島根県、松江市――。現存天守を有する松江城の東に、地域と向き合うエキスパートが集結する小さな会社がある。1999年設立、19年目をむかえるシーズ総合政策研究所だ。

2月下旬、同社事業のトレンド、地域のいま・これから、ソーシャル&エコ・マガジン『月刊ソトコト』と手を組み実施してきたプロジェクトなどについて、このシーズ総合政策研究所の代表取締役・藤原啓社長と、『月刊ソトコト』指出一正編集長が語ってくれた。

はじまりは島根・広島 県境の山間の役場から

左から、シーズ総合政策研究所の代表取締役・藤原啓社長と『月刊ソトコト』指出一正編集長

シーズ総合政策研究所を創業したのは、島根県吉田村(現 雲南市)生まれの73歳、現・同社会長の藤原洋。彼は、島根・広島県境の山間にある小さな村、吉田村の役場に勤務し、行政改革、「たたら製鉄遺産」保存・公開・再評価事業などを推進してきた人物だ。

藤原社長「創業者はもともと、小さな役場の村の職員でした。彼が『鉄の歴史村づくり』などを推進した結果、たたら製鉄の遺構や文化の記憶を保存・公開する仕組みができました。その基本戦略は、まず地域のブランド価値を高め、交流を通じて消費者の拡大を図った上で、さまざまな地域産品に付加価値をつけるというもので地域文化と経済活動にブリッジをかけていこうとするものでした。そうした地域の資源を戦略的に生かしていくための人材集団を創ろうという理念が、今の我々の仕事のルーツになっています」

「いきる地域」をつくる3つの柱

同社のコーポレート・アイデンティティは「いきる地域をつくるために」。ここには「土地の力に耳を傾け、それを輝かせる方法を考え、カタチにする。オーダーメイドのまちづくりで、いきる地域をつくる」という想いが込められている。

藤原社長「"いきる地域"とは、化学反応でいう活性化のような"一瞬だけ元気になる"ことではないんです。地域の声に耳を傾け、その土地のポテンシャルを引き出すための足腰を強くするというイメージで、人材の育成や確保を進めながら、そこに地域の人や力が結びつき、融合し、ソーシャルキャピタルを高めていくことが大切だなと思っています」

同社は自社が取り組んできたプロジェクトを、「観る」「描く」「形にする」の3つが柱として表現している。同社の実績をみてみると、島根県の学生が魅力ある地元の企業や団体で課題を見つけ、その解決に取り組むインターンシップ事業「しごとディスカバー in しまね」(形にする)、雑誌『月刊ソトコト』とともに「地域づくり人材の育成」を掲げて取り組む「しまコトアカデミー・ソーシャル人材育成講座」(形にする)、熊本県内での新産業創出プロジェクト(描く)、自治体行政評価制度に市民参加を組み込んだ岐阜県内での「コンセンサス会議」(描く)、経済産業省の地域内企業と行政の連携による雇用プラットフォームをつくる「地域に就職する可能性実証実験」(観る)といったタイトルが並ぶ。

点在する課題を物語化して解を導く

シーズ総合政策研究所の代表取締役・藤原啓社長

「私たちの原点は地方のシンクタンク業務です」という藤原社長は、こういった仕事を進める上でストーリー性の重要さを挙げていた。

藤原社長「たとえば、人材育成。東京で実施しているローカル・プロジェクト以外でも、経済産業省や地域のリーダーとともに、地方の食資源を活かした新商品開発能力を高めるカリキュラムなどを開発・提供しています。スタートから7年経過するなかで、受講生が考えた新商品がヒットするなど地域産業の担い手育成において成果をあげてきました。この研修コンテンツの開発の背景には、スタートの前年に実施した地域産業の担い手100人を対象とする成長プロセス検証調査がありました。地域の産業界で活躍している人材が、若手の頃からいつ転機を迎え、どのようにチャンスを生かしていったのかをインタビュー取材を通じて分析しました。その成果から、我々は、調査のなかで出会った地域リーダーのお一人に監修と講師をお願いすることにしました。地域のなかで成功事例を持ち、そのスキルを汎用化できる人。外からの規格品の持ち込みにならないように、地域の特性などを活かした講座を心がけています」

藤原社長「岐阜・郡上では、地域の経済団体が抱える課題に立ち向かったのですが、我々はそのとき、その課題を一つひとつアプローチするのではなく、ひとつの大きなストーリーとしてまとめていく手法をとりました。たとえば、地元を走る鉄道を利用して沿線ツアーを企画。そこで提供する食の魅力を高めるための地域食メニューの開発、それぞれの駅から郡上の森へと発着できるトレッキングルートの開発と見どころフォトコンテストの開催、街並みや歴史文化に詳しいガイドを育成する「かたりべ育成講座」、地域に根差したNPOで活動する若者にツアーコンシェルジュとして活動してもらうためのビジターセンターの開設、センターには地元の間伐材を用いて地元森林組合が開発した可動式ロッジを活用しました。こうして地域の経済連関性を高めることで、外貨を獲得して地域内で循環させ、収益を上げていく仕組みをつくりました。このように、ストーリー性をつけて取り組んだプロジェクトは、高い評価をいただくことができました」

地方に貢献する人材の育成に注力

「今後は人材育成にも力を注いでいく」と藤原社長。同社の得意分野を活かしながら、次に着目するのは“人材”という。

藤原社長「僕らのさまざまな事業のなかで、共通の価値としてあるものは人材育成。ローカル・プロジェクトによって、教育系や医療系、福祉系など、さまざまな技術・経験を持った人たちが、地域にシフトする仕組みを提供しています。今後は、地方にとっていちばん課題だった『人材の多様化』に向けて課題解決に貢献していきたいですね。そういう考え方でいうと、この人材育成がいちばん、当社の力が発揮できる領域だと考えています」