IoT(Internet of Things)というトレンドが広がるなか、「MATLAB」の活用領域がデータ解析に広がっているという。果たして、それはどういったことなのか、MathWorksに話を聞いた。

予測モデルを現場に適用して製品設計にフィードバック

MathWorks Japan アプリケーションエンジニアリング事業部 テクニカルコンピューティング部 部長の大谷卓也氏

「今なぜ解析がホットになってきたのか。その背景には、高性能なセンサ技術を手軽に安価で利用できるようになり、コンピュータの処理性能があがったことで、予測モデルや機械学習といった20年、30年前から研究されてきた手法と共に現実に使えるようになってきたことがあります。人に頼らざるを得なかった部分もデータを使ってインテリジェントに判断できるようになりました。属人的な判断からの脱却も可能になったのです」

そう話すのは、解析ソフト「MATLAB」を提供するMathWorks Japanでアプリケーションエンジニアリング事業部 テクニカルコンピューティング部 部長を務める大谷卓也氏だ。ものづくりの現場で定評のある同社のソフトだが、IoTという言葉が示すような近年のトレンドのなかで、市場ニーズが急激に広がってきた。さまざまなデータをMATLAB上で組み合わせて、かつてはできなかった判断を迅速に実行するケースが増えてきたのだという。

たとえば、橋梁や送電線などのインフラを監視したり、電力需要や天候を計測したりする際に、ウェザーステーションやネットワークカメラを設置してデータを取得し、それをオープンデータと組み合わせて解析するといったケースがある。また、テレメトリでデータを取得し、機械や機器の故障を予測したり、気象条件にあわせて在庫や欠品を調整するといったケースがある。

最近増えているものの一つとしては、システム設計へのフィードバックでの利用だ。携帯電話基地局の最適な設置場所を検討する場合に、どの密度でどれだけ基地局を設置すれば感度を最適に出来るかなどについて、実際に測定されたデータ、アンテナ数、人口、面積など様々なパラメータを入力して、シミュレーションをMATLABで行った例がある。また、携帯機器に内蔵される小型アンテナを設計する場合に、どういった形状でどんな持ち方をした時に、どこまで耐えられるかなどについて、パラメータを変えてシミュレーションし、そのデータを設計にフィードバックすることで、最適なシステムに仕上げていく事も可能だ。

「従来でも、測定したデータや、シミュレーションを使って予測モデルや最適化を行うことまではある程度できており、足りない部分は人間の勘と経験でチューニングしていました。今は、大規模なデータ、多量のパラメータを元にモデル化や最適化を高速で行う事でより設計・開発に詳細・正確なフィードバックが出来るようになりました。この違いはとても大きいものです」(大谷氏)

I/O関係を得意とするMATLABだからこそできること

MATLABは具体的にどのように使うことができるのか。ここでは、大谷氏のデモをもとに、「今だからこそできるようになった」2つのケースを紹介しよう。1つは、米MathWorks社屋に設置したウェザーステーションが取得した気象データと、電力会社が公開している電力需要の統計データと組み合わせて、今後の電力需要を予測するケース。もう1つは、ネットワークカメラから映像データを取得し、ストリーミング処理により特定の時間内に通過した人間の数をカウントするケースだ。

1つめの電力需要の予測では、気象データについては、IoTデータの収集サービスであるthingSpeak.comを用いる。ウェザーステーションのデータは自動的にthingSpeak.comのMathWorksのアカウントに保存されるように設定しており、1分ごとの気温、湿度、風向きなどを取得できる。

たとえば、2日分のデータを取得する場合、「thingSpeakFetch」というthingSpeak.comにアクセスする関数を使って、写真1のようにプログラミングするだけでよい。(thingSpeakFetch関数についての詳細はこちら)取得したデータは、写真2のようにグラフで表示することができる。左のグラフの緑は気温、青は湿度。右のグラフは風向きだ。

写真1 わすか数行のプログラムだけでサーバからデータを取得することが可能

写真2 もとよりMATLABはデータの可視化が得意な言語であるため、こうしたグラフも簡単に作成できる

ここに、電力会社が提供している電力需要データを組み合わせる。データはローカルのデータベースに格納しているが、「Database Explorer」という機能を使ってSQLを使わずにGUIでアクセスできる。写真3のように、年月日、曜日、祝日、電力需要、気温を取得している。

写真3 「Database Explorer」という機能を使ってSQLを使わずに年月日、曜日、祝日、電力需要、気温といったGUIで表示ができる

「電力需要データから気温と需要について数学的なモデルを作り、それをウェザーステーションから取得したデータと組みわせます。すると、どんな気温になればどのくらいの電力需要になるかが予測できるようになります」(大谷氏) その結果が、次の写真4だ。取得するデータの量を調整すれば、モデルの予測精度を上げることができるという。

写真4 従来、どういったデータから、どういった特徴を抽出し、それをどう加工して、といった手順がデータ解析では必要であったがMATLABの活用により、そうした複雑な手順を踏まずに簡単に予測結果を表示することが可能となる

インダストリーマーケティング部 部長の阿部悟氏は、データの取り扱いが従来とは比較にならないほど簡単になったと話す。 「従来、こういったことは、データをどう取得するかが障害になり、簡単にはできませんでした。それが、安価な機器とクラウドで提供されるサービスだけでできるようになりました。自前のサーバもいらず、ローカルPCだけでいい。IoTを使った解析のアプローチとして今後広がっていくでしょう」(阿部氏)

MATLABがプログラミングだけでなくI/O関係を得意とすることもこうした解析を可能にしているという。それを示すのが、もう1つのネットワークカメラのケースだ。デモでは、ネットワークカメラから得られるデータをリアルタイム処理し、カメラ内に人が映り込むたびに時刻と検出結果を画面に表示できることを示した。

映像は画像の連続なので、画像に対して人を検知する処理を行い、それをつなぎあわせる要領だという。画像内の人物を検知するには、MATLABでは、「PeopleDetector」という関数を使う。写真5のように複数の人物が写った画像に対してPeopleDetectorを実行して、人物検知を行うと、人を黄色の枠で囲むようにプログラミングされており、写真6のような画像が作成される。それをつなぎ合わせるわけだ。

写真5 数行で人物かどうかを判断できるプログラムを作成できる

写真6 実際に人物検知の処理が行われた結果。全身が写っている人と思われる物体を瞬時に識別することができる

「ポイントは、入力映像に対して人物検知をリアルタイム処理し、メタデータ(時刻と検知内容)を同時生成していることです。これにより、膨大な映像データの中から必要な情報を迅速に取り出すことが出来る。リアルタイムにメタデータを生成出来ない従来の監視カメラの場合、オフラインで映像全体を時間をかけて処理する必要があります。メタデータが同時に生成されていれば、後処理に掛かる時間を削減できるのです」(大谷氏)

こうしたアプローチは、"溜めたはいいが活用できていない"ビッグデータの処理に有効だという。

データから意思決定&設計へ

大谷氏と阿部氏は、データ分析のポイントとして、センサから得られたデータを意思決定と設計というアクションに導くプロセスにあると主張する。具体的には「観測」「整理」「理解」「意思決定&設計」というステップで進み、それぞれにおいて、必要な作業を適切にこなす必要があるという。

観測では、データの検出、収集、状態の把握、データ取得を行う。さまざまなファイルやデータベース、ハードウェアにアクセスする機能や通信プロトコルへの対応が求められる。

整理では、フィルタリングや信号解析、データ処理、ブロットなどを行う。データを変換、同期、除去することや、データの可視化、探索的解析などが必要になる。 理解では、予測分析や推定などを行う。時間&周波数、静止画、動画、ロケーション、マッピングなどの領域で、機械学習や予測分析などの手法を用いて分析を進める。 最後の意思決定では、分析結果をもとに具体的にどの様なアクションをとるか意思決定を行い、更にその結果を仕様検討・設計まで遡って反映するプロセスを作り上げる事も重要である。

MATLABの1つの強みは、デモでも見てきたように、こうした一連のステップで使える機能を一貫して提供できることだ。大谷氏は「データをもとに意思決定を行い、その結果をフィードバックさせることで、属人的な判断から脱却した、よりよい製品づくりができると考えます」と強調する。

MATLABと言うと、マシンデータの取得、数値解析、周波数解析といったイメージも強いが、バージョンを経ていくなかで、さまざな分野に適用できるデータ解析プラットフォームに発展している。最近では、ローカルPC上での利用だけでなく、クラスタ化やクラウド環境へスケールアウトした並列計算機能、ITシステムと統合しWebアプリケーションからアクセスする機能などを拡充させている。IoTというトレンドが広がるなか、MATLABの活用領域はますます広がっていきそうだ。

「ものづくりにおけるデータアナリティクス」についてのアンケート調査協力のお願い

マイナビニュースでは、現在「ものづくりにおけるデータアナリティクス」についてのアンケート調査を実施しております。ご協力いただける方は、下記概要をお読みになり、設問にお答えください。

アンケート調査概要

アンケートに回答いただいた方の中から、抽選で10名に、1000円分のギフト券をプレゼントいたします。
募集期間:2014年8月18日~2014年9月14日
応募方法:アンケートページから、必要な情報をご記入いただき応募
当選者発表:メールにて直接ご連絡をいたします。

個人情報の取り扱いについて

応募フォームに記載されている「個人情報の取り扱いについて」をよくお読みの上、ご応募ください。

[PR]提供:マスワークス