOpsには全社的な取り組みが必要になります。プラットフォームに何を採用するか、既存のシステムやツールをどう生かすかといった構想段階から、專門的な組織を作って取り組んでいくことが重要だと思います。ここで重要なことは、社内に限らず、ベンダーを始めとした外部の専門家の人員にも頼るということです。」と語る。 続けて福地氏は、「基盤刷新の取り組みを推進し、社内にナレッジを蓄積するうえでは、レッドハットのサポートは大きな力になりました。単に基盤ソフトを導入するというだけでなく、顧客に向けたサービスを提供するパートナーとして、協力して取り組みを進めることが非常に重要だと思います。今後、お客様の案件によっては商用のAnsible TowerやCloudFormsを採用することもあると思います。そうした場面でも、レッドハットには密な支援を期待したいですね。」と話す。

顧客の成長を支援すべく、クラウドブローカーとして高い品質のサービス提供を目指すネットワンシステムズ。Red Hat OpenStack Platformを核に構築したサービス共通基盤は、同社のビジョンを支える強固な基盤として、今後も大きな役割を果たしていくことだろう。

[PR]提供: