近年、仕事に対しての価値観は多様化し続けている。ただお金を稼げればいいというわけではない。ただやりがいを得られればいいというわけでもない。幸せな人生を送るためのワークスタイルを巡ってさまざまな情報が発信されている。そんな中で注目を集める2つの資格がある。

一つは「キャリアコンサルタント」。個人にとって最適なキャリアを実現するために、就職・転職時の企業とのマッチングや社内におけるキャリアカウンセリングの現場で力を発揮する資格だ。若年層の就業支援やシニアの雇用拡大、女性の活躍推進などの雇用課題が山積する中、2016年4月からは国家資格として認定されることになった。

もう一つは「産業カウンセラー」。悩みを抱える個人や組織に対して、カウンセリングや研修を通じて、メンタルヘルスの向上や職場での人間関係構築を目指す。働く人の健康を維持することが事業発展につながるという「健康経営」の考え方が浸透する中、さまざまな現場で活躍が期待されている。

資格取得過程での学びや発見、資格取得後の活用方法について、それぞれの分野で活躍するカウンセラーに話を聞いた。


キャリアコンサルタント 柳ちひろさん

日立建機株式会社・経営管理統括本部人財本部人事部に所属する日立建機グループ専任カウンセラー。キャリアコンサルタントの資格も持っている。大手自動車メーカーグループ企業での教育・人事などさまざまなキャリアを経て2014年より現職。2003年に産業カウンセラー、2006年に標準レベルキャリアコンサルタント、2009年に2級キャリア・コンサルティング技能士の資格を取得。

※2016年4月から標準レベルキャリアコンサルタントの国家資格化が決定

――キャリアコンサルタントの資格取得を目指したきっかけを教えてください

柳:前職で新卒採用の担当者となったことがきっかけでした。多くの学生さんと向き合っていく中で、「どんな仕事をしたいのか」「どんな将来像を描いていくのか」を一緒に考えていくためのスキルを身に付けたいと思ったんです。

もともと人事としてセクハラ相談窓口を担当するために、産業カウンセラー資格を取得していたこともあり、キャリアコンサルタントの勉強には興味を持っていました。

――仕事にはどのように生かされているのでしょうか?

柳: 前職では社員全員面談で、現職では、キャリアの不適合により悩んでいる人に対する面談で、キャリアコンサルタントの資格を生かしています。前職でも現職でも、社員一人ひとりが持っている価値観を大切にしながら、どのような目標を持って仕事をしていけばいいか本人に気づいてもらうよう支援しています。

――キャリアコンサルタントの勉強で印象に残っていることはありますか?

柳:カウンセリングの基本は傾聴です。いかに相談者から考えや思いなど本音を引き出せるか。そのために面接実習で初対面の人との面談のロールプレイングをたくさん行いました。

同じ会社の人と面談を行う場合は、ある程度共通したバックボーンがあるので、話を聴きやすい面があります。しかし、そうした共通項がない初対面の人だと、そうはいかない。最初はただ聴くことに精一杯でしたが、だんだんと本人がどのような問題を抱えているのか理解できるようになり、この過程でキャリアコンサルタントという役割にやりがいを感じるようになっていきました。

――具体的にはどのような方法で面接実習を行うのでしょうか?

柳:「逐語(ちくご)記録を作成する」という方法があります。面談を録音し、録音したものを聞いて自分と相談者の一言一句を聴きのがさないように、丁寧に聞いて書いていきます。言葉だけでなく、発声や感情を表すようなしぐさや動作など、非言語も含めて全て忠実に書くんです。そして、面談における自分の態度やスキルを検討して、次回の面談に生かします。録音したものを聞いていると「自分はこんな発言をしていたのか」「これでは相手も話しにくいな」と恥ずかしいやら反省するやら(笑)。

――考えや本音を聞くためにはどのようなコツがあるのでしょう?

柳:「相手の心に寄り添う」ことが基本だと思います。自分の思いを交えずに、まずは相手の価値観を大切にする。そのためにも、自分のモノサシや価値観は一度排除します。

「相手の心に寄り添う」ことは本当に難しいです。キャリアコンサルタントの資格を取って10年近く経ちますが、仕事で面談を重ねて、最近ようやく腑に落ちた感じです。

――人事の仕事以外でもキャリアコンサルタントのスキルは生かせるのでしょうか?

柳:はい。企業・団体で従業員の育成に関わる管理職やリーダークラスの方は、特にキャリアコンサルタントのスキルを生かせるのではないでしょうか。最近では入社後、壁にぶつかり、キャリア不適合を起こしてしまう若手が増えていると感じます。相手の心に寄り添い、一緒になってキャリアを考えていく力は、これからの組織運営で強く求められていくでしょう。

キャリアコンサルタント養成講座の期間はもちろん、資格取得後も継続的な学習と実践を繰り返す機会があります。長期的な自己啓発の一環としても、キャリアコンサルタントを目指すことは大きな意義があると思います。

※上記のインタビュー記事中の「キャリアコンサルタント」は国家資格キャリアコンサルタントではなく、標準レベルキャリアコンサルタントの事です。


柳さんが資格取得後10年を経てようやく見えてきたという「相手の心に寄り添う」スキルは、キャリアコンサルタントの世界の奥深さを物語っている。対人関係がベースとなるさまざまなビジネスシーンで生かせる力だろう。


産業カウンセラー 篠原敏彦さん

公的就職支援機関に勤める産業カウンセラー。就職活動や転職の相談に訪れる方へ個別カウンセリングを行い、必要に応じて職業紹介につなげる業務に日々携わっている。職業訓練や教育に携わる仕事を経て現職。2011年に産業カウンセラーの資格を取得。 その後、キャリア・コンサルタントや2級キャリア・コンサルティング技能士の資格を取得。

――普段はどのような方を対象にカウンセリングを行っているのでしょうか?

篠原:さまざまな目的で仕事探しをしている方を対象に個別カウンセリングを行っています。状況によっては、新たな仕事を紹介するのではなく、「仕事を辞めたい」と考えている人に思いとどまってもらうことが最適なゴールになる場合もあります。

――資格取得を考えた経緯について教えてください

篠原:当時の職場では資格取得が必須ではありませんでした。そのため、いろいろな本を読んで独学で相談者と向き合っていたんですが、相談がスムーズに進まないことも多かったんです。

たとえば相談者の中には「家庭環境の影響でやむなく離職を余儀なくされる」といったストレスを抱えている方もいらっしゃいます。そうした個人的な悩みや不安は初対面の相手に簡単に話せるものではないと思うのですが、カウンセリングを行う上では聞かなければならない部分もあります。しかし独学で向き合っていたときには、なかなか話をしていただくことができずに苦労していました。

――そうした課題に対して、産業カウンセラーのスキルはどのように役立ちましたか?

篠原:もっとも役に立っているのは「傾聴」のスキルです。「つらい」「怖い」「不安」といった気持ちを受けとめるために、相手を主人公にして心を傾けて話を聴くというスキルですね。以前はこれができていなかったんだと痛感しました。

――「傾聴ができていない」というのはどういった状態でしょうか?

篠原:たとえば同僚をランチに誘うとして、いきなり「ラーメンを食べに行こうよ」と声を掛けるようなイメージですね。「何か食べたいものはある?」と聞くほうが、相手はランチタイムに前向きになってくれるかもしれません。

自分の意見が主になってしまい、相手の気持ちを大切にできていないと伝わってしまう。こうした状態が「傾聴ができていない」ということだと思います。

――養成講座ではどのようなことを学びましたか?

篠原:学科では、心理学やキャリア論をはじめ、精神疾患などに関する知識も学びました。協会発行の書籍をたくさん読みましたね。

面接実習ではカウンセラー役、クライアント(相談者)役、それを観察する観察者役の3人1組で、面談のロールプレイングを重ねました。クライアントに安心して自分の内面を見つめ語ってもらうために、傾聴の基本的態度や心構え、技法を学ぶための実習です。

――資格取得後、ご自身ではどのような変化を感じましたか?

篠原:人との接し方が大きく変わりましたね。相手主導でコミュニケーションを取るようになりました。相手主導とは、気を遣って先回りするということではなく、「相手の気持ちに近づこう」という意識で会話するということです。カウンセリングの場ではもちろん、職場やプライベートでの人間関係も向上したと感じています。自宅で妻の話を聞く時間も随分と増えました。(笑)

また、仕事をしているだけでは得られない人脈ができたことも大きな変化でした。同じ産業カウンセラーの資格を持つ、年齢も職業もバラバラな方々との交流の機会が生まれ、お会いするたびに刺激を受けています。

――産業カウンセラーの資格に興味がある方へメッセージをお願いします

篠原:産業カウンセラーの勉強をすることで、上辺ではなく真剣に人の話を聴くという習慣ができます。上司と部下、自社と取引先など、人との信頼関係の作り方が前向きに変わっていくことを実感できるのではないでしょうか。これはどんな仕事にも共通して重要なスキルだと考えています。

産業カウンセラーの勉強と資格取得を通じて、日常生活でも人との接し方を変えていった篠原さん。知識・スキルを得るだけでなく、「生き方そのもの」を前向きに変えることで周囲に好影響を与えていく、そんな好循環が生まれていた。

(マイナビニュース広告企画:提供 日本産業カウンセラー協会)

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