「日本再興戦略改訂2014」(2014年6月)や、さらにそれを具現化した「キャッシュレス化に向けた方策」(2014年12月)では、キャッシュレス決済の普及、特にクレジットカードの利用拡大に向けた方策等が記載され、クレジット業界には大きな期待が寄せられています。一方、クレジットカードを安全・安心に利用する環境整備のために、本年3月に業界横断型の会議体「クレジット取引セキュリティ対策協議会」が設置され、また経済産業省では、割賦販売法の見直し審議も行われております。このような状況の中、新たに就任された杉本直栄会長に抱負等を伺いました。

東京オリンピック・パラリンピックは業界にとってゴールではなく通過点

株式会社ジャックス相談役/一般社団法人日本クレジット協会 会長 杉本直栄氏

野口香織氏(以下、野口氏):日本クレジット協会の会長に就任された抱負をお聞かせください。

杉本直栄氏(以下、杉本氏):日本クレジット協会は、いわゆる「業界団体」としての役割に加え、割賦販売法に基づく「認定割賦販売協会」、個人情報保護法に基づく「認定個人情報保護団体」という法令上の認定団体として、業界自主ルールの策定などを担う役割をあわせ持つ、クレジット業界を代表する団体です。今年で設立7年目を迎えました。

私はこれまで41年間にわたり、クレジット会社の社長、業界団体(全国信販協議会)の会長、当協会の理事、副会長などを務めながら、当業界に身をおいてきました。この長年の経験を活かし、協会の社会的な使命と役割をしっかりと認識したうえで、クレジット取引とクレジット業界の健全な発展のために真摯に取り組み、消費者や会員各社の皆様にとって「頼れる協会、誇れる協会」となれるよう努力していきたいと思います。

野口氏:現在、クレジット業界が置かれている環境についてどのようにお考えでしょうか?

杉本氏:昨年6月に、国の成長戦略である「日本再興戦略改訂2014」が発表されました。その中で、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催等を見据え、クレジットカード等のキャッシュレス決済の普及が明記されたことは画期的なことだと思います。

さらに、これらを踏まえ関係省庁では昨年12月に、より具体的な「キャッシュレス化に向けた方策」が取りまとめられました。この中では、訪日外国人向けの利便性向上策や、クレジットカードを安全に利用できる環境整備などの対応策が求められています。

東京オリンピック・パラリンピックが開催されますと海外からたくさんのお客様が来日されますので、クレジットの利用がさらに加速するのは間違いありません。ただし、東京オリンピック・パラリンピックはゴールではなく通過点だと思っています。

クレジットを、外国人観光客をはじめ、消費者がストレスなく安心して利用できるよう、インフラ面を含めた利用環境を整備し、キャッシュレス化の推進につなげていくことが求められています。

一方、後でお話しするように、主に海外アクワイアラーに起因すると思われるネット取引トラブルの顕在化などを背景として、割賦販売法を見直すための審議も進められています。キャッシュレス化の推進が「個人消費の下支え、経済活性化」につながることへの期待と「安全・安心」に対する責任の高まりを改めて感じています。

安心してクレジットカードが利用できる環境整備

野口氏:カードの利用拡大について、安全・安心な利用環境の整備が大事とのことですが、具体的にどのような取り組みをお考えでしょうか。

キャスター 野口香織氏

杉本氏:消費者の方に安心してクレジットカードを使っていただき、豊かな生活を実現していただくための環境を作ることが、たいへん重要です。

クレジットカードは大変便利ですが、情報漏えいや不正利用などがあると思うと安心して使えません。安全・安心確保のためのセキュリティ対策については、従来から業界としても自主的に取り組んできているところですが、今後の訪日外国人の増加やネット取引の増加などに伴い、利用が拡大していく中でさらなる対策の強化、加速化が求められています。

2015年3月には、経済産業省の後押しと流通業者、ネット事業者、決済端末メーカー等の協力も得て「クレジット取引セキュリティ対策協議会」が発足しました。「カード番号等の情報保護」、「クレジットカード及び決済端末のIC化による偽造防止」、「ネット上のなりすまし等、不正使用対策」、以上3つのワーキンググループを協議会の下に設け、長期的な視点から本格的な検討を開始したところです。当協会はその事務局を務めており、具体的かつ実効的な取り組みにつなげていきたいと考えています。

野口氏:割賦販売法を見直す議論が進められているということですが、見直しの背景や論点を詳しくお聞かせください。また、協会としてどのように対応をしていくお考えでしょうか。

杉本氏:見直しの背景として、次の4点があげられます。「前回の割賦販売法改正の中で『施行後5年経過後に再検討し、必要があると認められる場合は、所要の措置を講ずる』という見直し条項があること」、「加盟店と消費者の間に『決済代行業者』が介在する取引が増加するなど、取引形態が複雑化してきていること」、「EC取引(電子商取引)の拡大に伴い、カード利用も増加していること」、「カード取引増加に伴い、消費生活センター等に寄せられる相談も増加傾向にあること」。このような背景を理由として、経済産業省の産業構造審議会・割賦販売小委員会において、見直しの審議がなされています。

消費者相談の内容をよく分析し、どこに原因があるのかをしっかり究明してから対策を練る必要があると思っていますが、原因となっていると思われる悪質な加盟店の排除のため、現状ではアクワイアラーや決済代行業者による加盟店調査等を適切に実施する体制を整備するにはどうしたらよいか、ということが主な論点となっております。

また、制度の枠組みを「カードを発行するイシュアー」と「加盟店関連業務を行うアクワイアラー」とに切り分け、規定を整理するということや、カード番号保護等のセキュリティ対策の在り方なども検討されております。

協会としても、昨年末の(中間的な論点整理段階での)パブリックコメントや割賦販売小委員会での審議等で、実情の説明や業界としての意見を申し上げてきたところです。最終的な報告書を踏まえ、今後必要に応じて自主ルールの見直しや加盟店情報交換制度(JDM)への反映等も含め、適切に対応していきたいと考えております。

このほか、個人情報保護法や特定商取引法の改正など、業界に影響を与える法令改正の動きがあるので、これらにも適切に対応していく必要があると考えています。