【特別企画】

ソニーの新世代マイクロホン開発の鍵は"CAE"にあり

ソニーの歴史は「音の技術」の歴史でもあった。半世紀以上前に国産初のコンデンサー型マイクロホンを、1979年にはウォークマンを、そして2010年代にはハイレゾ・オーディオ機器を商品化するなど「優れた音を集め、あらゆる世界に届ける」ための技術を進化させてきた。

音響・振動セミナーにて自社のCAEの取り組みを紹介する生永氏

ソニーの特例子会社であるソニー・太陽は、グループにおけるマイクロホン基幹工場だ。スタジオレコーディング用マイクやエンジニア向けのモニターヘッドホンといった、プロユースに適うハイエンド製品を国内で生産し続けている。 そんなソニー・太陽がさらなる高品質マイクの開発にあたって用いた手法は、CAEソフト"HyperWorks"によるシミュレーションだった。

CAE(Computer Aided Engineering;コンピュータを用いた仮想モデルによる設計支援)は、開発現場にどのような革新をもたらしたのか、ソニー・太陽技術部商品技術課 生永壮太氏のインタビューをお届けする。

CAEが見せた「音を極める」世界

ソニー・太陽技術部
商品技術課の生永氏

——自動車開発の現場を中心に発展してきたCAEは、近年、さまざまな分野に応用されるようになってきました。御社はどのようにしてCAEと出会ったのでしょうか?

マイクロホン開発の大きな課題である「ポップノイズ」について、ソニーのCAE部隊(ソニーグローバルマニュファクチャリング&オペレーションズ 設計技術部門)に相談したことがきっかけでした。 ポップノイズは、とくに手持ちマイクを使ったときに起きる現象です。"ぱぴぷぺぽ"のような破裂音・破擦音を発すると、声といっしょに呼気がマイクの中枢である振動板を揺らし、それが大きなノイズになってしまうのです。

従来は、ノイズの帯域の周波数を電気的にカットしたり、ウレタンでマイクを覆って風の侵入を防ぐという対策手法が取られていたのですが、どちらにせよ音質を損なってしまいます。 エンジニアとしては残念な状況でした。この問題について相談していく中で、アルテアエンジニアリングの"HyperWorks"を紹介されたんです。2015年の春でした。

——長年の悩みのタネだった「ポップノイズ」への対処が動機だったのですね。それからCAEをどう活用していったのですか。

空気も音も目には見えませんから、ポップノイズとはいったいどういう現象なのか、私たちは手探りでしか知らなかったわけです。 "HyperWorks"の機能の一つである数値流体解析によって、まずは現象を可視化するところからはじめました。

口から出る風速はどれくらいなのか、マイクのどの部分に風が当たると問題なのか、条件を細かく決めて、まずはアルテアエンジニアリングにシミュレーションしてもらい、そこから自分たちでアレンジしていきました。

——シミュレーションによってはじめて「見えた」結果はどうでしたか。

感動しましたね。非常に多くのことが分かりました。くるくると台風のような「渦」がポップノイズを起こしていたんです。

呼気がマイクにあたると、速度差の大きい箇所で風が乱れ、やがて渦になって振動板をかすめる。振動板の上に定常的な渦が残り、それが圧力として加わることで、電気信号の成分となる。

こうしたプロセスが明らかになりました。正直に言うと、「シミュレーションなんかで大丈夫なのか」という懐疑的な見方もありました。しかし結果は、「こういうことが起きているんだ」という強い説得力に満ちていたんです。

——流体解析によって、ノイズを低減する対策へのヒントは得られましたか?

渦の発生地点や移動経路を細かく分析することで、そもそも風の速度差を生まないようにするためのメカ的な対策を開発することができました。 この技術は最新の製品にも反映されています。「音を極める」ことに近づけたと思っています。

逆に言えば、見えないものが見えるようになったので、いままでのパーツをすべて再点検する必要が出てきました。頂上付近にいると思っていたのに、新たな高い頂きが現れたといった感じです(笑)。

HyperWorksの手応えを掴んだ瞬間

CAEへの想いを語ってくれた

——初めて使うCAEツールだったとのことですが、"HyperWorks"の導入にあたって何か困難はありましたか?

正直、最初は取っつきにくさがありました。解析条件には見慣れない項目がたくさんあり、最初からすべてを理解することはできなかったです。しかしアルテアエンジニアリングのサポート対応はとても手厚く、熱意をもって弊社の課題に一緒に取り組んでいただけました。結局、自分たちがよく知っているマイクという製品とポップノイズという現象を見るための「電卓」なんだと気づいてからは、身近に扱えるようになりました。

サポートでも同じエンジニアの方が、必要があればすぐに来てくれますし、「ここの設定項目の意味はなんですか」「こういうことが見たいんですけど何を使ったらいいんですか」と電話やメールで気軽に聴くことができます。すごく頼りになるパートナーができて、感謝しています。

「匠の技」と「デジタル開発」を融合させる

——ソニー・太陽は障がい者雇用を推進するソニーの特例子会社ということですが、高品質オーディオ機器の製造開発に至った背景について教えて頂けますか。

ソニー・太陽は大分県にある製造事業所で、社員の65%が障がい者です。1978年に社会福祉法人太陽の家とソニー株式会社の共同出資により設立され、「障がい者の自立」を目的に、「身障者に保護より働く機会を」「障がい者だからという特権無しの厳しさで健丈者よりも優れたものを」という理念のもと、ものづくりを中心に事業活動を行っています。また、車いすでも作業ができ、手の動く範囲で組み立てられる高付加価値の製品として、「業務用マイクロホン」の製造を担い始めました。そしてマイクの製造ノウハウ・生産設備をより活かすために商品設計の機能を立ち上げ、近年では基礎技術の開発にも力を入れています。

——障がい者/健常者というより、「プロフェッショナルを育てる」いう志を感じます。

はい。実際にソニー・太陽では、基本的に作業者が一人で製品を組み立てて、自らの耳で検査を行い、出荷直前の梱包まで行っています。最初から最後まで責任をもって全部やることで、「このマイクは自分がつくった」という誇りを持てるような生産体制になっています。このような環境ですから、音質をよくするためのノウハウや常識・定石といった「現場の知恵」が40年分積み重なってきました。

——どのようなノウハウがあるのでしょうか?

例えば部品の材料や組み付け方法による音質の変化、なかには同じ材料でも「成形色によって音が違う」といった都市伝説のようなものもあります。でも、聞き比べると確かに複数人が同じ違いを認めます。 こういった試行錯誤の中で職人の「手」が生みだした膨大なノウハウと、CAEという「目」で分かるロジカルなデータの合間に、いま自分がいると強く感じています。エンジニアとして最高の環境です。例えれば、積み上げてきた「秘伝のタレ」をCAEで解明して、その過程で「新しいタレ」を生んで、さらにいいものをつくっていく。そんな風に考えています。私みたいな年数の浅いエンジニアが、凄い経験を持ったエンジニアといっしょに仕事をして、後を継いでいく上で、CAEは強力なサポーターになってくれることが分かりました。技術伝承のツールとしても積極的に活用していきたいと思っています。

——笑顔からも活き活きとした仕事ぶりが伝わってきます。今後はCAEをどのような開発現場に活用していくお考えでしょうか。

"HyperWorks"は流体解析以外のシミュレーションも同じライセンスで使うことができるので、振動ノイズなどの集音阻害要因への対策や、より高音質を追求するための取り組みを考えています。

長い歴史で培われたノウハウに、CAEによる知見を融合させて、付加価値の高い音響技術を創出していきたいです。

(マイナビニュース広告企画:提供 アルテアエンジニアリング)



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