連載コラム『美人すぎる公認会計士がこっそり教える、やわらかマネー知識』では、公認会計士の平林亮子氏が、その豊富な経験を生かした「お金」に関する知識を、分かりやすく説明します。あなたの人生を変えるような、とっておきのマネー知識が得られるかもしれません。


屋島ドライブウェイで不思議な体験、上り斜面なのに下っているような感覚に

先日、講演のために高松に行ってきました。確か、これが3回目の高松。非常に楽しい時間を過ごさせていただきました。

現地に赴任している知人がいろいろ案内してくれたのですが、印象に残っているのは屋島ドライブウェイ。屋島山頂へと向かって上っていく自動車道路なのですが、ここで非常に面白い体験をしたためです。道路はすべて上り斜面らしいのですが、起伏の関係で、下っているような錯覚に陥るところがあるのです。

急な上りの後の軽い上り、急斜面の後の平坦な地。そんな場所では、本当は上っていても、下っているかのような感覚になることがあるのです。

……人の感覚って、いい加減ですね。「高松に行ったのは"確か"3回目である」と記憶があいまいであったり、本当は上り坂なのに起伏の関係で下り坂に感じたりする。客観的に物事を把握しようとしても、主観がそれを絶えず邪魔をしている、と言っても過言ではないかもしれません。

客観的に物事を把握したい時に役立つのが「数字」

そんな時に役立つのが「数字」です。

インターネット専業の生命保険会社、ライフネット生命を立ち上げた出口治明社長の講演を聞きに行ったときに

「ビジネスは国語ではなく算数で考える」

とおっしゃっていたのを思い出します。

なんとなくいい感じであるとか、得をした気分とか、そういう判断は、多分に主観が入り込みやすいもの。そこに客観性を与えてくれるのが数字なのです。

たとえば、10%割引(値引)と10%ポイント還元はどちらが得か。

この命題はすでに色々な書籍や記事などでも紹介されていますから、いまさらここに記すまでもないかも知れませんが、計算をすれば明確な答えが出てきます。

10%ポイント還元の場合、100円の商品を購入すると、10円のポイントが付与されるため、100円で110円の商品を購入できることになる。

つまり割引率は、

(110-100)÷110=約9.1%

となり、10%割引よりも割引率が低い、という結論になります。

ちなみに、11%ポイント還元とすれば、ほぼ割引率10%。この場合には

「計算上、両者はほとんど同じ割引率」

ということになります。

このように、数字の力を借りることで、客観的な視点を持つことが可能になるのです。

企業にとっては、割引とポイント還元はまったく違う意味

ところで余談ですが、企業側にとっては、割引とポイント還元はまったく違う意味を持ちます。

まず、値引販売の場合には、値引後の金額しか企業に入りませんが、ポイント還元の場合にはとりあえず商品代金の総額を受け取れます。

また、値引販売の場合には、その時の売買で取引が完結しますが、ポイント還元の場合には、ポイントを利用した新たな売り上げに結び付く可能性が高くなります。

さらに、ポイントの利用がないままポイントが失効した場合、割引はなかったことになります。

もちろん、ポイントを付与する場合には、ポイントの管理のためのコストがかかるなど、企業側にデメリットがないわけではありませんが、たとえ、割引率が同じであっても、いろいろと異なる点が出てくるのです。数字の奥には社会の仕組みが色々と見え隠れするものです。

数字が常に客観的であるとは限らない

ただし、数字が常に客観的であるとは限らないことも忘れてはならないでしょう。

たとえば、統計データなどは、処理の方法一つで、異なる結論を導くことも可能です。グラフのメモリの幅を少し調整するだけで、ずいぶんと違った印象を与えることができます。

「7割は失敗する」と表現するか「3割は成功する」と表現するかで大きく違う、というのも一例。

数字があたかも客観的なフリをして、主観に大きな影響を与えることもあるというわけです。

なお、バーゲンなどで、値札についている価格よりも安く商品を購入できたとしても、それを「得した」と考えて良いのかどうかも疑問です。

毎日のように購入している200円のコーヒーがその日だけたまたま150円だったら得をしたと言えるかもしれません。200円を出す価値のあるモノを150円で手に入れたわけですから。

でも、バーゲンでたまたま目にとまって手に入れた商品は、その値段でその商品を手に入れただけのこと。定価だったらそれだけの価値を見いだせず、買わなかったかもしれません。

定価よりも安いから得なのではなく、自分が支払った以上の価値のあるモノだったとき、得をしたといえるのではないでしょうか。

客観も主観も両方大事

そう考えると、客観も主観も、両方大事。

ビジネスにおいて、客観性を欠いては判断を誤りますから、算数による検証や裏付けは絶対に必要です。でも、日常の判断は主観を頼りにしていることも多々ありますから、やっぱり国語も重要。

「7割の失敗」と「3割の成功」という算数を理解した上で、「3割の成功」にフォーカスしたほうが前向きになれるのであれば、そうやって物事をとらえる姿勢を持ち合わせていたいものです。

……屋島ドライブウェイを走りながら、そんなことをぼんやり考えました。

執筆者プロフィール : 平林 亮子

公認会計士。「美人すぎる公認会計士」としてTVやラジオ、雑誌など数多くのメディアに出演中。お茶の水女子大学在学中に公認会計士二次試験に合格。卒業後、太田昭和監査法人(現・新日本有限責任監査法人)に入所。国内企業の監査に多数携わる。2000年、公認会計士三次試験合格後、独立。企業の経営コンサルタントを行う傍ら、講演やセミナー講師など多方面で活躍。テレビの情報番組のコメンテーターを始め、ラジオ、新聞、雑誌など幅広いメディアに出演している。