【特別企画】
下図は1995年来日の折に、 大阪の友人から頂いたチャートである(その友人も誰か他の人からコピーを貰ったらしい)。見るからに興味深い面白いチャートで、株価変動の周期構造分析を試みたもののようだ。美しい曲線は、手書きではあるが恐らくフリーハンドではなく、雲形定規を使ったものだろう。変動価格構造が内包する周期多重性を手書き画像で見事に視覚化している事に感心した。図上に書き込まれた説明を取り出して、次に列記する。
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(画像 : 多重サイクルの親亀小亀構造 : 作者、出展不明) |
この様な分析に習熟する事により、直感的周期予想の実力を磨き上げていくのに役に立ちそうだと想像がつく。ところでこの図に示された未来の予想部分であるが、一体どのようにその手順をルール化すれば良いのだろうか? はたして納得の行く実践的理論付けが出来るのだろうか? その可能性を探る事が本章の主題である。
親亀の背中に小亀を乗せて、小亀の背中に孫亀乗せて、親亀こけたら皆こけた。このような古い歌があった。前述のトレンドカーブの亀家族イメージはこの歌から来ているのだろう。同じ事を西洋世界ではサインカーブの合成と言う概念で数学的にモデル化した。下図をごらん頂きたい。
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(画像 : サインカーブ合成 : 価格変動の周期性構造を説明するのに使われる) |
上図は前章で述べた「ドル円の1年周期性」を説明する為に、私がロータス123を使って作図した。ドルマルクにも全く同じ様な1年周期があり、図のタイトルはドルマルク91年の周期モデルと題されている。古くて申し訳ないが、基本的には何も変わっていないのでそのまま使用する。
もしも、実際の価格変動が前述のようにサインカーブの合成された多重周期の合成結果であるような構造をもっているとすると、今度は逆に、現実の価格変動からその構成要素である各々のサインカーブを分離すればどうだろうか? その各々を未来に延長して再合成するようなイメージで未来の周期運動を幾ばくかでも予想できないだろうか? 本章冒頭に掲げた亀の子チャートが試みているように。
サインカーブの合成結果から元のサインカーブを逆分離する事は可能である。これをフーリエ変換と言う。フーリエ変換を相場に応用して実際に計算して見せたのは、私が知る限りはJ.M. Hurstの著作が最初で、それはPC(Personal Computer)が発売される遥か前の1970年だった。ハーストは数学者であり一流の技術者でありそして同時に投機家だった。PCが無いので工業用の巨大コンピュータでフーリエ変換の計算を行ったと言われている。
偶然1980年代半ばにハーストの著作を購入した私は、95%理解不可能な数学的内容に悪戦苦闘したがこの本には魅了された。フーリエ変換のことが知りたくて我慢が出来なくなり、売り出されて間もない初期のPCでプログラミングの才覚を現していた長男に分析ソフトの開発を頼み込んだ事がある。長男は後にオランダの工科大学で情報工学を専攻した。暫く考え込んでいた息子は断ってきた。理由は、現実の相場はサインカーブで構成されていないので、計算する事は可能だが恐らく実際的な役には立たないだろう、止めた方が良い、との事だった。
この指摘は正しかったらしく、現在このようなアプローチにはフーリエ変換よりは別の計算方法が適用されている。J.Ehlersが採用して有名になったMESA手法、あるいはより新しいSingular Spectrum Analysis(SSA)等である。これらの計算法はエクセル・プラグインとして今や簡単にネットを通じて購入する事が出来る。
いずれの手法にしても、過去の周期構成を何らかの数値モデルで特定し、その結果を未来に向けて投影し、それが、現時点で得られる最良の周期予想であろうとするアイデアには変わりない。
しかしハーストは難解さで読者を裏切る事はなかった。フーリエ変換以外に、中央移動平均線を適用する周期分析方法を提案したからだ。この中央移動平均線も今やほぼ完全に忘れ去られている。それだけではなく、日本語では試しにGoogle検索で「中央移動平均」やその類語を探すと殆ど何も見つからない。つまり本邦ではまだ紹介されてもいないのだ。
しかし私にとっては宝物を発見したに等しかった。今でも私はこれを使っている。不思議なことにこの指数だけは、使う喜びのような楽しみのような何かしら情感に訴える美しさを持っている。
ではこれから中央移動平均線を使って擬似的な簡易フーリエ変換の実験を行う。説明するよりも実例を見るほうが早いので、実験用のエクセル・ファイルを次の行にリンクで埋め込んであるのでダウンロードしていただきたい。
前章で述べた「ドル円の季節性周期」の反復に使用した季節周期の指数は、下記のシートと同じ原理で作り上げた。
このエクセル・シートの価格変動データは再計算可能な動的ランダムデータを使用しているので、PCのファンクション・キーF9を押す事により、何度でも新たな仮想データを創成し、中央移動平均線を納得行くまで再体験する事が出来る。
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(画像 : 中央移動平均線を使用したサイクルの分解と合成。その一例) |
前章で既に述べたように中央位置移動平均線は次の様に計算する。
ではこれから中央移動平均線を徹底的に体験してみる。下図がその画像表示であるが、その元となる前述のものとは別のエクセル・ファイルを次の行にリンクで埋め込んであるのでダウンロードしていただきたい。
先ほど使用したエクセル・シートと同じ様に、PCのファンクション・キーF9を押す事により、何度でも新たな仮想データを創成し、中央移動平均線を納得行くまで再体験する事が出来る。
どう見ても現実の価格変動にそっくりに見えるが、人造のランダムデータを使用しているので本質的には現実と全く異なる。気になる方は計算式やエクセルの構成を書き変えて実際の株価や為替データを適用して再確認して頂きたい。
狙いは分析の数学的な正しさではなく、周期性の視覚化の手順を示す事、およびそれを使用する際の効用を体得する事にある。
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(画像 : 中央移動平均線を使用した亀の子式サイクルの視覚化。その一例) |
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(画像 : 典型的トレンドのパターンの一例=各々の中央移動平均線が平行に走る) |
未来を知りながら計算をする手順など馬鹿げてお話にならないのだろうか? では、トレンドラインはどうだろう。私が何千本も引いたトレンドラインは実はその殆どが、ラインの右側にある未来を無意識に知りつつ引き続けていたではないか? 多くのテクニカル分析者がこの事に一度も気付かずに毎日作業をしているはずだ。
W.D.ギャンはどうだったか? 彼は取り付かれたかのように無数の線を引き続けた。その殆どの線は線の右側(未来)を見ながら引いた理想化直線の密林だった。ギャンのチャートにも異様な美しさが潜んでいる。
生まれて初めてギャンの名を聞き、チャートを見たのはアムステルダムのベーチェ社のトレーディングルームだった。
そこには真ん中に4メートル四方はあるかと思われる大型のテーブルが備えられ、まるでテーブルクロスが発狂したかのように、無数の線が引かれた巨大なギャン・チャートが並べられていた。そこに配属されていたアフリカ系米人トレーダーが何年間も書き続けてきたものらしい。
私は「複雑さ」を好まないし、どちらかと言うと煩わしいと感じるタイプなので、ギャンの追随者にはなれない。迷路のように入り組んだチャートの中に吸い込まれるようにして、ギャンにのめり込んで行ったトレーダーを何人か知っている。
完璧なものには常に美と言う抗し難い誘惑が潜んでいる。あきらめるべきなのか? それとも追い求めるべきなのか?
この答えは何年間も見つからなかった。そして1987年に「ワイルダーのアダムセオリー」(邦訳 : パンローリング社)が出版された。その中に次のステップに進む答えがあった。読後の私の反応は異様だった。暫く笑い転げ、そして涙が溢れ出てきたのである。金融関係の本を読んで涙が出るなどあり得ることだろうか。
人は感動したときに泣く。しかし驚くべき体験をしてショックを受け、困惑し、どう反応して良いか分からないときにも泣くと言われる。私はショックを受けたらしい。何故かと言うと、実はその答えは無意識の内に何年も前から知っていたからだ。知っていたのにどうしても意識の中に浮上してこなかったのだ。
アダムセオリー独特のやり方のおかげで、私はその事を思い知らされた。このやり方は本当に特別で、この本の中核をなす。アダムセオリーは厳密には理論というより、その体得手順と実践の書である。特別な手法を通じて、ある重要な事を体得させようと試みる。ここでその詳細をお話しするわけにはいかない。日本語版の裏表紙には「目次さえも事前に読んではいけない」と警告してある。意外性が鍵なのだ。
アダムセオリーは誰もが無意識に知っている単純な真実に関する啓示の書である。ワイルダーはこの理論をジム・スローマンと言う無名の若者から買った。その額は100万ドルだったと書かれている。冷静で沈着な熟練ビジネスマンでもあったワイルダーは、そうする以外にこの理論を嘲笑されずに世に出す方法が無いと判断したのだろう。
この本はとんでもない論争を巻き起こしたらしい。著名なトレーディング・システム評論家だったブルース・バブコックは「The Dow Jones-Irwin Guide to TRADING SYSTEMS」というかなり有名な著書の中で、なんと13ページを割いてアダムセオリーとワイルダーを攻撃している。ずばりワイルダーは米国で最大の営業能力を備えた詐欺師だと。馬鹿にしたのではない、わざわざ原書の内容をそっくりそのまま4ページも引用して何故か必死で攻撃したのだ。
多分そのおかげでアダムセオリーの話題性は高まり、売れ行きはますます上ったと想像できる。勝ち軍配が恐らくワイルダーの方に下ったに違いない。
良きにせよ(私の場合)、悪きにせよ(バブコックの場合)この本は人のエモーションを刺激し、逆撫でするような不思議な力も持っているらしい。
本はSixty five dollarsで販売された。本の第一ページに何故かわざわざフルスペリングでそう書かれている。何か何処かが妙な本なのだ。次のページにはジム・スローマンの写真が写っている。猫を抱えた若者の姿で、優しそうな穏やかな目と控えめな笑みが印象的だった。
私はジム・スローマンが架空の人物かもしれないと長く考えていた。最近執筆の為にネットで調べて分かったのだが、彼は実在しまだ生きている。そして相場の天気予報と題して、相場を周期的に予想するウエッブサイトを運用している。「Nothing」と題する著書があり、23年後の現在の写真によると、彼の易しそうな目つきは今でも変わっていなかった。
中央移動平均線の三叉点の周辺に認識できる対称形。それは一体何なのだろう。その答えがアダムセオリーの助けで判明した。それは二次対称である。対称形は美の根源的基本の一つと言われる。もう一度エクセル・シミュレーションをしてみよう。そして味わってみよう。
三叉点は二次対称の中心点(軸)を指定する。これが一番重要な事である。
中心点より過去側の情報は既に知っている場合が多く、中心点の前後は二次対称になるので、中心点から先の未来価格変動を推測する事ができる。従って、50日移動平均線は25日分の未来のデータが全て判明するまで待つ必要が無い。他の移動平均線と交わる未来の交叉点が何処にあるのか、それだけを推測すればよい。そうすれば対称形の残りの半分、つまり未来が推定できる。
そこまで知れば後は十分だった。簡単に言うと次のような話だ。
谷底から2000メートル歩いて500メートル上まで来た。そこで道標を見つけた。「ここが谷底と天井の中間点なり」。それだけで十分に天井を予想できる。この先さらに2000メートル歩いて、500メートル上ったところに天井があるはずだ。谷底から天井までの標高差は1000メートルとなる。中間点を知れば天井までの残りの道程を予想することが出来るのである。
価格変動は二次対称で進行していく
市場の価格変動は二次対称で進行して行く。そうとも限らないのだが、外れた時は一次対称になる。このことは何の秘密でもない。上ったものが次の日も上る。これが二次対称となる。上った次の日に下がれば、これは二次対称形成に失敗したと認識するか、私ならば一次対称になったと規定する。価格変動の上下を、直前の上下動と比較して、二次か一次の対称形として把握する事が鍵なのだ。
アダムセオリーも中央移動平均理論も一次対称については触れていない。それどころか一次対称を代表する重要コンセプトである天井と底に関しては「アダムセオリーは天井と底とで実行すると100%失敗する」と自ら明言している。しかしこれを逆に言うと「アダムセオリーは道程の中間点においては、常に正しい」となる。
しかしアダムセオリーはこの中間点の特定と言う課題には挑戦せず、それは知りえない事とする立場を取った。そして毎日を中間点と仮定する選択肢を選んだ。とすると11日程度の周期性があるとされる短期周期の過程において、アダム予想が当たるのは11日のうちたった1日程度だけであり、残りは程度の差はあれ厳密には間違っていることになる。これでは余りにも非生産的でありすぎる。
そこで私の場合は、これと中央移動平均を組み合わせて、逆張りの未来予想の手順とした。中間点の推定機能と、二次対称投影の機能を合体させた。実例を次に示す。当時市場予想レポートに添えて顧客にファックスしていた実際のチャートである。
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(画像 : 図1はマルク円の中央移動平均線チャート、図2は二次対称描画予想図) |
実践を通じて学んだ事だが、歴史的な重要ポイント(例えば歴史的な安値を更新した直後など)は、対称での主要中心点となりやすい。この手法の鍵となるのは中心点の予想である。次章では再度中心点予想の技術を詳細に検討して、この予想手法の有効性を多角的に再確認してみる。
最後に解説無しで、ドル円の実例を示す。93年初頭に125円水準から歴史的最安値の割り込みが始まった。95年4月市場最低値79.75円超円高までの実際の経由(青線)と二次対称を利用した予想経路(赤線)の比較である。3本の赤線のうち中央が基本予想で、外側の二つが標準偏差1の誤差範囲である。125円回復まで4年間の長きに渡って、完璧に近い二次対称を守り続けた事が分かる。
この先実は150円まで上昇を継続し予想は外れる事になったのだが、それはそれで予想が完全に外れだした事は容易に認識できた。予想が外れたときは、予想図が上下反転の1次対称に変わると言う事であれば、この先1年半掛けて98年の半ばに150円到達するであろうと新規に予想出来る。
実際は98年の8月に147.66を達成した。その後は大暴落に転じ、99年末には100円に到達した。つまり下図の一番上の赤線に沿って下落して行った。
市場価格変動の対称性を信じる私本人でも驚くべき体験であり、痛快とさえ言える面白い分析である。
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(画像 : ドル円日足、二次対称による予測線(赤)と実際の値動き) |
田中雅氏のプロフィールはこちら
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