常識を覆す発想とプラットフォーム型

―― セグメント別を出したときの反応はいかがでした?

大島氏「想像以上に好評でした。中国語、フランス語、ドイツ語など、英語以外の言語コンテンツ(辞書など)を収録したモデルをはじめとして、もっとも喜んでいただけたのが医学大事典です。医学生のリファレンスですが、あれはかなり大きくて重いですから。各ジャンルとも専門性が高くてかなりニッチでしたが、その分、探されていた方には非常に好評でした。

―― 専門性が高くニッチなジャンルへの着手は、製品ラインアップが増えてコスト高になるような問題はなかったのですか?

大島氏「将来的にこうした形で内容が細分化していくだろうと見越していて、デザインをプラットフォーム式につくっておいたんです。高校生モデルをベースにセグメントごとで中味を書き換えて出荷する。そういう仕組みを2000年代前半から導入しました。それ以前は、商品ごとにデザインやUIまでつくり込んでいたので、専門性が高い内容の商品は難しかったんです」

―― 先を見越すって大事ですね…。

大島氏「だからこそ、電子辞書では最後発のメーカーでも、市場で受け入れていただけたと思っています。一般的に、製品のラインアップは価格で決められることが多いのですが、EX-wordはユーザー層で分かれています(編注:高校生向けなど)。ラインアップ構成の常識とは違うスタイルだったことが、大きな差別化になったんです」

―― なぜ常識とは異なる発想ができたのだと思いますか?

大島氏「弱者であり、失敗したからでしょうね。競合他社さんは巨大ですし、最後発の時点で同じことをしていては勝負になりません。異なるやり方はもちろんですが、そこには『最終的にお客さまに喜んでいただける商品こそが勝てる』という信念がありました」

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次回の後編では、初代モデルから約10年でひとつの完成形を見たEX-wordが、さらにどんな進化を遂げてきたのかを振り返る。電子デバイスの低価格化が追い風になったという機能アップとスペックアップ、そして大島氏が自ら「慢心した」と語る失敗。スマートフォンと辞書アプリ(インターネット辞書)の普及……。20周年を迎えたEX-wordは、これからどのように進んでいくのだろう。

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