ソフトはどこまで強くなるか

――将棋ソフトは今後、どこまで強くなるのでしょうか。いまもどんどんレーティングは上がっているんですよね?

山本 将棋ソフトのレーティングの上限がどこかということですね。もしも将棋の神様がいるとしたら、どこかで突っかかるんです。例えば、将棋が先手必勝と仮定して先手が8割勝つとなったら、それってレーティング差でいうと将棋の神とそんなに差がないわけですよ。レーティングの上限がどこかというのは、実は将棋そのもののゲームの性質によりますよね。将棋がどれだけ奥を持っているのかっていうことになるんです。これは分からないです。まだだいぶありそうだと思うんですけど。将棋の神様からまだまだ遠かったら、もっと上がる要素はあります。でも上がれるかどうかは別問題で、何ともいえないです。ハードウェア的なことを言うと、最近は結構伸び悩んでます。すごい人たちが頑張って開発していますけど、CPUの性能自体は昔みたいに数年で2倍になるとはとてもいかないですね。ソフトウェア的には何か新しいブレイクスルーがあるとまた変わるかもしれないですけど、ちょっと分からない。評価関数はいま、プロ棋士をお手本に作っていますが、それだとプロ棋士前後の評価関数がいいとこじゃないですか。それを大きく乗り越えようと思うなら、ソフトが自分で考えて評価関数を作れるようになるしかないと思っています。ただ、棋譜には人間の知恵が詰まってますから。現在のハードウェアでは無理かもしれないです。

――ちまたでは量子コンピュータというのが話題になっていますけど、そういうレベルの話でしょうか。

山本 どうかなあ。量子コンピュータとか、スーパーコンピュータの「京」とかはパソコンと違って簡単には使えないですから……。将棋が強くなるプログラムがじょうずに書けるかっていうのはまた別の話なんです。多分使っても強くならないと思います。

西尾 コンピュータの処理速度を上げていったときの、上限値みたいなものはあるんですか?

山本 まず速くならないっていうのがあって、京とかは一個一個のCPUは遅いんですよね。たくさん回すと速くなるみたいなやつで、将棋のプログラムとは相性が悪い感じなんです。京用にプログラムを作り変えたらまた別かもしれないですが、いまの枠組みだと難しいですね。将棋はまだまだ奥があるなっていうのが感覚としてはあります。たびたび言っているんですけど、将棋の神様に感謝してるんです。

西尾 ゲームとしての奥深さ?

山本 そう。たとえ羽生名人を超えたとしても、将棋はまだ難しいと私は考えています。理論的な話ではないけれど、コンピュータ将棋の対局を見ていて、まだそんな手がいっぱいあるんだ、みたいな。

人間の価値が試される時代

――開発者は、将棋の解明のほうに目が移っていかないのですか。

山本 それもよく言われるんですけど、将棋の解明というのは問題のレベルが違います。人間と地球の大きさを比べているような感じで桁違いです。

西尾 私が山本さん個人に聞きたいのは、近い目標とその後のビジョンです。

山本 羽生名人と戦うところまでやりたいです(笑)。せっかくなら最後までやりたいというのはあります。

西尾 それを最後の設定として置いているということですか。先ほどの解明じゃないですけど、よりレーティングを上げることを目標とされないのですか。

山本 そこから先がちょっと難しくって、先ほど言ったように将棋の解明は現在のハードウェアでは無理なので、置いておくしかないです。コンピュータ将棋を強くしていくのはすごく楽しいんですけど、ちょっと不毛かなとも思っていて、もっとほかのことができたらいいのですが、なかなかこれっていうのがなくて……。でも、何か社会と人工知能をつなぐことができたらとは思っています。ちょうど将棋界っていうのはその縮図というか、まさにどう向き合うかということを早めに試されているところなんです。人間とは何かを問われているんですよ。そこの反応はけっこう気になります。

西尾 これから人間がどう向き合うかは社会的なテーマじゃないでしょうか。

山本 コンピュータの認知能力は驚くほど上がってきていて、自動運転の車がいままさに出ようとしているんです。法規制はいっぱいあると思いますが、ひとたび社会に出たらすごく便利だから、あっという間にトラック運転手とかタクシー運転手が危機的状況になるでしょう。そうするとどうなるか。その人たちは自分たちの価値を見出していかなければならない。これは将棋もいえることで、将棋ソフトがどんどん強くなって、プロ棋士のある種の神秘性がはがれてしまうと、それをどうやって補うか、どこに価値を持っていくかというのが大事なところだと思っています。

西尾 ニーズがあるかどうかですよね。プロ棋士よりも将棋ソフトのほうが強くなったときに、ファンの方たちが人間同士の将棋が見たいと思うのであれば、日本将棋連盟は続くと思いますし、それがどんどん減少してくるのであれば先細りしていく。必要とされるかされないか、時代に試される話だと思っています。

山本 では、悪い時代なのかというと、そんなことはないと私は言いたいです。タクシーの初乗り料金が200円になったら嬉しいし、再生医療みたいなのが出てきて全然病気にならなかったらそれは素晴らしいことじゃないですか。これまでだって時代とともになくなった仕事も、新しく生まれた仕事もいっぱいある。プログラマーも100年前は絶対なかった職業ですから。いままでなかった仕事もいっぱい出てくるし、機械に取って代わられる仕事もいっぱい出てくる。そういった中でどう社会が変わっていくのか。電王戦の人間の反応が、見ている人の反応がまさにそれだと思っているんです。

西尾 社会全体の縮図としてということですね。ファンの人を含めて電王戦がそういう状況なんですね。(次回に続く)

電王戦公式統一採用パソコン「GALLERIA 電王戦」

価格:359,980円(+税)

「最良の一手」を導く、卓越した性能と安定性

将棋ソフトの持てる力のすべてを出しきれるよう、現在望みうる最高ランクの性能を持つCPUを採用。効率的かつ高速な演算性能により、各ソフトの秘めた力を十二分に引き出すことができます。また、使用パーツを厳選することで、高負荷状態でも長い時間安定して稼動し続けられる、まさに「将棋ソフト向けモデル」です。

※詳しいスペックにつきましてはドスパラのサイト(http://www.dospara.co.jp/syogi/)をご覧ください。

本稿は、日本将棋連盟発行の『将棋世界』2015年3月号の記事の転載です。

(マイナビニュース広告企画)

[PR]提供:ドスパラ