連載『住まいと安全とお金』では、一級建築士とファイナンシャルプランナーの資格を持つ佐藤章子氏が、これまでの豊富な経験を生かして、住宅とお金や、住宅と災害対策などをテーマに、さまざまな解説・アドバイスを行なっていきます。


住まいは資産である ~住まいは最大の投資・最大の財産~

一般的な日本人にとって、住まいの購入は一大事業でしょう。コツコツ貯めた預貯金を頭金に、多大なローンを借入れて購入することが普通で、それに匹敵する金額を金融商品へ投資をする方はまれでしょう。それだけに購入した住まいは紛れもなく資産であり、それも最大の資産ではないでしょうか。そうであれば、できるだけ優良な資産となる住まいを取得するように検討し、その後の資産価値の保全や活用方法についても充分考えに入れておく必要があります。

特にこれからの時代は、高度成長期のように給与が安定して上昇し、ローン負担が相対的に低減していくような時代ではなく、長い人生の中、思わぬ展開が待っているともしれません。資産価値には建物としての住まいだけではなく、その地域としての資産価値も含まれます。人生の変化に対応できる資産としての住まいを考えて街選びすることも大切ではないでしょうか。

マンションPERに注目! ~PERで違う住まいの将来の価値~

PERとは株価を判断する投資指標の一つで、市場全体の株価収益率を表します。PERが低いほど、その銘柄の株価は利益水準と比較して割安であると判断できます。マンションPERとは、金融指標のPERをマンション購入時の指標に置き換えたものです。マンションPERが低いということは、そのマンションから得られる収益(貸した場合の賃料)に比較して、購入価各が安いことを意味します。2014年の大都市圏の平均は、いずれも25前後の数値となっています。収益率が良いと言うことは、資産としての応用価値が高いことであり、長い人生の中での様々な局面に対応しやすいことを意味します。

30年ほど前に私自身が購入した時は、このような指標はありませんでしたし、私自身ファイナンシャルプランニングの知識もありませんでしたが、購入に際しては近場の不動産業者で、同条件のマンションの賃料のリサーチをしました。調べてみると支払わなくてはならない月々のローンと比較して、賃料が格段に高いことを知り安心しました。

失業したりして一時的にローンを支払えなくなっても、貸すことができれば、折角手に入れたマンションを手放さなくても、生活を立て直す時間的余裕が生まれます。しかし借り手がいなければ成立しませんので、立地の良い物件であることも大切です。マンションPERが低くて立地条件が良ければ、マンション購入してローンを支払うリスクは軽減できます。

後々計算してみると、当時の我が家のPERは13.3で極めて低い数値になっていました。

マンションPERは地域によって、大きく変化します。いわゆる山の手の高級住宅地は概ねPERが高い傾向にあり、下町エリアは低い傾向にあります。当然同じエリアでも駅周辺なのかバス便利用なのかの立地条件によっても異なります。具体的なエリアが絞れたら、地元の不動産業者でサーチするのがベストですが、気になる街があれば、ネット上でそのエリアの新築物件の価格と賃料を調べてみましょう。

  • 株価収益率(PER)=株価 / 1株当たり利益

  • マンションPER=マンション価格 / そのマンションを貸した場合の1年間の賃料収益

転勤・転職に対応する住まい ~こんな時にどうする? 住まいの活用~

昔のように、学校を卒業して企業に入社し、定年まで勤め上げられる時代ではありません。運良く安定した企業に入社できても、転勤は考えておかなくてはなりません。しかも海外への転勤も、これからの時代増えていくでしょう。子供が小さければ家族で移転すれば、それまでの住まいは貸すことができます。会社が転勤先の先の家賃を負担してくれれば安心ですが、借り手がいなかったり、会社の補助が十分ではなかったり、低い価格でしか貸すことができなかったりすると家計の負担は増えます。

また、子供が受験期に入ると、家族は元の住まいに戻って、単身赴任になることが一般的です。二重生活になれば、負担はますます増えていきます。賃貸している期間にその分を有利に貯蓄できれば、子供の教育費の負担が増える時期に対応することができます。有利に貸すことができるか否かが、今後のリスクに対応できる資産価値の高い住まいの決め手の一つとなります。

転職して、今までの住まいからは通勤できない場合は、引っ越しするしかありません。新しい地域に長く住み続ける場合は、住まいの売却も考えなくてはなりません。日本の中古市場は充分に成熟していなくて、中古物件は新築物件と比較して不当に低価格になりがちです。ローンが残っていれば、売却してもローンの完済ができない場合も考えられます。新しい住まいの調達も必要ですので、家計は一挙に悪化します。有利に売却できるかどうかも資産価値を決めるポイントです。

これから考えなくてはならないのが、高齢になった時の暮らし方です。配偶者を失い、一人暮らしになり、身の回りの事が不自由になりつつあった時、高齢者施設を考えると思います。そのときに住まいをどのように活用することができるかは重要なポイントです。高齢者施設は千差万別で、支援の内容の違いから、数千万円の入居金が必要な場合から、入居金が不要なものまで様々です。住まいを売却して入居金に当てるか、貸して年金だけでは不足する入居後の生活費を補完するか、資産としての住まいは重要な位置付けを持っています。

(※写真画像は本文とは関係ありません)

<著者プロフィール>

佐藤 章子

一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。