J-POPのラブソングの歌詞といえば、その紋切り型の言い回しが取りざたされ、しばしば「会いたさすぎ」そして「会えなさすぎ」などと揶揄されてきた。

しかし、たとえば西野カナの『君に会いたくなるから』や『会いたくて会いたくて』が、10代の女の子から圧倒的な支持と共感を集めたように、「会いたい、けど会えない」というのは、恋愛における人類普遍の<あるあるネタ>とも言える。

もちろん、「会いたいと思っていたら、会えちゃった」ではドラマティックになり得ない、という身も蓋もない作詞上の都合もあるだろう。だがそれ以上に、ラブソングが「2人でいる時間」よりも、むしろ「会えていない時間」の不安やもどかしさを歌いがちであるという事実は、恋愛というもののある種の本質を表しているような気がしてならないのである。

そこで、ここでは俗に「歌姫」と呼ばれるような、当代きっての人気女性シンガーたちの曲の歌詞からあぶり出される、現代の恋愛観を勝手に読み取っていこうと思う。

その恋、続けてて大丈夫?

「その恋、続けてて大丈夫?」と思わず心配になってしまうラブソングの歌い手といえば、なんといっても西野カナだろう。彼女の魅力は、恋愛で傷付いた若い女性の心をすくい上げ、「その気持ち、あなただけじゃないよ」と痛みを分かち合ってくれる共感力の高さにある。

たとえば『Dear…』は、恋人と5分前に別れたばかりなのに、もう寂しくてたまらなくなってしまう、ちょっぴり恋愛依存な気のある女性の不安を歌った曲だ。“帰る場所が同じだったら”や、“おかえりもオヤスミもそばで言えたら”など、歌詞のはしばしから滲む「ワケあり感」。“ワガママは言えない”“困らせたくない”など、常に彼に気を遣って、不安を相手に伝えられないようすが見てとれる。

平気ではないけど君だから大丈夫、と自分に言い聞かせているそのさまは、全然平気ではなさそうで思わず心配になってしまう。もしこんなことを言っている友達がそばにいたら、「え、それ、ひょっとして遊ばれてない?」「都合のいい女になってない?」という疑念がどうしてもつきまとってしまうだろう。

西野カナのうまいところは、こうした「ワケあり感」や「不安感」を具体的には描写せず、誰もが思い当たるふしのある最大公約数のシンプルな言葉でつむいでいく点だ。このように、わざわざ自分から不安になりたくて恋愛をしているように見える女性像は、歌の中にしばしば見受けられる。この歌の主人公のような女性にとっては、不安や不満を感じて激しく感情を揺さぶられないと、恋をしている実感が得られないのかもしれない。

歌詞とメールの文章は違う

ラブソングの歌詞だと成立するが、もしその歌詞のままの文章がメールで送られてきたら少し怖いかもしれない。この現象は、宇多田ヒカルほど優れたシンガーソングライターであっても、たまに見受けられる。

彼女の代表曲『光』は、どんなときも自分一人で生きてきた私が、“君という光”が差し込むことで暗闇を抜け出していくさまを、飾らない地に足の着いた言葉で描いた素晴らしい楽曲だ。しかし、やはり彼女も“君”というパートナーを得たとたん、“私の事だけを見ていてよ”と、彼氏を追い込んでしまいかねない表現をしている。“未来はずっと先”なので“先読みのし過ぎ”には意味がない、と言い切る彼女は、計画や予想があてにならないのなら、現状の不確定な愛に溺れるしかない、と言っているようにも思えてしまう。

私たちは、あるかどうかもわからない未来を信じるより、目の前の感情の起伏に流されていたほうが、ぎらぎらと生を実感できるのかもしれない。

冷静に歌詞だけをみると……

恋する女性の妄想は、ときに驚くような領域に足を踏み込んでいることも多い。たとえばaikoの『カブトムシ』は、詩的で印象的なフレーズがとてもキュートなラブソングの王道だ。でも、よく考えてみてほしい。“あたしは かぶとむし”って、いきなり何を言い出すんだ。そんなこと言っていいのは、虫ドルのカブトムシゆかりだけだろう。

そして、aikoも宇多田ヒカル同様、この楽曲で“今が何より大切”と歌っている。その先に、別れや老いや死を想像しながらも、“生涯忘れることはない”であろう強い感情を、今この瞬間に味わえることが重要なのである。

まとめ

このように、優れた女性シンガーたちの描くラブソングからわかるのは、人は恋愛に「安定」や「安心」など、本当は求めていないのではないかということだ。

YUKIは『JOY』の中で、“死ぬまでドキドキしたいわ”、そして“死ぬまでワクワクしたいわ”と歌っているが、確かに私たちは、退屈な平穏よりも、ときに刺激的な不安を求めてしまう不道徳な生き物なのだ。

女性がときに、ダメ男にはまってしまうのも、ひょっとしたら「今ここにいる現状の自分をメタメタに否定してほしい」という自己否定の気持ちの裏返しなのかもしれない。だが、道に倒れて男の名を呼び続けるような恋愛は、不安定に酔いしれているだけにすぎないのではないか、と疑う勇気もまた、現実では必要になるだろう。

女性シンガーの"リアルな気持ち"が伝わってくる歌詞の世界。是非、JOYSOUNDのWebサイトを活用して、この機会に"歌姫"たちの世界を音なしで浸ってみてはいかがだろうか。

福田フクスケ
編集者・フリーライター。『GetNavi』(学研)でテレビ評論の連載を持つかたわら、『週刊SPA!』(扶桑社)の記事ライター、松尾スズキ著『現代、野蛮人入門』(角川SSC新書)の編集など、地に足の着かない活動をあたふたと展開。 福田フクスケのnoteにて、ドラマレビューや、恋愛・ジェンダーについてのコラムを更新中。

(マイナビニュース広告企画)

[PR]提供: