医療現場の最新需要に応えるマーキング機器「MPX-90MA」

2015年10月7日から3日間、関西 設計・製造ソリューション展が開催された。出展したローランド ディー.ジー. 株式会社(ローランドDG)のブースでは3Dプリンターや切削加工機など、ものづくりをサポートするさまざまな機器とともに小型精密2次元シンボルマーキング装置「MPX-90MA」も展示された。

ローランドDGのブース内には、多くの来場者が訪れていた

MPX-90MAはデスクに簡単に設置できる程度の、ごく小さな機器だ。ブースではこの周りに、はさみや鉗子などの手術器具がいくつも置かれていた。これらは「鋼製小物」とよばれ、病院内では洗浄・消毒を行いながら繰り返し使われる。この鋼製小物のトレーサビリティに必要な識別子(2次元シンボル)のマーキングを行う装置がMPX-90MAである。

ブース内に展示された小型精密2次元シンボルマーキング装置「MPX-90MA」とDPM専用2次元バーコードリーダー「MR-1」

「従来、手術器具は洗浄・滅菌してから使われるものですから、常に清潔であることが前提なのでトレーサビリティの必要はないという考え方が一般的でした。しかし、BSEなどに代表される従来の滅菌・洗浄方法では滅菌できない未知のウイルスにより医療機器を媒介とした2次感染の被害が発生するようになりました。そこで医学界では『患者安全の担保』が重要であり2次感染を防止する為、また発生時の迅速な対応の為にどの医療器具が“いつ”“どこで”“誰に”使われたかを把握しておくべきであるというトレーサビリティ管理が重要であるという風潮が生まれてきました。」と、医療器具のトレーサビリティ管理の必要性に関する背景を語ってくれたのは、ローランドDG Easy Shape事業開発本部 メディカル事業部 DPM課 課長の矢澤賢裕氏だ。

医療機器のトレーサビリティ管理の必要性が高まる中、実現するための最適な技術が存在しない時代があった。レーザー刻印機を利用した手法があったが、刻印後マーキングに錆びが発生しやすい、耐久性が低い、本体価格が高価で医療機関では導入できないなどの課題があった。この課題に、ローランドDGが対応した。

ローランドDG Easy Shape事業開発本部 メディカル事業部 DPM課 課長 矢澤賢裕氏

「当社では、金属素材に写真をマーキングする為に、グレースケール256階調に対応して打刻圧力をコントロールする製品MPX-90を持っていました。この製品を利用して鋼製小物に2次元シンボルが刻印できる機能を追加して開発したのがMPX-90Mです。販売開始後さらに現場の声を取り入れて進化させたのがMPX-90MAです」と矢澤氏。初代機であるMPX-90Mは多くの医療器具に対応していたが、一部の診療科で必要となる大型の機器等はサイズが合わないという問題があった。これに対応すべく台座部分が分離できるように改良したのがMPX-90MAなのだ。

「同じようなハサミに見えても、先端形状が違うものなど厳密に分けて行くと非常に多くの器具が医療現場では使われています。その全体に対して約80%の機材はMPX-90Mでも対応可能でした。最新機種のMPX-90MAでは刻印するスペースがないようなものを除いて、ほぼ100%の鋼製小物に2次元シンボルのマーキングが可能です。また診療科によってはMPX-90Mで100%まかなえるので、需要に合わせて選択していただくことができます」と矢澤氏は語った。

DPM専用2次元バーコードリーダー「MR-1」も用意し、
ワンストップでサービスを展開

MPX-90MAはドットピン方式という、スタイラスと呼ばれる小さな針の様な部品で金属表面に小さな凹凸をつけその集合体で図形や文字を表現する。トレーサビリティ管理のために刻印するのはデータマトリクスと呼ばれる2次元シンボルだ。ロゴやテキストも一緒にマーキングすることは可能であるため、名入れ等の需要にも対応は可能だが、トレーサビリティ管理用途では2次元シンボルを利用する。当然、人の目では内容を読み取ることができない。

DPM専用2次元バーコードリーダー「MR-1」

3mm角程度の2次元シンボルが刻印された鋼製小物

サンプルには3mm角程度の2次元シンボルとロゴやテキストが刻印されていた。2次元シンボルは目で見てもそこにあると思えば見つかる程度の大きさだ。2次元シンボルが読み取れるような一般的なバーコードリーダーでも、あまりに細かく、また鋼製小物という反射があるものへの刻印であるため、読み取りは難しい。そこで、DPM専用2次元バーコードリーダー「MR-1」もローランドDGは用意した。

「一般のバーコードリーダーでは白黒を認識して画像処理を行い読み取りますが、鋼製小物にマーキングされた2次元シンボルはその画像処理の方法では読み取れません。その問題を解決するため、ダイレクトパーツマーキング専用のバーコードリーダーが必要になるのですが既に市場にあるものは非常に高価で普及していないうえレーザーマーキングなどを読み取るように調整されています。そこで当社が開発したのがMR-1です。MPX-90MAでのマーキング結果を読み取る事に注力した調整をしてありますのでセットで提供することで、読み取り性の高いマーキング・読取り環境を提供する事ができます。また、サポートの窓口も一本化でき、安心して使っていただけます」と矢澤氏は語る。

実際にMPX-90MAでマーキングを行い、MR-1で読み取るデモンストレーションも行われていたが、マーキングは1つあたり15秒程度で完了。MR-1は上部の読み取り部分にマーキングをかざすだけで1秒もかからず読み取りができた。

MPX-90MAでマーキングを行い、MR-1で読み取るデモンストレーションの様子

国立大学法人浜松医科大学と共同で現場の課題を解決するアプリケーションも開発

マーキングされた医療器具の、現場での利用イメージは大きく2通りある。これまで行われていなかったレベルでの器具管理を行う使い方と、手術前に行われる医療器具の準備など通常業務を効率化するための使い方だ。

従来以上の器具管理が、トレーサビリティ管理を実現する。「トレーサビリティシステムと電子カルテや滅菌管理システムと関連つければ、だれがどの手術セットを利用し、何回滅菌、洗浄し、何回使いましたということがわかるようになります」と矢澤氏。

これは前述したような未知のウイルスへの対応という効果だけでなく、医療事故を防ぐための意味もある取り組みだ。

「現実に起こりうる医療事故で器具の先端が欠け落ちてしまったというようなことがあります。これは、どの器具が何回使われたのかがわからないため、劣化具合が管理できないのも原因でした。同じ種類の器具が10点ある中、10点が均等に使われているかどうかはわかりません。もしかしたら特定の数本だけ酷使されているかもしれない。トレーサビリティシステムでその使用状況など今まで見えなかった事が見えるようになれば適切な頻度で交換ができるうえ、今まではできなかった予防(予測)措置もできるようになります」と矢澤氏は語る。

通常業務のサポートは、大量の器具の中から手術セットを組み上げる作業や、手元にある器具や手術セットの正しい名称や保管場所を確認する作業、器具の洗浄方法を確認するといった場面で活用される。これはすでに、国立大学法人浜松医科大学(以下浜松医大)と共に作業支援システムとして当社と共同研究開発が行われており、ブースではこの作業支援システムの一部展示も行われていた。

作業支援システムではマーキングされた鋼製小物をMR-1で読み取れば機器名称や手術セットを簡単に見つけることも可能だ。自動化だけを進めるのでなく作業者要望に応えた作りとなっており、必ずしもマーキングに頼った使い方にはなっていない。医療器具や手術セットの写真を、目的や名称から引き出すことができるため、慣れたオペレーターならば画像を参考に作業が進められる。同じ器具が10点入ったセットは何なのか、というような作業者の要望する探し方にまで対応している。

「従来はファイリングされたマニュアルを使っていたため、1人がそのファイルを使っていると別の人は使えないという状態でした。それが電子化され同時に見られるというメリットがあります。そしてマニュアルの検索においても、非常に短時間で見つける事が可能になります。作業している方は『慣れているので探すことにストレスはない』と言いますが、現実にはベテランの方で1つ探すのに2分程度、慣れていない方では5分くらいかかってしまいます。この作業をできるだけ自動化し、作業の効率をあげようという取り組みです」と矢澤氏は語った。

マーキングに頼り切った使い方にしなかったのは、現場の作業者が慣れた手法でも作業が行える環境を残すためだという。しかし、どれだけベテランでも現場ではマニュアルが必要になるシーンがあり、自動化が有効ともいえる。

「手術は1日に20~30件あり、利用される手術セットは1,000種ほどあります。日常的に行われる手術もあれば、年に1度しかないような手術もあるわけで、10人で作業を分担していると10年に1度しか出会わない手術セットも存在します。非常に忙しい中、そうしたセットまで覚えられませんから、IT技術を有効利用した作業支援システムによる作業のサポートが必要なのです」と矢澤氏。

この作業支援システムは2014年から2015年にかけて開発を行い、2016年からは浜松医大で完全運用される予定となっている。運用後の臨床試験を経てシステム導入の効果測定とシステム改善を行っていく。これら期間を経てパッケージングし2018年からは浜松医大以外への販売も行う予定だ。

マニュアル作成からマーキング代行まで医療現場に深く踏み込む

ローランドDGでは現在マーキング機器、DPM専用リーダーといったトレーサビリティシステムを支える機器を提供するだけでなく、トレーサビリティシステムを導入する病院にマーキングの代行サービスも提供している。海外では医療機器へのUDI(Unique Device Identification製品の固有識別)マーキングの義務化が既に法律として施行されており、米国では2020年までに全ての医療機器にUDIマーキングをする必要がある。これら世界的な流れを受け日本でも一部の鋼製小物メーカーが付加価値として2次元シンボルマーキングした製品の出荷を行っているが、多くの鋼製小物には2次元シンボルがついていない。また、医療現場には多くの既存器具がある。1つあたりのマーキング時間は数十秒だが、数万点に及ぶ既存器具全てにマーキングを行うというのは大変な労力だ。

「MPX-90MAは鋼製器具のメーカーが購入し製品にマーキングする使い方や、医療機関自身が購入して病院の資産にマーキングを行う使い方があります。病院の全ての資産にマーキングをするのは大変な労力なので我々から技術者を派遣し、現場の方とチームを組んでマーキングを行うサービスも展開しており大変高い評価を頂いております。このサービスは病院がトレーサビリティシステムを導入する際に行うサービスで当課事業の一つの柱事業ですが、それだけでなく我々自身がユーザーとして現場で製品を使用し製品改善のフィードバックを直接得るためでもあるのです」と矢澤氏は語る。

MPX-90MAでは最小で1mm角のマーキングをすることが可能

MR-1で読み取り可能なものは2mm角程度になる

対象が医療器具であるため、手術使用時に患者様の患部に直接触れない部分にマーキングする必要があるなど留意する点がある。日本医療機器工業会が定めるマーキングガイドラインでは、3~5mm角程度の2次元シンボルの推奨をしており市場の需要は十分応えることができる。マーキングガイドラインでは不足している鋼製小物別のマーキング位置を定めるガイドラインも、マーキングサービスで培ったノウハウとしてローランドDGが作成している。

実際の医療現場に深く踏み込んでいるローランドDGだが、MPX-90MAの活用は医療分野に留まらないと考えている。なぜなら、レーザー刻印等を含めた従来からあるマーキング方式ではサビや変質が発生するため対応が難しいものの、需要があるからだ。

「医療分野から取り組んだのは、鋼製小物へのUDIマーキングの法律化による確実なマーキング需要があったからです。更にマーケティングの結果、当社の技術シーズがマーケットニーズに完全に応えることができ、且つ圧倒的な優位性をだせると思ったからです。 食品に代表されるトレーサビリティ管理の必要性は今後更に様々な業界で必要とされると思います。トレーサビリティ需要が高まると管理の為のUDIマーキングのニーズが確実に生まれます。従来技術では対応できない“もの”へのマーキング需要に対応する為、今後我々は医療業界だけでなく様々な業界に進出していきたいと考えています」と矢澤氏。今後は医療分野での普及に加えて、さまざまな分野での活躍が見込めそうだ。

(マイナビニュース広告企画:提供 ローランド ディー.ジー.)

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