実に7年振りとなる完全新作が登場したのは、カシオの耐衝撃ウオッチ「G-SHOCK」にあって、指折りの人気を誇るG-SHOCK唯一のダイバーズウオッチ「FROGMAN」(フロッグマン)。その開発思想とストーリーに迫るべく、カシオの羽村技術センターでお話をうかがった。

GWF-D1000

GWF-D1000B(ブルーIP処理)

「カエル」の愛称で親しまれるFROGMANは、陸海空で極限に挑み続けるというコンセプトを持つ「G-SHOCK MASTER OF G」シリーズの一員だ。左右非対称のフェイスデザインは、G-SHOCKのなかでも珍しく、アニバーサリーモデルやコラボレーションモデルに採用されることも多い。新モデルとなる「GWF-D1000」と「GWF-D1000B」(ブルーIP処理)は、前者が税別125,000円、後者が税別130,000円という決して安くない値段だが、6月の発売以来、好調に売れているそうだ。

カシオのモノ作りには、現場を体験するという文化がある。新FROGMANの主要な開発メンバーも、スクーバダイビングのライセンスにはじまり(個人の趣味として保持していた人もいる)、開発中に国家資格の潜水士免許を取得。ことの流れは後述するが、レスキュー隊や水難救助隊とやりとりするなかで、その知識が新FROGMANの開発に大きく貢献するとともに、原動力にもなったという。

新FROGMANの開発陣、5人のキーマンを直撃

今回お話をうかがったのは、カシオ計算機 時計事業部 商品企画部の齊藤慎司氏、時計事業部 モジュール開発部の牛山和人氏、山崎晋氏、三宅毅氏、大村竜義氏だ。2時間近くのロングインタビュー、話題が飛び飛びになるところもあるが、極力ストレートにお伝えしていく。

左から、大村竜義氏、三宅毅氏、齊藤慎司氏、牛山和人氏、山崎晋氏

―― 新FROGMANの開発にあたって、ご担当されたところを簡単にご紹介ください。

齊藤氏「G-SHOCKの企画全般を担当していて、FROGMANの企画を立てて、推進したという形になりました。新FROGMANは外装やモジュールすべてが新規での開発なので、そこをいかに救助隊のリクエスト通りに作っていくかがポイントでした」

牛山氏「私はモジュールの企画を担当しています。時計のエンジンであるモジュールと外装の組み合わせで、最終形が『PRO TREK』になったり『G-SHOCK』になったりします。今回、新しいFROGMANの専用モジュールを企画開発したのが私の役割です」

山崎氏「私は中身のセンサーの開発を担当しています。今回は、新たに水圧を計測する水圧センサーの開発と、時計を傾けても方位を測れる方位計システムの開発を担当しました」

編注:新FROGMANが備えるセンサーは、方位、気圧/高度、温度を計測できる「トリプルセンサーVer.3」がベースとなっている。また、方位計測の機能を持つカシオの時計はいくつかあるが、従来は時計のフェイス面を地面に対して水平にして計測する必要があった。

三宅氏「私はユーザーインタフェースの担当です。フェイス面のどこに何を表示するかや、ボタンの配置、ボタンに割り当てる機能といったところです」

大村氏「センサーやモジュールの仕様をもとに、実際に動作させるソフトウェアの開発を担当しました。ソフトウェアの実装というところからの、機能を設計しています」

「カシオさん持ってない?」「ないです」では終われない

―― FROGMANの完全新作は7年振りになりますが、ビジョンというか、「そろそろ新しくしよう」というのは、もうずいぶん前から構想があったのでしょうか。

齊藤氏「例えばMaster of Gシリーズなどは、常に何年かおきに新しいモデルを出したいと考えています。ただ、FROGMANはなかなか変えるわけにはいかない重要なモデルですから、どこかで新しくしたいと考えつつも、『どうやって変えればいいのか』が難しかったんですね。

新FROGMANの裏ぶた。水難救助隊をリスペクトした「蛙」の刻印がかっこいい!!

そんなとき、2013年に、水難救助隊の方々とお話しする機会がありました。現場で働く方々のお話は、製品作りにものすごく参考になります。

最初はこちらからお話をうかがっていたのですが、逆に『最近ちょうどいいダイバーズウオッチがない。カシオさんでいい具合のダイバーズウオッチないの?』と聞かれまして。水深計が必須ということで、そのときは『ないです』と答えるしかなかったんです」

牛山氏「我々としては、太陽光発電で水深を測れる低消費電力のセンサーは持っていなかったので、残念ながら『ないです。』と答えるしかありませんでした。そこでみんなと『水深計があったら水難救助隊の皆さんの要望に応えられる製品ができそうだ』という認識になったんです」

―― 『太陽光発電の水深計』がない……、改めてお聞きすると意外です。

齊藤氏「そうなんですよ。ピッタリはまるちょうどいいセンサーがなかったんです。でも、お客さま側から『ないですか?』と聞かれることって実はなかなかなくて、『ないです』で終わらせていいのかと。牛山たちとも何とかしようと話し合って、具体的にスタートしたのも2013年ですね。

明確なニーズを持って困っている方々がいて、それはダイバーズウオッチだったり水深計だったりして、これはもう間違いなくFROGMANだろうと。水深計が付いたムーブメントができたら、そのFROGMAN、絶対に欲しいよねって、盛り上がりました」