ビッグデータというワードが世の中に定着してから、各企業はこぞってBIツールの導入やそれによるKPIの設定などを行ってきたが、実際に運用できていないというケースも多々あると聞く。では、何故失敗しているのか。マイナビニュースでは7月14(火)に「営業×データ活用 売上げアップを下支えするデータ活用の実践ハウツー」を開催する。本記事では、セミナー登壇者の1人であるカルビー株式会社の本田健氏に、カルビーが失敗した「データ活用」について取材した。


「かつて、われわれは、3000におよぶKPI(重要業績評価指標)を設定していました。そこから学んだことは、『KPIを重視した経営は、現場の心に響かない』です」

こう語るのは、カルビーで営業本部 営業企画部 部長を務める本田健氏だ。

まだ「ビッグデータ」という言葉が登場する以前から、カルビーでは営業・生産の現場から膨大なデータを独自集計し、経営戦略に役立てていた。「バランスト・スコアカード(BSC)」を経営の指標に取り入れ、「財務(過去)」「顧客(外部)」「業務プロセス(内部)」「学習と成長(将来)」の4つの視点から経営・販売戦略を立案。現場スタッフの具体的な行動まで細かいKPIを設定していたのである。

カルビー営業本部 営業企画部 部長 本田健氏

細かすぎるKPIの設定による弊害について

例えば、「売上げと利益」「損益分岐点率」「時間当たり生産性」といった項目はもちろん、「クレーム発生率(PPM)」「店頭鮮度率(製造から45日を経過した商品が小売店の店頭に並ぶ比率)」「業務改善提案件数」及びそれを説明するための行動指標、例えば店頭での販促状況を表す「販促実施店率」といった項目までを、エリア別、製品群別などに細分化してKPIを設定した。そして、それぞれのデータを週次で集計し、経営幹部がデータを把握できるよう「経営コックピット」と呼ばれるダッシュボードに集約。各部門/地域の責任者らは、同データを見ながら四半期ごとの営業・マネジメント会議をしていたという。

データを活用し、競争力強化を目指す企業にとって、「KPIを現場レベルにまでブレイクダウンして管理する」ことは、「収益性を高めるよい手段」だとされている。本田氏は、「KPIはユニークでなければ競争上優位になれないと考えていました。その結果、収益増加という『結果』よりも、収益増加を達成するための『プロセス』ばかりに注目し、本当のゴールを見失っていました。KPIが細分化されすぎて、『会社が成長し、儲かっているのか』すら見えていなかったのです」と振り返る。

中でも本田氏が「問題だった」と指摘するのは、KPIを業績評価の対象にしたことだ。

「詳細なKPIが業績評価に反映されると、恣意(しい)的にデータを変える担当者も出てきます。例えば、営業担当者のKPIの1つである店頭鮮度率を改善するためには、(自分の担当店舗にある)古い商品を見つけて買い取ってしまえばよい。そうすれば、店頭に鮮度の落ちた商品はなくなるわけですから、担当者の業績評価はよくなります。しかし、これでは本当の売上げ向上にはつながりません」(本田氏)

営業担当者がほしいのは現場の状況がわかるデータ

こうした反省を踏まえ、カルビーは2009年以降、BSCとKPIによる業績評価制度を廃止し、「よい原材料を仕入れ」「工場の稼働率を上げて生産し」「営業担当者が現場を回って販売する」というシンプルな経営思考に切り替えた。その結果、2009年3月期に3%台だった営業利益率は、2015年度末時点には約11%台までに向上した。さらに、収益低迷で市場シェアを10%近く落としたポテトチップスも、現在はシェアを以前と同様の75%にまで回復させたのである。

現在のKPI

プロセス指標重視の評価をやめ、結果を評価するようになったことで、現場はどのように変わったのか。本田氏は、「営業担当者が現場に足を運び、顧客接点を積極的に増やすようになりました」と説明する。もちろん、以前のKPIにも営業担当者が店頭でどれだけ販促活動したのかを図る「販促実施店率」は存在した。しかし、同指標は販促活動回数と売上げ率から割り出されたKPIではなく、「数多く販促活動を実施する」ことを目的に設定されたものだったという。本田氏は、「その結果、販促回数を数えることに注力し、『販促を行なうことでどれだけ売上貢献できたか・店頭の活性化に貢献できたか?』といった販促を行なう本来の目的を見失っていました」と振り返る。

本田氏は営業担当者を対象にしたKPI設定のアドバイスとして、「自ら集めるのではなく客観的なデータであること」「業績への関与が大きい指標であること」「指標の追跡と達成のための工数とコストを考慮に入れること」を挙げる。特に、工数とコストについて、「ビジネスの活動単位でコストを算出する」という視点は見落とされがちだという。

「高品質の商品を提供するのは大前提です。しかし、どんなにがんばっても、お客様からのクレームはゼロにはなりません。ゼロコンマ数%のクレーム発生率を改善するために、もっと大切な活動を犠牲にしてしまっては、会社全体としてマイナスなのです」(本田氏)

とはいえ、カルビーはデータ活用をすべて廃止したわけではない。現在は、POS(販売時点情報管理)データと納品実績データを掛け合わせ、欠品による機会損失や店舗陳列の状況などを把握。現場のオペレーションに活用している。本田氏は、「納品実績があるのにPOSデータが更新されていなければ、店舗に商品が陳列されていないことがわかります。そうしたデータを基に店舗の責任者に話をすれば、よい説得材料になりますし、機会損失も減らせます。営業として培った経験に、“現場を改善するためのデータ”が加われば、われわれにも小売店さんにもメリットのある営業提案ができるはずです」と力説する。

今、本田氏が興味を持っているのは、「店舗の状況がわかるデータ」だという。マーチャンダイジングは、店頭で何が起こっているかを把握することが大切だ。現在は、来店者の店内回遊経路や併売状況を可視化できるツールも存在する。本田氏は、「結果数値を分析して出た結論は『仮説』でしかありません。仮説を検証するための実態を示すデータの収集が必要です。こうしたデータ収集は、小売店と共同で実施する必要がありますが、店舗でのリアルな状況がデータとして可視化できれば、マーケティング的にも営業的にも次のアプローチができると考えています」とその将来を語る。

7月14日(火)に開催される「営業×データ活用セミナー」では、本稿で紹介したカルビーのデータ活用について、さらにその詳細が語られる予定だ。

(マイナビニュース広告企画)

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