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電王戦公式統一パソコン「GALLERIA電王戦」豊島将之七段インタビュー - 成否の境界線 コンピュータの感覚を精査する

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変化を求めて電王戦へ

──豊島さんが初めてコンピュータ将棋ソフトと指したのはいつのことですか。

豊島将之七段

勝負という感じで指したのは、奨励会三段のとき。8年くらい前だったと思いますが、仲間のあいだでかなり強いと噂されていたボナンザ(開発者:保木邦仁氏)と10秒将棋で指しました。2局とも勝ちましたが、10秒将棋なら何局かに1回は負けるだろうなと思うくらいの強さは感じました。

──当時のボナンザの棋力は、人間でいうとどのくらいあったのでしょうか。

10秒将棋で奨励会初段くらい。持ち時間が長くなるにつれてちょっとずつ下がっていく感じでしょうか。ハードの問題もあるのでしょうけど。

──そのボナンザが渡辺明二冠(当時竜王)と正式な舞台で対戦したのが2007年。また、清水市代女流六段(当時女流王将)が「あから2010」と対戦しました。そういった流れの中で、将棋ソフトの進歩に脅威を感じましたか。

その頃はまだ強さがよく分からないという印象でした。実際に自分が見て強いと思ったのは、米長先生(邦雄永世棋聖)が出場した第1回将棋電王戦からです。ただ、あのときは変則的な将棋で終盤がないまま終わってしまったので……。ですから、やっぱり第2回将棋電王戦でしょうね。

──第2回将棋電王戦の結果(1勝3敗1持)はショックでしたか。

ソフトを操作中の豊島七段。急所の場面では傍らの折りたたみ盤に並べて検討する

1局目で阿部光瑠四段が圧勝だったので、そういう感じで進んでいくのかなと思ったんですけど、そのあと持将棋が1局あっただけで負けたので衝撃的でした。

──そんな状況で、豊島さんが第3回将棋電王戦に出場しようと思ったのはなぜですか。

第2回に出場した船江恒平五段の将棋が、それまでと変化しているように思ったんです。もともと切れ味が鋭いタイプで、斬り合いになるとすごく強いんですけど、(力を)溜めるような手が指せなかったりしていたのですが、電王戦に出てからそういう弱点みたいなものがなくなったように感じました。コンピュータと対戦することで、自分もそういう風になれるなら指してみたいと思ったんです。

──その時期は、ご自身で伸び悩みみたいなものがあったのでしょうか。

どうやったら強くなれるかというのは常に考えています。でもその頃は確かに自分の中でまだ方法が見つかっていませんでした。4年前の王将戦で挑戦して以降、竜王戦と順位戦は昇級できてもタイトル戦に絡むような活躍ができませんでした。トップ棋士20名と比べて自分のほうが強いとは思えなかったし、まあ実力的にしょうがないんですけど……。自分の何かを変えないとまずいとは思っていました。

──いま24歳ですけれども、プロになってから何歳までにA級に上がって、何歳までにタイトル獲得とか、そういうビジョンは持っていますか。

自分では、大体25歳から35歳までがたぶんいちばん将棋が勝てる時期だと思っています。25歳までに実力をつけ、それから結果を出していこうというふうに漠然と考えています。

──今期は王座戦の挑戦者になりましたけれど、それまでは焦りみたいなものはあったのですか。

焦りはありません。(ファンや周囲の人に)期待してもらっているので、それに応えたいという気持ちはありましたが、自分としてはやっぱりいちばん勝てる20代後半に最も結果を残せる状態に持っていければと考えています。

短期戦でYSSに勝利

──将棋電王戦は、第2回と第3回ではだいぶプロ棋士のコンピュータに対する見方が変わったような気がします。第2回までは、コンピュータに負けるなんていうことがあってはならないというようなものすごい悲壮感が見ている側にも感じられました。でも第3回のあとから、勝ち負けよりも道具としてどう使っていくかというところに目が向いてきた印象があります。豊島さん自身はどういう気持ちだったのですか。

周りがどう見るかはともかく、自分としては負けることもそれは勝負なのであるんじゃないかと思っていました。いろんな方が観るわけですから結果を出すことはもちろん重要ですけど、コンピュータと比べて自分がはっきりと強い、何回やっても自分が勝てるところまではいかないので、確率を上げていって負けたらしょうがないという感じでした。

──電王戦に向けてのトレーニングについてお聞きします。練習用パソコンとして電王戦公式統一採用パソコン『GALLERIA電王戦』(以下ガレリア電王戦)が初めてご自宅に届いたのが11月末。そこから本番までの間にどういうふうな計画を立てましたか。

年が変わるまではあまり指しませんでした。新年になっても、順位戦も上がれる可能性がありましたし、王将リーグにも入ったし、朝日杯もベスト4までいっていたので、なかなか暇がありませんでした。

──公式戦で勝つための研究相手としてコンピュータを使おうとは思わなかったのですか。

そのときはまだコンピュータの有効な使い方っていうのがいまいちよく分かっていませんでした。間違った使い方で調子を落とす心配もありますし。電王戦に集中しだしたのは、朝日杯が終わった2月上旬からですね。

──第3回将棋電王戦の出場ソフトと指してみて、第2回と比べてレベルが上がったと感じましたか?

第2回のときは、第2局や第3局で、中盤戦で人間のほうがちょっと悪くなったりしても巻き返したりしたじゃないですか。そういうのが新しいソフトではほとんど起こらず、悪くなったらそのまま負けてしまうことが多かった。自分が弱いからなのかよく分からないでやっていたんですけど。

──コンピュータとの研究が始まったとき、最初はどんなことをやったんですか。

研究というよりもただ指していました。自然に指すと大体自分が作戦勝ちになるので、そこからどうするかという感じですね。

──将棋ソフトは序盤が甘いというのは、他の棋士と共通した意見です。

そうですね。序盤は別にコンピュータ用の対策をしなくても、人間同士の研究で作戦勝ちとされている局面にすんなりなるんです。でも、そこから最後まで勝ちきるのがなかなか大変なんです。

──YSSとの練習では、持ち時間はどのくらいでやってたのですか。

けっこう早い段階で5時間を1局指しました。あと1時間と2時間で何局かずつ試したんですけど、ソフトの棋力はあまり変わりませんでした。最終的には、各1時間、切れたら1手1分でやってたんですけどね。5時間で1局やるより1時間で5局やるほうがたくさんの手をカバーできる。やっぱり局数はたくさん積まないとしょうがないですから。

──戦型はどうですか。

YSSは振り飛車が多いので、初めは振り飛車対居飛車でやっていたのですが、あんまり勝てなかった。対抗型は長期戦になりやすいので、ごちゃごちゃしているうちに逆転されてしまうんです。短期戦に持ち込むほうが勝率が高かったので、最終的には、YSSが振り飛車にしてきたら相振り飛車に、居飛車にしてきたら相居飛車にする方針に決めました。相振り飛車や相居飛車だと、相手の玉の囲いがこちらの飛車に直通するので、攻撃がしやすく、すぐに詰むか詰まないかの終盤戦になりますから。

──あべのハルカスでの本番対局は、豊島さんの先手番で横歩取りになりましたが、それも作戦通りでしたか。

初手▲7六歩にYSSが△3四歩なら▲9六歩と様子を見るつもりでした。この指し方で50パーセントの確率で相振り飛車になります。横歩取りは30パーセントもないくらいでした。

──YSSの△6二玉に皆びっくりしましたが、対局者としてはどうでしたか。

△6二玉は、人間同士の将棋では指されたことがない手ですが、YSSとの練習ではしょっちゅう出ていたので、あの局面になればやってくると思っていました。最初に指されたときは驚きましたが、出場棋士を集めて開かれたコンピュータ将棋勉強会のときに佐藤紳哉さん(七段)からこんな手を指してくるよと聞いていたので、やっぱりやってくるんだなと。

──では、あの時点では作戦として満足の進行だったのですね。

そうですね。想定していたいくつかの局面の中では2番目くらいに勝率がいい形でした。

──実際に豊島さんの快勝でしたね。いま振り返ってみていかがですか。

YSSの力が出せない将棋だったのかなと思います。練習のときも結構あっさり勝つことが多かったです。

──実際のところ、プロ間ではYSSの△6二玉の手自体の評価はどうなのでしょうか。その後、公式戦でも指す棋士が現れましたが。

そうですね。こっちがいきなり攻めていってもじっくりやってもいい勝負なので、まあ一局の将棋っていう印象です。

──練習通りとはいえ、注目を浴びる舞台で戦い、勝利したときはどんな気分でしたか。

責任が果たせたというか……。将棋をよく知らない人から見ると結果が重要で、勝つことでしか評価されないので、勝ててほっとしました。

──電王戦の経験というのは豊島さんにとってどんな意味があると思っていますか。

将棋の考え方が変わったのと大舞台で指していい経験ができたことですね。

──考え方が変わったというのは?

中終盤の大切さを改めて認識したということですかね。序盤がうまくいっても、そのあと相手に正確に指され続けると勝ちきるのがなかなか大変なんだと。

──人間側が負ける要因としてヒューマンエラーというのがあって、それは疲れとか、集中力が途切れたりするところからくるものです。そういう部分も鍛えられた感じはしますか。

まあ、(人間だから)疲れたりミスが出るのは仕方がないので……。自分の場合は、あんまりミスが出ない展開にどうやって運ぶかみたいな感じでやっていました。それが中盤をすっ飛ばして終盤に持ち込むような指し方でした。将棋ソフトは中盤が強いからです。ただ、終盤勝負でも、自分が疲れていなければ互角に戦えるっていうのが分かったのは意外でした。将棋ソフトはもっと終盤が強いのかなと思っていたので。

──それはYSSに限らず?

どのソフトでも大体そうなんじゃないかと思いますね。コンピュータといっても結構、終盤でも間違えるんですよ。たとえば、この駒を取れば次に詰ませられるのにやってこないとか。1手違いにすると大局観が狂ったりしていることが多かった。

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