さまざまな産業のデータ解析やモデリング業務を支える数値解析ソフトウェア「MATLAB/Simulink」のユーザーイベント「MATLAB EXPO 2016 JAPAN」が、10月19日に開催され、多くの来場者が参加し、盛況のうちに終了した。

本稿では、同イベントの基調講演の中から、MathWorksのコンサルティング アプリケーションエンジニア Loren Shure氏による「The Rise of Engineering-Driven Analytics」と題した講演と、MathWorks Japanの大谷卓也氏と宅島章夫氏による「MATLAB and Simulink最新情報」の模様をレポートする。

企業で期待が高まる「エンジニアリングドリブンアナリティクス」

MathWorks コンサルティング アプリケーションエンジニア Loren Shure氏

それではShure氏の講演から紹介していこう。Shure氏は同社に29年勤務し、MATLAB言語の設計を含めてMathWorksのあらゆる製品の開発に携わっている人物だ。

今回の演題である「Engineering-Driven Analytics」とは、エンジニアリングで得られるデータを情報システムに取り込み、アナリティクスとして活用していく動きが活発化していることを指している。

Shure氏によると、エンジニアリングドリブンなアナリティクスが勃興した背景には、大きく3つのトレンドがあるという。

1つは、多種多様なデータだ。従来からエンジニアリングのデータは蓄積されてきたが、それにビジネスデータやソーシャルデータ、システム間で生成されるトランザクショナルデータなどを掛け合わせることで、多角的な分析が可能になった。

2つめは、コンピューティングパワーの増大である。周知のとおり、SparkやHadoopといった大規模データ向けシステムの技術は近年急速に発達しており、エンジニアリングデータの容易な扱いを可能にしている。

そして3つめは、機械学習のアルゴリズムの発達だ。機械学習には長い歴史があるが、最近ではディープラーニングを中心に画期的な手法も開発されはじめている。

このように企業のなかでビッグデータ分析がホットになりつつあるが、「分析に使われているのはビジネスデータが中心だ。エンジニアリングデータの活用はこれからであり、今まさに取り組みが活発化している」とShure氏が強調するとおり、エンジニアリングデータはまだまだビジネスに生かされていないのが現状だ。

エンジニアリングデータがうまく活用されない背景には、データ収集から現場への適用まで、一貫したモデルを構築できないことやアプリとしての展開ができないことが大きいという。これらデータは収集・加工され、分析を経てアプリケーションに反映された段階で大きくかたちを変えてしまう。

Shure氏は、「MATLAB/Simulinkを利用するメリットはここにある。モデルをクラウドに載せたり、業務アプリケーションに展開したり、組み込みシステムに適用したりすることが容易だ。ユーザーにとってとてもパワフルな環境を提供している」とアピールする。

BEMS、自動車産業での活用例

具体的な事例としては、まずBEMSを実現しているオーストラリアのBuildingIQがある。同事例は、ビルに設置したセンサーからさまざまなデータを収集し、それを天候などのデータをかけ合わせながら、エネルギー効率を最適化するアルゴリズムを作成。翌日の天候を予測して空調の稼働を前日から行うことで消費電力を抑えるというもの。MATLAB/Simulinkは、堅牢なアルゴリズムを持ち、クラウドアプリーションへの展開と改善のためのクローズドループ開発に適していた点が評価され、採用された。

また、トラックメーカーのScaniaは、車両に取り付けたさまざまなセンサーから、ドライバーのブレーキの使用状況や車間距離を測定に関するデータを収集。MATLAB/Simulinkが提供するモデルベースデザインツールを使って、燃費を向上させるドライバー支援システムを構築した。運転技術が未熟な場合、二酸化炭素排出量や燃料消費量が最大10%増加すると言われるなか、システムを利用したドライバーの燃料使用量を最高で11%削減したという。

機械学習を製造工程へ適用した事例も

製造工程に機械学習を適用した事例としては、製紙業のMondiのケースを挙げる。合成樹脂の製造装置にセンサーを取り付け、品質にかかわるさまざまなデータを収集。それらを4つの機械学習アルゴリズムを使って分析し、その結果を品質の確認に利用できるアプリケーションを開発した。装置を利用するオペレータはアプリケーションを使って品質を管理できるようになり、稼働状況の改善に役立てたという。

Shure氏は、これらの取り組み以外では、学生やスタートアップの支援にも力を入れていると説明。最後に「エンジニアリングデータは増大しており、アナリティクスはどこでも使われるようになる。MATLAB/Simulinkはそれを支援するためにさまざまなツールボックスを提供している。MATLAB/Simulinkを活用することで、みなさん自身がデータサイエンティストになることができる。みなさんの力で、エンジニアリングドリブンアナリティクスを広めていってほしい」と訴えた。

5つのトピックスでMATLAB/Simulinkの最新機能を紹介

続いて行われたセッション「MATLAB and Simulink最新情報」では、MathWorks Japanの大谷氏と宅島氏が「R2016a」「R2016b」のリリースハイライトを解説した。

R2016aとR2016bで備わった新機能は、大きく「アナリティクスと可視化」「モデリングとシミュレーション」「テストと検証」「共有とコラボレーション」「パフォーマンス」という5つのトピックに分けられる。

アナリティクスと可視化

MathWorks Japan 大谷卓也氏

「アナリティクスと可視化」の注目機能としては、MATLAB R2016bで備わった、タイムスタンプをデータに付与できる「timetable data container」と、メモリ効率がよく高速な文字列の扱いを可能にする「string配列」を挙げた。また、プリプロセシングを助けるツールを多数そろえたという。ビッグデータ対応も目玉の1つだ。縦に長いデータを処理するための「tall配列」はSpark、Hadoop処理で有効だ。

さらにR2016aでは、新しいプログラミング環境として「Live Editor」が備わった。Live Editorでは、ヘッダにコメントや画像、数式、実行可能なコードなどを貼り付けて、結果をライブで確認できる。これにより、探索的なアルゴリズム検索やコードのシェアリングが容易になる。また、Simulinkでは、R2016bで備わった「Logic Analyzer」などを紹介した。Logic Analyzerを使うと多チャンネル信号の可視化に役立つという。

モデリングとシミュレーション

MathWorks Japan 宅島章夫氏

「モデリングとシミュレーション」については、いくつかの注目アプリについて説明。複数の時系列信号を解析する「Signal Analyzer app」、機械学習で教師あり学習(分類学習器)を提供する「Classification Learner app」、SISO(single-input single-output)のための「Control System Designer app」を挙げた。また、小さな変更ながら、シミュレーションの実行を任意に中断する「Pause Button」が備わり、利便性がさらに向上したという。

Simulink側では、R2016aよりあらたに「Automatic Solver Option」が搭載。この機能を使うと、モデルに適した設計値を推奨してくれるため、適切なスタートポイントから迅速に作業を解しできる点がメリットだとした。

テストと検証、共有とコラボレーション

「テストと検証」では、Simulink R2016aから備わった単位の違いで生じる計算ミスを防ぐことができる「単位系(Simulink Units)」、モデリングルールに沿った編集ができているかチェックする「Edit-Time Checking」。さらに、R2016bから備わった、コーディングをチェックするための新機能「Polyspace Bug Finder」を紹介した。これらを活用することで、サイバーセキュリティを意識したセキュアな開発が実現できる。

つづいて「共有とコラボレーション」では、Simulinkで共同開発を実現する機能が注目点だ。R2016aより、起動時によく使うモデルのテンプレートを配置したり、複数人でモデルを開発しているときにコンフリクトを表示して複数からマージできる機能が備わっている。

また、MATLABについては、R2016aから備わった新しいUI開発環境の「App Designer」により、よりインタラクティブ性の高いアプリが開発可能となった。これにより、シェアリングやコラボレーションをより容易に行うことが可能だ。

パフォーマンスの大幅な向上

最後の「パフォーマンス」では、昨年リリースしたR2015bで実行エンジンが刷新され、JITコンパイルされて動作するようになったことを紹介。さらに、それから1年半経過したR2016bでは、平均で40%以上のパフォーマンス改善が行われ、ものによっては2~5倍も高速化したという。

さらに、R2016a以降、ディープラーニングやロボット、IoT、GPUといった新しい技術トレンドへの対応も積極的にすすめていることを紹介。今後も、MATLAB/Simulinkで、企業のさまざまなニーズにこたえていくと強調した。

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