65歳以上の高齢者が人口の27%を超える(※)など、日本は世界でも類を見ない高齢社会だ。寿命がのびることは喜ばしいことだが、一方で「どれだけ健康に長生きできるか」も大切なこと。厚生労働省によると2025年には高齢者の5人に1人が認知症患者になると予想されており、体の健康のみならず、「脳の健康」についても今後、大きな社会問題となる可能性がある。

そのような中、東北大学加齢医学研究所教授の瀧靖之先生は、脳のMRI画像をもとに脳の発達と加齢の研究をすすめており、「生涯健康脳」の重要性を説いている。数千人にも及ぶデータをもとに「生涯健康脳」を持つ人には共通の生活習慣があることを突き止めたという瀧先生に、健康に長生きするための秘訣を聞いた。

瀧靖之(たきやすゆき)
1970年生まれ。医師。医学博士。東北大学加齢医学研究所教授。東北大学大学院医学系研究科博士課程修了。東北大学加齢医学研究所機能画像医学研究分野教授。東北大学東北メディカル・メガバンク機構教授。読影や解析をした脳MRIはこれまでに16万人にのぼる。著書に「生涯健康脳:こんなカンタンなことで 脳は一生、健康でいられる! いきいき健康シリーズ」「16万人の脳画像を見てきた脳医学者が教える「賢い子」に育てる究極のコツ」など。

「生涯健康脳」とは?

──そもそも「生涯健康脳」とは、どのような脳のことなのでしょうか。

生涯にわたって健康な脳、つまり健やかに育ち、その状態を保ちながらゆるやかに加齢していく脳のことです。超高齢社会の日本では、認知症が問題となっています。年をとってから認知症を防ぐことはもちろん、脳をどのように健やかに育て、維持するかということも実は大切なんです。子どものころからの習慣が「生涯健康脳」につながっているんですよ。

──子どものころからの習慣が大切なんですね。では、大人になってしまった私達が、今から「生涯健康脳」を作るにはどうしたら良いのでしょうか。

以前、認知症は予防のできない疾患だといわれていました。しかし現在では、生活習慣によって認知症のリスクを下げられることが分かっています。私が所属する東北大学加齢医学研究所では、数千人規模の脳のMRI画像や生活習慣、認知力など、様々なデータをもとに脳の発達と加齢について研究しています。脳のMRI画像を見ると、脳がどれくらい発達しているか、または萎縮しているかが分かります。膨大なデータを解析することで、どういう生活習慣が脳の発達を促進し、あるいは脳の加齢をできるだけ抑えて認知力を保つのか、統計学的に分かるのです。私達の研究から、認知症リスクが低い大人は共通した生活習慣を持っていることが分かりました。

認知症リスクの低い生活習慣とは?

──「生涯健康脳」を作る生活習慣ですか。ぜひ教えてください!

医学的見地からいうと、極めて確からしい(=効果が認められる)、認知症のリスクを下げる要因は3つです。第一に「運動」。30分程度、ウォーキングのような軽い有酸素運動で良いので、習慣化することが大切です。次に効果的なのが「趣味」・「好奇心」です。知的好奇心は脳の栄養となって認知症のリスクを下げてくれるんです。そして3つ目は「コミュニケーション」・「社会との関わり」。独居に閉じこもるより、社会に出て活動したり、友人や家族などとできるだけコミュニケーションをとったりすることが大切です。 この3つの後に、「食事」、「睡眠」、「認知トレーニング」などと続いていきますが、まずはこの三本柱が重要です。生活習慣を変えることで認知症のリスクは確実に下げられます。とても簡単ですし、やって悪いことはないので、どんどん取り入れてほしい習慣ですね。

──これらの習慣は、何歳ごろから始めれば良いのでしょうか。

実は、脳の老化は20代から始まっているんです。ですから高齢になってから始めれば良いというものではなく、なるべく早い時期から運動習慣や趣味、コミュニケーションなどに気をつけたほうが、脳の加齢を抑えるためには良いです。それに、仕事をリタイアした60歳や70歳になってから趣味を新しく作ろうと思っても、なかなか難しいものです。ですから働き盛りの時にこそ、趣味を見つけ、仕事以外の趣味の友達を作っておくことが大切です。仕事をリタイアしても切れない、生涯続く縁ですね。

ただ、誤解のないように付け加えておくと、遅すぎることは何一つありません。脳の発達自体は思春期のころに終わってしまっても、脳には「可塑性」(かそせい)といって、変化する力が備わっています。脳は外部からの刺激によって新しく神経ネットワークを張り直すことができるため、若いころに比べて時間がかかるにせよ、何歳から何を始めても、確実に能力をのばすことができるんです。何歳になっても好奇心を持って、いろいろなことに取り組んでいってほしいですね。

認知症リスクを下げる「糖質」

──他に、認知症リスクを下げるために気をつけることは何かありますか?

先程あげた三本柱以外に、食事も重要です。世界中の研究で、中年期の肥満、糖尿病や動脈硬化が、高齢期の認知症リスクを上げることが分かっています。これらの原因となる血圧・血糖・中性脂肪などをコントロールすることが、認知症リスクを下げることにつながります。なかでも、血糖をコントロールする上で重要になるのがGI(Glycemic Index/グリセミック・インデックス)という指標です。認知症のリスクを下げるには低GI食品、つまり血糖値を急激に高めずゆっくりと上げるように、ゆっくり消化吸収される食品をとるように心がけたほうが良いです。

■低GI食品とは?
低GI食品は、ブドウ糖がゆっくりと血液中に取り込まれることから、血糖値の上昇がゆるやかになる食品のこと。そのため、インスリンが正常に働き、ブドウ糖がすみやかに組織に吸収される。 米や麦などは精白度の低いもののほうが、食物繊維やミネラルが残っているため消化吸収がゆっくりとなり、GI値が低くなる。

──ゆっくり消化吸収される食品を食べて、血糖値の急上昇を抑えるのも、認知症リスクを下げることにつながるんですね!

しかも、低GI食品は大人になってから認知症リスクを下げるだけでなく、子どもの脳の発達を促進することも分かっています。私達の研究では、朝食に高GI食品の代表である菓子パンを食べていた子どもよりも、比較的GI値が低い、ご米を食べていた子どものほうが、認知機能が高く、成績が良いという結果が出ています。脳のエネルギー源となるのはブドウ糖であり、発達期である子どもの脳が必要とするブドウ糖の量は、大人の約2倍。なので、血糖値がゆっくり上がって、そのまましばらく維持される低GI食品のほうが、効率よく持続的にブドウ糖を脳に与え続けることができ、脳の発達が促されるのだろうと考えられます。もちろん朝食を抜くのは論外ですよ。

──脳のエネルギーがブドウ糖、ということは、最近流行りの糖質制限ダイエットも脳のことを考えると、あまり良くなさそうですね。

糖質制限ダイエットが脳に与える影響は?

そうですね、ブドウ糖は脳のエネルギー源として非常に重要なので、糖質をとらないと脳がエネルギー切れを起こしてしまいます。糖質制限ダイエットは、脳のためには良くないと思いますよ。糖質制限に限らず、極端な栄養制限というのは何事も良くありません。最近の研究では、地中海食や和食のように、魚介類や野菜中心で低カロリー、良質な油を含み、栄養バランスの良い食事が認知症リスクを低くするのに良いという研究結果も出ています。

偏った食事や栄養制限をせず、普通に健康的な食事をすることが大切ですので、まずはバランスの良い食事を心がけてほしいです。その上で、ゆっくり消化吸収される食品をとるようにするなど、糖質の摂取のしかたに気をつけると良いのではないでしょうか。

瀧先生は「生涯健康脳」を作るための生活習慣から食生活のことまで教えてくださったが、どれも簡単に取り組めることばかりだった。読者の皆さんも、「生涯健康脳」作りに取り組んでみてはいかがだろうか。

(マイナビニュース広告企画 提供:三井製糖株式会社)

(※)総務省 統計からみた我が国の高齢者(65歳以上)より 平成28年9月15日現在推計

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