CDOと聞いて、すぐに「Chief Data Officer」と連想できた人は時代を先取りできるビジネスマンの鑑といえる人物だろう。一方で、この記事を開いて「初めて聞いた」という人も、まだ遅くない。ビッグデータ時代に差し掛かる中で企業に蓄積されるデータが急増している昨今、データをマネジメントする存在が重要視されている。その役割を担うのがCDOというわけだ。

本稿では、こうした時代においてCDOの存在理由とは何か、どのように社内のデータドリブンを進めていくべきかを議論したパネルディスカッション「データ爆発に備えるチーフ・データ・オフィサーの役割とは?」をレポートする。

Uberがいい例?

このパネルディスカッションは、11月に日本データマネジメントコンソーシアム(JDMC)主催の「CDOカンファレンス 2015 ~デジタルビジネス時代を切り開く ~」内で行われた。

ディスカッションには、モデレーターとしてデータキュレーション 代表取締役の寺澤 慎祐氏、パネリストとして、トライアルカンパニー グループCIOの西川 晋二氏、内閣官房 情報通信技術総合戦略室で政府CIO補佐官を務める會田 信弘氏、リアライズ 代表取締役社長で、JDMC発起人の大西 浩史氏、シスコシステムズ サービスセールス ビジネスディベロップメントマネージャーの矢島 伸一氏、SBIホールディングス 社長室ビッグデータ担当 マネジャーの佐藤 市雄氏が登壇した。

データキュレーション 代表取締役 寺澤 慎祐氏

最初の議題は「データドリブンビジネスとデジタルビジネス」。データドリブンが声高に叫ばれる昨今だが、その本質について理解が進んでいるとは言いがたい。その一方で、近年飛躍的に成長しているデジタルビジネスは"データドリブン"とは一線を画しているものが多く、ハイヤー配車サービスの「Uber」などはその最たる例だと寺澤氏は切り出す。

「これまでのビジネスは、ビジネスマンの長年の経験に頼ることが多かった。優秀なタクシーのドライバーは、お客さんを下ろしたら乗せる、下ろしたら乗せるとお客さんが途切れることはない。それと同じことをデータ活用して実現してしまうのが"データドリブン"です。

これまでのビジネスの延長線上でデータを起点して科学的な行動をとるのがデータドリブンだとしたら、これまでのビジネスの延長線上ではなく、データをまったく違う別の視点で活用して既存ビジネスを破壊してしまうようなビジネスがデジタルビジネスなのです。Uberはデジタルビジネスの典型です。

お客さんを運ぶのは別に認可されたタクシーだけではなく、座席に余裕がある一般車両の持ち主がお客さんを運ぶのだっていいではないか?それがリソースの最適化ではないか?というのがUberの本質かもしれません」(寺澤氏)

この実例に対して、自社でデータ活用を推進しているトライアルカンパニーの西川氏も同調する。

「我々は、販売から流通まで手がけていますが、創業経営者が以前から『数値が上司、すべて"勘"ではなく、数字で判断、数字を見なさい』という社員教育を行い、習慣化してきました。現状が上昇傾向にあるのか、昨年や一昨年と比較して趨勢がどうなるのかを、店舗単位や部門単位、商品のカテゴリ別と、多岐に渡ってドリルダウンして見ることを基本としています」(西川氏)

トライアルカンパニー グループCIOの西川 晋二氏

"数値が上司"という考え方はデータドリブンを語る上で重要だという

トライアルカンパニーでは、MD-Linkという独自のPOSシステムを運用しており、いわゆるビッグデータ活用の基盤として活用している。その大量データを自社で利用するだけでなく、取引先メーカーに公開して品揃え拡充を図ったり、商圏分析にも応用したりするなど、枠に収まらない柔軟な発想で売り上げを伸ばしている。

SBIホールディングス 社長室ビッグデータ担当 マネジャー 佐藤 市雄氏

ただ、話のコアこそ変わらないものの、「数値が上司」という言葉に疑問を投げかけたのはSBIホールディングスの佐藤氏だ。

「数値はあくまで数値であって、意思決定とは別物です。上司は意思決定を行う存在であり、数値は意思決定の参考となるのです。

今までの『データ活用』と、今言われている『ビッグデータ活用』には違いがある。今までのデータ活用は、データ量が少なく、人間が手作業で解析を進め、データソースが少なくて不確かなものであっても"情報"が作れ、最終的な"知恵"となりました。

でも、ビッグデータ活用は話が違う。ビッグデータの処理は人間だけでは無理なので、データマイニングをやり、分析はアルゴリズムでやることになった。アルゴリズムによって作られたデータは元に戻せない。だからどういうアルゴリズムでどういうデータを作るのか決定するのが重要なのです」(佐藤氏)

こうした両氏の意見を踏まえた上で、リアライズの大西氏は「お2人が言っていることは対立するものではない」とフォローした。

「お2人が話した内容は、変わりないはずです。本質は、データをビジネスに活かすこと。活かすことが競争力を高めて、顧客体験を生み出すことに行き着くのか、破壊的イノベーションに繋がるのかが違うだけなんです」(大西氏)

リアライズ 代表取締役社長、JDMC発起人 大西 浩史氏

データドリブンとデジタルビジネスの考え方

この発言を拾った寺澤氏は、「いわゆるデータ活用は、『創造的破壊にはつながらない』という話もよく耳にしますね」と内閣官房の會田氏に投げかける。それに対して會田氏は、「データを核としたイノベーションは存在する」と応えた。

内閣官房 情報通信技術総合戦略室で政府CIO補佐官を務める會田 信弘氏

「今までは先輩のレクチャーや経験で得た知見によってビジネスを進めていたが、それがデータドリブン、データビジネスになった時、やり方が違うということはどういうことになるのか。

Uberの話があったが、それに限った話じゃない。日本でも駐車場サービスのタイムズがWebで空き状況を簡単に取得できるサービスを展開している。今までは『B2C』だったサービスが、消費者が能動的に利用する『C2B』に変わりつつあるのではないかと思っています。消費者が作り出すデータでイノベーションは起きる可能性がある」(會田氏)

シスコシステムズ サービスセールス ビジネスディベロップメントマネージャーの矢島 伸一氏

一方で唯一、データ活用のベンダー側の人物として参加したシスコの矢島氏は、西川氏の「数値が上司」を、「外資の人間からすると、わかりやすい感覚」と評する。その上で、数字だけではわからないこともあると指摘した。

矢島氏が挙げた例は、とあるカーディーラーの来店者分析。Car1とCar2の2種類の展示車両があり、Wi-Fiを利用して来店者がどちらの車に興味・関心を示しているか分析したというものだ。この事例では、来店者数は、Car1が多く、Car2は少なかった。しかし、データを精査すると、Car2は女性が少ない一方で、その女性の滞在時間が長いことがわかった。

つまり、データは概略だけを見るのではなく、詳細に分析することで見えてこなかった課題が見えてくるのだ。この例では、女性の潜在需要があるとみられるCar2のプロモーションをかけることが最適解になる。

「顧客動線の追跡によって、導線の一番太い部分を解析するだけでなく、さまざまなデータの掛け合わせで、店舗ごとの課題や次のプロモーションに向けて配置をどうすべきか、クリアになるという事例になりました」(矢島氏)

前述の来店者分析の図

CIOとCDOの区分けは?

続いてのお題は「CIO(Chief Information Officer)」と「CDO(Chief Data Officer)」の違いについて。

そもそも、日本においてはCIOの存在が徐々に根付いてきた段階であり、その状況下で新たにCDOという存在が出てきては、すぐに対処できないという企業もあるかもしれない。しかし、この違いを明確にするからこそ、競争環境で一歩先を進める可能性が出てくるのだ。

「CIOは業務のための情報システムを守る存在であるのに対して、新しい価値を会社にもたらし、成長する基盤を作る人物がCDOになる」と語るのは西川氏。

最初は西川氏と意見を分けた佐藤氏もこの意見に同調し、付け加えて「CDOはデータソースに戻れないアルゴリズムによってビッグデータ活用を進めていく。これが情報の"非連続性"を生み、非連続性がイノベーションを引き起こす」と、その存在がビジネスの革新に繋がる点を強調した。

「経営の三大要素はヒト・モノ・カネと言う。それに加えて近年は情報、データという話があるが、さらに言えば、データマイニングのためのアルゴリズムが5番目の要素だ。Googleは、大量のデータを抱えていて、世界一になろうとしているが、アルゴリズムについても世界一を目指している」(佐藤氏)

データマイニングによって情報やナレッジへと進めることはできるが、非連続的なものになる。これがイノベーションへと繋がる

CDOの存在価値が明確になる一方で、そもそもの情報システム基盤・管理がしっかりしていない段階でCDOについて企業で議論を交わしていても意味がないと指摘するのは會田氏だ。

「調査によると、CIOを設置している企業はたったの3割で、7割はいないのです。役職を用意していない理由は「不要」で、「外部に委託できるから」というところが多い。CIOがいない状況でCDOを設置しても仕方ないのです。一方で、CIOの存在が明確な企業においても、"お守役的"なCIOでいいのかという思いがある。

彼らの存在は今、"Information"じゃなく、"Integration"になってしまっている。でも今は、企業間コラボレーションが進む中で、自分たちのシステムを手元で動かしているだけでは"情報"が回らない時代へと移り変わりつつある。協業が増加している中で、データを円滑に回すために必要な人材、ポジションがCDOだと言えるのではないか?」

そもそもCIOがCIOの役割を果たしているのも疑問だと話すのがリアライズの大西氏だ。

「CIOの多くの場合Information(情報)をガバナンスしているのではなく、システムをガバナンスしている。システムはあくまでも経営を支援する手段であって目的ではないのです」(大西氏)

「確かにそうですね。企業CIOに前四半期の経常利益や商品の平均利益率を情報としてすぐに示せますか? 地方行政のCIOに地域内の失業率を情報としてすぐに示せますか?というと、ほとんどのCIOは答えられない。にも関わらず基幹システムで利用しているデータベースは何ですか?と聞くと100%答えられる。こんなCIOが大半なのかもしれない」(寺澤氏)

大西氏はこの補足に対して「データドリブンシステムでもデジタルビジネスでも良いのですが、データを活用していかに経営に良い影響を与えるかを考え、そしてそれを実行するのがCDOの役割のような気がします」と返し、CDOの役割を改めて定義し、示した。

CIOとCDOは単なるデータの取り扱いの違いだけでなく、それぞれの真の狙いを捉えてこそ、次のステップへ歩みを進められる

"ビッグデータ"の本質は?

ビッグデータは、前2つの議論でも出たように、データが大量に蓄積するため、人間が一つひとつの内容を精査してまとめ上げることはできない。データをマシンラーニングやアルゴリズムにかけて理解できる文脈へと昇華する。その一方で非可逆圧縮のように、データを(実質的に)もとに戻すことはできないからこそ、過去にとらわれ過ぎずにイノベーションへと邁進できる下地ができあがる。

では、その基盤を構築するためには、どのようなマインドをもって「ビッグデータ」と向きあえば良いのだろうか。

SBIホールディングスの佐藤氏は自身の経験も交えて説明する。

「私は2012年に、「マーケティングのためにビッグデータを進めていく部署をやりたいと社長に直訴しました。そうしたら、2週間後に『ビッグデータ部門を作ったからやっておけ』と社長に言われました(笑)。その際に、今まであったものとはまったく異なる別の分析システムを導入して、今までとは違うものを作って、データドリブンする方向に持って行くようにしたのです。

ビッグデータに"ボリューム"は関係なく、多様性、ベロシティ、ストリームが重要なのです。溜まったら処理する、定期的なバッチ的処理ではなく、ストリーミングされていることが重要です。ある方の話ですが、データ量の多い少ない、ビジネスの可否は等価交換だった。でも、ビッグデータは非可逆的でデータが情報になり、情報がナレッジへと変換されると、途端に価値が上がるものがあるのです」(佐藤氏)

かつては統計データが重要視され、データを切り出すことがビジネスの意思決定に繋がっていた。タクシーのスペシャリストがお客さんをドンドンと捕まえていたが、今やアルゴリズムによるお客さんとのマッチングでスペシャリストが大量に生み出せるような時代になった。

アルゴリズムは、大量のデータを処理したいというニーズに合わせて進化してきた。Googleが良い例で、画像検索のために1000万件の画像をマシンラーニングで学習され、「猫」がどういう存在であるかを認識できるようになった。300件のルールを1つずつ作っていても、それが膨大な作業だとしても、1万件のデータと照合しているうちに、圧倒的な処理スピードを獲得できるようになる。

だからこそ、「ビッグデータ」を保持し、処理する意義が生まれるわけだ。Hadoopなどの技術革新で、低コストながらにビッグデータ処理ができる環境ができたことも大きい。

「FacebookやGoogleがいい例で、x86サーバーを大量に並べるだけで、高速処理できる時代になった。かつては、『解析』を行う時、サンプリングしてデータ解析を行っていた。でも今は全量分析ができるから、いいナレッジに消化できる。その一方で、スコアリングやレーティングという考え方も必要。データの種類・量が絶対的に増えたので、70%、80%というレーティングで、一定のしきい値を設定する必要がある」(シスコ・矢島氏)

しかし、そうしたアルゴリズムを組み上げる人材は希少であり、さまざまな分野で引っ張りだこだ。

モデレーターの寺澤氏も「本日の新聞に、IT業界で引き止めるべき人材が、日産やトヨタなどの利用者側に"データ活用"のために転職していると書いてあった」と話す。これらの例では、日本国内に人材がとどまっているものの、「近年は優秀な高校生が東京大学へ進学するのではなく、アメリカへ向かいコンピューターサイエンスを学ぶ時代だそうだ」と寺澤氏は警鐘を鳴らす。

ワークスタイルを変革していくことが、企業、国へと波及していく

国として、こうした事態にどのような対応をすべきなのか、内閣官房の會田氏が個人としての意見と付け加えた上で見解を述べた。

「企業が"効率化"を進めていく中で、遊休社員が出てくる。遊休社員だからといって簡単に会社や仕事を変えられるわけではないし、一人ひとりで仕事ができるわけではない。

これは日本全体で考えていかなければならない問題で、仕事を変革して人が他者と"交わっていこう"という意識を持っていくことが重要です。

仕事の変革として感性を司るといわれる右脳を使っていってほしい。幸いにして、自分で考えて前に進むためのツールがIT化によって誰の手元にもある時代になった。AIや機械学習、ビッグデータなど……」 (會田氏)

最後は人材にまで話がおよび「『データドリブンビジネスとデジタルビジネス』『CIOとCDO』『ビッグデータの本質』と、3つのことについて議論してきましたが、90分ではまったく足りませんね。また機会を作って、もっと深く広く議論できればと思います」と寺澤氏は総括した。

(マイナビニュース広告企画:提供 日本データマネジメント・コンソーシアム(JDMC))

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