スバルの人気車種「インプレッサ」が発売された。次世代車両へのフルモデルチェンジにおいて、軽量化・静音化・高燃費化に大きな効果をもたらしたのは、コンピュータシミュレーションによる「構造最適化」だ。ある条件のもとで部品がどのような形状になれば最も軽くなるのか。あるいは強くなるのか。最適な部品の寸法や厚さ、位相構造などを見つけ出す技術のことである。如何にしてスバルはシミュレーションから新型車両を生みだしたのか。スバル第一技術本部CAE部 原淳史氏へのインタビューをお届けする。

セミナーで自社のCAEの取り組みを紹介する原氏

新たな開発手法による軽量化

――今回のフルモデルチェンジにおいて、特にどういった場面で「構造最適化」は活躍したのでしょうか?

実は、新型インプレッサの開発初期段階では、まだ社内に最適化技術は浸透していませんでした。しかし、解析を扱う部門としては可能性を秘めている技術だと感じていましたし、インパクトのある車を世に出すためには必要であると考えて、積極的に他部門に働きかけました。私はトランスミッションを扱う部門にいるのですが、ドライブプレートやプーリーシャフト、トランスミッションケースといったさまざまな部品の改良において「トポロジー最適化」や「寸法最適化」といった最適化技術が活躍しました。

――ドライブプレートはクランクシャフトとトルクコンバーターに挟まれた円板で、動力を伝達するための部品ですね。

見た目は薄い円板なのですが、強度を保ちつつ振動や騒音を抑える形状でなければなりません。トポロジー最適化によるシミュレーションによって、どのような形にすべきか、どこに穴開けをするかなどを検討しました。

――資料を拝見しましたが、解析の結果は、円形ではなく六角形だったのですね。

こんな形が出るんだと、我々も驚きました。しかし、六角形のままでは、軽量化はできても、風切り音でNGが出てしまったんです。ですから、トポロジー最適化の結果をそのまま採用するのではなく"なぜこの形を導き出したのか?"その意味を一つひとつ読み解き、さらにそれを生産できる形に落とし込んでいきました。その結果、最終的な生産形状は初期形状から大幅に軽量化を実現しています。

――プーリーシャフトについては、どのように最適化していったのでしょうか。

これは、油圧による変形を抑えるために、トランスミッションのなかでも非常に重くなっている部品です。軽量化のインパクトは大きいのですが、トポロジー最適化によって提案された形状は、製造要件でNGが出てしまいました。その形はつくることが難しい、というわけです。コンピュータは最適解を出してくれますが、それが最良解とは限りません。

そこで次に、断面形状への寸法最適化をおこないました。これは、たわみを抑えるための剛性と、軽量化するための質量というトレードオフにある2つの条件を設定した多目的最適化です。"とにかく硬くしたい"場合はこの形、"ちょっと軽くしたい"場合はこの形というように、2つの条件の兼ね合いから無数の形状を算出することができるので、その中から必要なものを選択します。この手法により、生産可能な形で軽量化した形状を見いだすことができました。

トポロジー最適化は人間では考えつかない形状が算出できるので、開発初期の段階で提案する手段としては、かなり有効ですし効果的なのですが、形が複雑で実物に落とし込むには一手間かかります。一方、寸法最適化は図面の寸法を変更するため、形状へのフィードバックが容易で、また、一度計算してしまえば、結果から形状の限界値が見えるため、無駄な検討を省けます。

設計の仕事は毎日が楽しいと語る原氏

人と組織とコンピュータの関係

――どの部品の扱いでも、最終的な形状が決まるまでには、かなり他部署とのやり取りがあったのではありませんか。

一回で上手くいくことはありませんから、試作を重ねて製造できる形に持って行く必要があります。設計部門とは一日に何度も打ち合わせをしますね。もともと、他部署との関連は強い会社です。"この部品を変更したい"など提案もし易く、風通しの良い環境です。

我々は小さな会社ですので、他社の真似をしても勝てません。何を尖らせるか、どこで特徴を出すか、共通の目標に対してみんなで頑張っています。他の会社に勤めた経験はないのですが、スバルでは団結して楽しく車づくりをしている感覚があります。

――将来的には、シミュレーションによって生成された3Dモデルがそのまま生産に使えるCADデータになるというのが理想でしょうか。

そこまでは必要ないと思っています。"なぜその形状に到達したのか?"という原理原則を解析結果から読み解くことは大変ですが、解析結果を読み解かずにいるとブラックボックス化してしまう心配があります。そのうち何か大きな間違いが起きてしまう危険性があるからです。自動車は人の命に関わるプロダクトですから、エンジニアとしての責任はきっちり持っていたいと思います。

構造最適化の可能性

――御社は構造最適化にアルテアエンジニアリング社のCAEシミュレーションプラットフォームである"HyperWorks"を使っていますが、導入の経緯について教えてください。

HyperWorksを使う前は、別の方法を採用していましたが、思う様に使えず、手法そのものが定着しませんでした。しばらくしてHyperWorksの最適化ソルバーである"OptiStruct"を紹介され、試してみたところ、とても使い易かったです。

開発期間が決まっていて、限られた時間できっちり成果を出す必要があります。スピードは、そのツールが使えるか使えないかを判断するための重要な指標です。また、私は週に3回くらいサポート担当の方に電話したり、あるいは来て頂き相談しているのですが、アルテアさんはユーザー目線でいろいろと助言してくださって大変助かります。

――新型インプレッサの開発初期では、社内に最適化があまり浸透していなかったとおっしゃっていましたが、今はどうなのでしょうか。

"あれを軽量化しよう""これも最適化できないか"と、大変なことになっています(笑)。4、5年前は、"最適化のシミュレーションなんて"と疑いの目で見られていたのですが、改良案を出してそれが実際に軽量化につながることを示すことで信じてもらえるようになりました。注目を集めているということは、最適化には可能性が山ほどあるということですし、また、設計者から、自分たちで最適化をやりたいというニーズもあがっています。

私は入社してこれまでずっと最適化に携わってきたのですが、これからは仕事で得たノウハウやテクニックを社内に伝えていくことが重要だと感じています。

(マイナビニュース広告企画:提供 アルテアエンジニアリング)

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