【コラム】

住まいと安全とお金

2 住まいと防災(2)--地域を知る~「釜石の奇跡」は"奇跡"ではなかった~

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連載『住まいと安全とお金』では、一級建築士とファイナンシャルプランナーの資格を持つ佐藤章子氏が、これまでの豊富な経験を生かして、住宅とお金や、住宅と災害対策などをテーマに、さまざまな解説・アドバイスを行なっていきます。


地域を知る~地域を知ることから防災対策は始まる~

住まいの安全は地域の安全があって初めて成り立ちます。海辺や川沿い、崖の上や下のエリア、谷状地域など、島国で山岳部分の多い日本は、自然災害の影響を強く受けます。子供を持つ親が、地域の災害危険度を「知らなかった」では済まされません。東日本大震災では下図のようにハザードマップが想定した外のエリアに死者が集中している地域もあるのです。ハザードマップの外であれば安全だと判断した結果に違いありません。しかし津波到達ラインぎりぎりに集中している神社や祠をみれば、昔の人の情報収集の結果であるはずで、いかにそれが重要かがわかります。親の責任として地域の災害の種類や危険度や敷地周辺の安全について情報を集め、あらゆるケースを想定した上で初めて、家族の安全や住まいの安全が考えられるのです。

東日本大震災の津波被害のイメージ図((C)佐藤章子)

地形に敏感になろう~地形は住まいの安全面で重要な要素~

人口が集中する大都市は平野が広がる部分です。中でも首都圏の位置する関東平野は、地図で見ると広大な平野が続いているかのようです。しかし東京に暮らしていればすぐ分かりますが、東京は坂の街です。私は中学時代を世田谷区で過ごしましたが、最寄り駅からかなり急勾配の坂を下りきったところがバス道路になっていて、我が家はその通りに面していました。道路の反対側はまた急勾配の上り坂で、のぼり切った所が4mの道路で、その道路の巾がそのまま尾根道になっていました。

その尾根をさらに越えると、またまた急勾配の下り坂で、その下には広い盆地の中に小学校、中学校、高校、住宅地などが広がっています。中学校のある盆地は、元は沼地だったそうで、我が家が面していたバス道路はどう見ても川だったとしか見えません。実際に裏手に道路に平行した小さな川もありました。地形に注目し、当然地形が持つ災害の種類や危険度を把握する事が大切です。特に隠された地形は大きな問題を引き起こす場合があります。小規模の谷や山は埋め立てられたり、切り崩されたりして、一見平坦地になっているところが多いのです。

あるとき、住宅展示場に築2年の家に住んでいるという方が来場しました。よくよく聞くと、分譲地全体の家が傾いたそうです。その分譲地を見に行ってすぐに分かりました。広い分譲地でしたが、はずれの地形がお碗を伏せたように急に山が立ち上がっていて、いかにも不自然な形でした。実際の地形は下図のような谷であり、埋め立てて平らな分譲地を形成していたもので、基礎補強が不充分なために、谷の中心部に向って不同沈下を起こしていた典型例です。人災のケースですが、自然災害を考える上で地形は重要な要素なのです。

不自然な造成地の地形((C)佐藤章子)

防災教育=自分で判断する大切さ~「釜石の奇跡」は奇跡ではなかった~

「釜石の奇跡」とは、子供たちへの徹底した防災教育により、東日本大震災の際に約3,000人の釜石市の小中学校児童の99.8%の命が助かったというものです。釜石は有史以来、度々大きな津波の被害に見舞われ、明治三陸津波では6,500人の住民中4,000人が亡くなったそうです。そのためにハード面では巨大堤防が建設され、ソフト面では「津波でんでんこ(津波がきたら、子供や親のことを考えず、てんでんばらばらに逃げなさい)」という、言い伝えがあり、防災意識も高い地域のはずです。

しかし、津波の実際の経験者は世代交代で既に亡くなり、「堤防があるから安全」、「ハザードマップの外に逃げれば安全」と意識も退化して行ったようです。それに対する行政の危機感と防災教育の拠点を求めていた群馬大学の片田教授(当時)の思いが一致し、子供たちに徹底した防災教育がなされました。災害に対して自分自身の判断で行動する主体者=そのときに考えられる最善を尽くして率先して避難すると言うことを徹底して叩き込まれました。

釜石市では1,300人の方が亡くなられたそうですが、市全体3,000人の小中学生の親で亡くなられたのは40名だそうです。自分の子供が率先して避難していることを確信できた親は、子供を迎えに行かずに、自分も率先して避難することができた結果で、極めて低い数値と言えます。子供への防災教育は見事に親の命も救ったことになります。

「釜石の奇跡」は決して奇跡ではありません。災害に対して地域を知り、準備し、自分が主体者として判断することを徹底した結果なのです。被災地では住まいの移転を余儀なくされている地域も多いと思いますが、簡単にできるものではないことは容易に想像がつきます。地価の高い大都市の人口密集地域では、なんとか住み続けざるを得ないのが実情でしょう。地域の災害を知り尽くせば、次の段階として住まいの性能等で災害リスクを少なくすることが可能かどうかのステップに進むことができます。

<著者プロフィール>

佐藤 章子

一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。

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インデックス

連載目次
第29回 住まいに関する節約術(4) - 女性でもできるDIYの薦め
第28回 住まいに関する節約術(3) - 一挙3得! 住まいに関する日々の節約
第27回 住まいに関する節約術(2) - その家具、本当に必要?
第26回 住まいに関する節約術(1) - 誰も教えてくれない"間取り"の経済学
第25回 資産としての住まい(4) - "長期優良住宅"とは!?
第24回 資産としての住まい(3) - 住まいの資産価値は次世代の人生設計に大きく関与
第23回 資産としての住まい(2) - 資産価値の高い住まいとは?
第22回 資産としての住まい(1) - 持ち家、賃貸、どちらが有利?
第21回 耐震リフォーム(4)--「家具の転倒」から家族を守るリフォーム
第20回 耐震リフォーム(3)--耐震診断・耐震リフォームの支援制度
第19回 耐震リフォーム(2)--耐震リフォームにはどんな種類がある?
第18回 耐震リフォーム(1)--耐震リフォームはなぜ必要なのか?
第17回 住宅ローンとの賢い付き合い方(4) - 住宅ローンアラカルト
第16回 住宅ローンとの賢い付き合い方(3) - リフォームローンにもある減税制度
第15回 住宅ローンとの賢い付き合い方(2) - ローンの組み方と返済方法
第14回 住宅ローンとの賢い付き合い方(1) - 住宅ローンの種類と仕組み
第13回 マイホームのための街選び(4) - 「2地域居住」も視野に入れてみては?
第12回 マイホームのための街選び(3)--"資産としての住まい"を考えての街選びが重要
第11回 マイホームのための街選び(2)-「街選びはふるさと選び」の心構えを!
第10回 マイホームのための街選び(1) - 街選びのポイント
第9回 「相続時精算課税制度」って何? その狙いとは?
第8回 「贈与税」と「相続税」の関係 - セットで初めて生きる"相続と贈与"の知識
第7回 相続税、知っているのと知らないのとでは大違い! 「小規模宅地等の特例」とは?
第6回 「相続税」が増税されるって、知っていますか?--政府の財源確保策!
第4回 いつ起きても不思議ではない大地震--知っていますか? 地震保険の仕組み
第3回 災害に強い住まいとは?--「地盤」を考えない住まいは、まさに"砂上の楼閣"
第2回 住まいと防災(2)--地域を知る~「釜石の奇跡」は"奇跡"ではなかった~
第1回 住まいと防災(1)-- 考えなければならない災害とは?

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