政府の成長戦略「『日本再興戦略改訂』2015」に「キャッシュレス化の推進」が昨年に引き続き明記されるなど、クレジットカードの普及拡大が期待される一方、取引適正化の観点から、割賦販売法改正に向けた割賦販売小委員会の報告書がまとめられました。業界を巡る環境に両方向の変化がみられる中、日本クレジット協会副会長であるイオンクレジットサービス株式会社代表取締役社長の水野雅夫氏にお話を伺いました。

期待に応えることが魅力あるキャッシュレス社会の実現につながる

イオンクレジットサービス株式会社 代表取締役社長/一般社団法人日本クレジット協会 副会長 水野雅夫氏

村山千代氏(以下、村山氏):クレジットカードの取扱額が順調な伸長を見せる中、6月に閣議決定された政府の成長戦略である「『日本再興戦略』改訂2015」には、昨年に引き続き「クレジットカード等のキャッシュレス化の推進」が明記されました。一方、取引の適正化の観点から経済産業省の「割賦販売小委員会」の報告書が取りまとめられ、今後、割賦販売法の改正に向けての手続きが行われる予定です。このような業界の現状について、どのようにお考えでしょうか。

水野雅夫氏(以下、水野氏):日本政府の成長戦略の中で「クレジットカード」が記載されたことは初めてです。クレジットカードの取引が広く注目されていることを実感するとともに、クレジット業界としては、さらなる発展を遂げるよいチャンスであると考えております。

政府は、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年に向けて、訪日外国人旅行者数2,000万人を目指すという目標を立てています。すでに去年約1,400万人の訪日外国人旅行者の方が来られており、東京オリンピック・パラリンピック開催時にはさらに多くの外国人が自国で発行されたクレジットカードを持って訪日されることになります。2020年に向けて、旅行者の方々がストレスを感じることなく、クレジットカードを利用できる環境を整備するよい機会であると捉えています。また、訪日外国人旅行者に向けたそれらの環境整備を、それだけで終わらせるのではなく、国内の利用に結びつかせる具体的方策も考えていかなければならないでしょう。

一方、割賦販売法の見直しについても、クレジットカード決済が消費者の生活の中で重要インフラとして浸透しているからこそ、議論がされたものだと認識しております。割賦販売小委員会の報告書では、クレジットカードの取引主体や利用環境の変化、消費者相談等の状況に着目し、加盟店管理等に関して方向性が示されましたが、今後、法改正の動き等を注視しながら、悪質な取引を排除するなど消費者から信頼される取引にしていかなければならないですね。

今は多方面でクレジットカードが注目されています。その期待に応えるべきであり、対応次第で、魅力あるキャッシュレス社会の実現の成否がかかっていると思っております。

村山氏:このような状況下、業界として、あるいは個社としてはどのようなことを行うべきだとお考えでしょうか。

水野氏:将来を予測するのは難しいもので、当社においても、10年後、20年後の決済ビジネスの予想図は毎年変わっております。まず、業界としては2020年、2030年がどういう将来になっているか共通の認識合わせが必要です。その認識合わせに、業界統一のビジョンを作成するという観点から、協会のリーダーシップを期待したいところです。

また、割賦販売法の見直しの要因でもあるクレジットカードを巡る環境変化を各クレジット事業者・業界は注視する必要があります。ネット化、デジタル化、グローバル化、ボーダーレス化により、既存のルールでは対応できなくなっているものもあります。個社の単位では動いていると思いますが、業界としても「日本だけではなく海外」、「決済端末だけではなく、周辺機器」といった、市場、顧客、システム等に関しての幅広い情報集約が必要であると考えます。

五輪開催をきっかけに安心して利用できる環境の提案を

キャスター 村山千代氏

村山氏:先程の「日本再興戦略」には、「クレジットカード等を安全に利用できる環境整備」についても記載されています。このような取り組みについては、どのようにお考えでしょうか。

水野氏:クレジットカード取引では、「安全・安心」は非常に重要なキーワードです。現在、「クレジットカードセキュリティ対策協議会」で、「カード情報の保護」「カード偽造の防止」「不正使用対策」を3つの柱として具体的な施策が検討されていますが、カード情報の漏えいや不正使用の未然防止はクレジット業界の果たすべき責任だと思います。

安全対策に関する環境整備の鍵は、「カードのIC化」にあると考えております。日本以外のアジア諸国では「ICクレジットカード」が標準です。ヨーロッパはもちろんアメリカでもIC化は急速に進んでいます。日本だけが取り残されてはならず、目標とする2020年の100%IC化は必ず実現しなければなりません。ICクレジットカードの利用が当然と考えている外国人旅行者が多数訪日されることが予想される東京オリンピック・パラリンピックの開催はカードの安全対策促進の面からもチャンスとして捉えるべきであり、その流れに乗って、カード会員が安心して利用できる環境を提案していかなければならないと思っております。

なお、クレジットカードのIC化は業界としては大きな変化です。変化に合わせた制度の見直しにも期待したいところです。