2016年11月18日、東京・品川で「Zabbix Conference Japan 2016」が開催された。ZabbixはZabbix LLC(ラトビア)が開発・リリースしているオープンソースの監視ソフトウェアで、世界的にユーザー数を増やし続けている。カンファレンスは、ユーザーやパートナー企業が関連情報を共有することを目的としており、日本での開催は今回で4回目、来場者は過去最高の331人に上った。

例年通り、ラトビアから来日したAlexei Vladishev氏(Zabbix LLCの創設者兼CEO)のオープニングスピーチで始まったカンファレンスは、新たな切り口からの活用方法や、導入事例とその成果の紹介など、昨年にも増して盛りだくさんの内容となった。本稿では2回に分けて、当日発表された概要をお届けする。

よりナチュラルに、そしてより大規模に

Zabbix LLC 創設者兼CEO  Alexei Vladishev氏

オープニングスピーチでVladishev氏は、Zabbixを「エンタープライズレベルのユニバーサルオープンソース監視ソリューション」だと定義した。ネットワークの障害検知と予測に限らず、デバイスやOS、ポート、アプリケーション、さらには温湿度管理などあらゆる監視に利用できる柔軟性と普遍性を持ち、ユーザーは大企業から銀行、医療機関、個人ユーザーなど多種多様な分野に拡がっている。初リリースから18年、Zabbixがメジャーになるのにあわせて、開発側がユーザーのニーズを理解する力もついてきたと、Vladishev氏は語る。

TIS株式会社 IT基盤技術推進部 OSS推進室
池田 大輔氏

「かつてはZabbixにどんな機能を入れるかが、私の関心事でした。しかし今は視点が変わり、まずユーザーの方々がZabbixに何を求めているのか、Zabbixで何をしたいのかを聞くことにしています。そして、それを実現するために必要なことを考えるようになりました」

2016年9月にリリースされたばかりのZabbix 3.2にも、こうした考えに基づいた改善と機能追加が行われている。Zabbix技術分科会のメンバーであり、新バージョンの先行検証にも携わっているTISの池田 大輔氏は、Zabbix 3.2に触れた感想を「人が頭で考えるようにナチュラルに使えて、また、より大規模の運用を意識したものになった」と言う。池田氏が講演で紹介したZabbix 3.2の新機能のポイントを以下に抜粋した。

●障害発生条件と復旧条件の指定が分離
これまで障害からの復旧を「障害として指定した条件が満たされなくなった場合」という、「障害の裏返し」的な扱いだけで判定していたが、Zabbix 3.2では新たに復旧条件を指定することも可能になった。判定を直感的かつ柔軟に設定できるため、管理の効率化を期待できる。

●イベントへのタグ付けが可能になり、結果との相関関係が明確に
例えばログに、複数のプロセスにおける障害が書き出されていても、そのうちの一つが復旧を示しただけで、すべての障害が解決したと誤認してしまうケースがあった。Zabbix 3.2ではその改善策として、イベントごとにタグを付けられるようになった。タグの内容を条件指定することで、障害イベントを確実にクローズできるようになっている。

●ホストグループの階層化
Zabbix 3.0まで、ホストグループは「東京DC-1」「大阪DC-1」「ラックNo.110」「ラックNo.210」「Webサーバー」「DBサーバー」のようにすべて並列に表示されていた。3.2からは「東京DC-1/ラックNo.110/Webサーバー」のような階層構造での表示が可能になり、見たい情報へのアクセスがスピーディになった。

●ログのバースト発生対策
Zabbixエージェントがサーバーに送れるログは最大で1,000行/秒だが、これでは障害でログが大量発生したとき、サーバーに最新ログが届くまでに時間がかかってしまう。そこでログ監視アイテムに「maxdelay」(処理終了までの最大秒数)のパラメータを追加できるようになった。エージェントが未チェックのログサイズを確認し、「maxdelay」の時間内に処理できないと判断すれば、処理できる箇所まで自動でログの読み取りを飛ばすことができる。

なお上述の機能のうち「ホストグループの階層化」は、昨年、日本で開催されたカンファレンスの参加者から要望が多かったものだ。Zabbix Japanの代表・寺島 広大氏は、日本法人設立の目的を「ユーザーの課題や問題を解決すること、そしてラトビアの開発チームにニーズや要望をフィードバックすること」だとし、「フィードバックがなければ、ソフトは良くなっていきません」と言う。

「皆さんの声が製品に反映された実績も多くなってきました。例えばZabbix 3.2には他にも『ローレベルディスカバリで作成した設定の変更』『Webシナリオのインポート/エクスポート』といった日本発のリクエストが実装されています。今後も要望があれば、当社やパートナー企業にご相談いただきたいと思います」

Zabbix Japan LLC 代表 寺島 広大氏

Zabbix 3.4、4.0、そしてその先で目指す方向性とは?

Vladishev氏は、2017年にリリースされる予定のZabbix 3.4そして4.0で目指している改善ポイントについても述べた。

「履歴や障害、異常検知などの情報をもっと見やすく、また経営層へのプレゼンにも使えるようにするために、KPIや経営指標なども見せられる次世代ダッシュボードの開発を行っています。また一般的なミドルウェアやデバイスについては、数クリックで監視設定を行えるよう簡略化させ、設定にかかる時間を減らします。さらにモニタリングはデバイス単位ではなく、サービス単位で行えるようにしたいと考えています。Zabbixユーザーが最終的に求めているのは、『エンドユーザーに提供しているサービスの品質が保たれているかどうかを知る』ことですから」

またVladishev氏は今後の展望として、ユーザー企業が利用している各種監視ツールの情報をZabbixで吸い上げて、一つのビューとして提供できるような包括的な監視ソリューションにしていきたいとも語ったが、奇しくもその言葉を先取りするようなデモが、情報通信関連のイベント「Interop Tokyo 2016」(6月8~10日 幕張メッセ)で行われていた。その内容は、IIJイノベーションインスティテュート 技術研究所の阿部 博氏と、Zabbix技術分科会のメンバーでZabbix認定トレーナーでもあるNTTコムソリューションズ 福島 崇氏から紹介された。

「Interop Tokyo 2016」で見せた包括力

「Interop Tokyo」では例年、国内外の最新機器・ツールでネットワークを構築し、来場者や出展者にインターネット環境を提供するShowNetというプロジェクトを実施している。当日NOC(ネットワークオペレーションセンター)チームメンバーとして参加した阿部氏は、ShowNetをこう説明する。

「産業界、学会、研究機関から集まったトップエンジニアが実施する、世界最大級のライブデモンストレーションプロジェクトです。2、3年後に浸透するだろう技術に挑戦するもので、世界初登場、国内初などの製品も利用されます」

株式会社IIJイノベーションインスティテュート 技術研究所 研究員
阿部 博氏

今年のShowNet参加企業数は91社、機材同士を接続するケーブルは30キロにもなったという。このネットワークの中で統合監視用に使われたのがZabbixだった。1,000台程度を監視できるZabbixサーバーZS-7300(2017年発売予定)が導入された。 「Zabbixはプラグインを柔軟につくれるという部分で秀でていて、他社製ツールと連携させやすい」と、阿部氏はZabbix採用の理由を語る。当日の監視対象ホストは731、監視項目は66,000アイテムに上った。現場ではpingが通らない、SNMPに応答しない、監視用のテンプレートがないなどの問題も発生したそうだ。

「pingやSNMPに応答する機器については、Zabbixのネットワークディスカバリ機能でホスト登録と最低限のテンプレート適用を自動化して、スタッフの省力化を図りました。また監視対象のポート数などを自動で検知して、監視設定も自動適用できるローレベルディスカバリ機能が役立ちました」(福島氏)

NTTコムソリューションズ株式会社 マネジメントソリューション事業部 福島 崇氏

ShowNetで使用される機材は製品としてはまだ世に出ていないもの、こなれていないものも多く、ネットワーク構築後も大量のログやアラートが出る。今回のシステムでは、各種監視ツールがそうしたデータを集めてZabbixに転送、一元管理するという構成が採られた。またZabbixはチャットや音声による通知システムとも連携し、障害情報をスタッフに通知する役割も担い、2016年のShowNet成功の一翼を担った。「Zabbixを包括的な監視ソリューションに」というVladishev氏の展望は、現場レベルで着々と実現に近づいているようだ。

次回の記事では「Zabbix Conference Japan 2016」の講演から、Zabbixを自社ビジネスに活用している事例や、Zabbixを利用して提供されるサービスなどについて紹介したものを採り上げる。Zabbixの現状・将来をご理解いただくために、あるいは貴社の課題解決や新規ビジネスのヒントとしていただくために、ぜひそちらも併読されたい。

レポート第2弾はこちらから確認できます。

(マイナビニュース広告企画:提供 Zabbix Japan)

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