【特別企画】

(後編)その食生活が危ない!現代社会が生み出した睡眠時無呼吸症候群

 

「睡眠時無呼吸症候群(以下SAS)は典型的な”現代病”と言えるでしょう。事実、途上国では患者が少ないですし、昔の人はほとんどかからなかったと思います」――このように語るのは、SAS研究の第一人者、佐藤誠氏(筑波大学 睡眠医学講座教授・筑波大学附属病院 睡眠障害診療グループ長)である。

日中に眠気を催すだけでなく、不整脈や狭心症、心筋梗塞、脳卒中といった合併症を引き起こすおそれもあるSAS。佐藤氏によると、この病気の蔓延には、現代の食生活をはじめとする生活習慣、住居、寝具など、さまざまな要因も関わっているという。

今回は、われわれ現代人の生活という背景から、SASのリスクを軽減する方法について探ってみた。

咀嚼回数の減少がSASを生んだ

前回の記事で触れた通り、現在の日本では、治療を要するレベルのSAS患者が約300万人もいると言われている。これほどSASの患者が多いのはなぜなのか。

佐藤氏は「最大の要因は、食習慣の変化でしょう」と答える。

ある研究によれば、弥生時代の食事を再現して食べてみたところ、1食あたり約4,000回の咀嚼が必要だったとされている。これに対し現代では、欧米型のファストフードの普及など、食産業の発達によって柔らかくて食べやすい食品が増えたせいか、わずか600回程度の咀嚼で済んでしまうという。

また、江戸期の将軍たちの遺骨を調べてみると、その中には顎の発達が未熟で、ほとんど固いものを食べる習慣がなかったのではないかと思われる人物もいた、という話もある。

咀嚼回数が時代とともに減るにつれ、「徐々に顔の形が長くなり、顎の骨が小さくなり、上気道も細くなってきたようだ」と佐藤氏【図1】。一生懸命噛む必要がなくなってきたことから顔の筋肉も次第に弱くなり、寝ているときに支える力を失っていった結果、上気道がふさがりやすくなり、現代に多くのSAS患者を生む一因になったというのだ。

佐藤氏は「SASの予防には顎周りの筋肉を鍛えて、顎の発達を促すのが効果的」だという。そのためには、固いものをよく噛んで食べる必要がある。食べやすいからといって、柔らかい食べ物ばかりに偏らない食生活を心がける必要があるだろう。

肥満は大敵!途上国にSASは少ない

さらに佐藤氏は、SAS患者が増加したもう1つの大きな要因として「肥満しやすくなった生活」を挙げる。

「痩せている人でもSASになりますが、肥満はやはり大きな要因です。事実、摂取カロリーが比較的低い途上国では、SASで悩む人は少ないといわれています。今の日本では、栄養バランスが悪い高カロリーの食事が当たり前となっているうえ、デスクワークが増えたために運動不足になる人が多いようです。普通に生活しているだけでも太る傾向にあるので注意が必要です」

肥満は、喉や舌の周りにも脂肪をつける。これらの脂肪は、仰向けの姿勢になると垂れ下がり、上気道を狭くしてしまう【図2】。その結果、上気道の隙間がわずかになると”いびき”が生じ、完全にふさがってしまうと無呼吸状態となる。

適切な体型の維持は、糖尿病や高血圧といった生活習慣病だけでなく、SASを予防するうえでも重要なようだ。

住居や寝具の発達も影響

取材では、そのほかにも「住居や寝具の発達もSASの蔓延に寄与している」という興味深い見解も示された。

前回の記事でも佐藤氏が述べたように、”いびき”はSASの重要なシグナルである。そして、人間は、哺乳類の中で最も”いびき”をかく動物なのだという。”いびき”は、特に仰向けの姿勢で寝た際に、上気道が狭くなってかきやすくなるのだが、本来、動物にとって腹を見せる姿勢や音を立てて眠る状態はとても危険なことであるはずだ。しかし、人間は住居を発達させて他の動物のように外敵を恐れずに済む環境を作り上げ、さらに寝具を開発し仰向けで長時間眠れるようになった。それらの結果として、無防備な姿勢で”いびき”をかいて寝ていられる状況ができあがったのではないか、そして無呼吸になりやすくなったのではないかと佐藤氏は語る。

現代の日本において、便利な暮らしの陰でリスクを増してきたSAS。ここでは、その一端を紹介したが、佐藤氏が監修に参加している情報サイト「グリーンピロー」【睡眠時無呼吸(SAS)検査促進プロジェクト】では、さらに詳しい情報が掲載されている。簡単なセルフチェックやベッドパートナーチェックもできるので、一見しておくとよいだろう。

佐藤 誠 氏
筑波大学 医学医療系 睡眠医学講座教授
筑波大学附属病院 睡眠障害診療グループ長

1955年生まれ
1982年新潟大学医学部医学科卒業
1992年医学博士
筑波大学 医学医療系 睡眠医学講座教授(現職)
筑波大学附属病院 睡眠障害診療グループ長(現職)

【主な著書】
『睡眠呼吸障害(SDB)を見逃さないために』(診断と治療社)ほか

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