今回の米国滞在中に日程調整がつかず会えなかった前国務副長官のリチャード・アミテージ氏に4月26日、都内で話をする機会があった。

同氏に最初に会ったのは85年の5月、ペンタゴンで、だった。彼は当時、国防次官補で国際安全保障を担当していた。ユーラシア大陸を弧のように包み込んだ日本列島の地政学的優位を生かして3海峡を封鎖することが対ソ戦略上、いかに重要か、を熱っぽく語ってくれたものだ。あれから22年もたってしまった。

ペンタゴンといえば9.11テロ攻撃で航空機が突入したが、五角形の建物が何重にも重なる堅固な構造で、突入機も一番外側の建物しか突破できなかったのではないだろうか。城郭のような構造を人は「リング」(輪郭)と呼ぶ。その中でも最高ランクの長官、参謀総長らが陣取るのが「G-リング」だ。アミテージ氏のオフィスもG-リングにあった。一番、外側だからアーリントン墓地からポトマック川に連なる素晴らしいワシントンDCの眺望を満喫することができる(その代わりテロ攻撃には危ない、ということになる)。

ちなみに上司にうまくとりいって前線勤務を逃れてペンタゴンにしがみついたまま出世を続けるゴマすり上手の将官を、「G-リング・ダンサー」というそうだ。

激務のアミテージ氏が東京からの一面識もない政治記者にインタビューの時間を割いてくれたのは、防衛庁長官を務めた三原朝雄氏、当時マイケル・グリーン氏をスタッフとして抱えていた知米派の椎名素夫氏らの紹介があったからだ。その両氏とも今はない。淋しい限りだ。

今回、アミテージ氏は共和党から大統領選挙に出馬表明しているマッケイン共和党上院議員の政策参謀を務めている。マッケイン氏はベトナム戦争で海軍パイロットとして捕虜となり、拷問を受けながら、「一番階級の下の者から釈放しろ」と迫ったという、絵にかいたようなアメリカン・ヒーロー。同じ海軍兵学校(アナポリス)出身、二人の友情は厚く、硬い。

「大統領選挙のいま」を聞くと、こんな答えだった。 「まだ分らないなあ。世論調査をみると政党別では民主党が共和党を上回っているのに、候補者別の調査では、ジリアーニ(前ニューヨーク市長・共和党)とマッケインがヒラリーより上についているんだ。これからだよね」。

次に私の安倍政権論を披露して彼の感想を聞いてみた。私は、2月にコロンビア大学院の日本語専攻の学生らを相手にこんな話をした。

  1. 安倍政権が参議院選挙後、倒れることは考えにくい。何故なら選挙に敗れるには、その分、誰かが勝たねばならないのだが「勝つ側」が見えてこない。小沢氏は「過去の人、田中角栄の焼き直し」に過ぎず、一定の農村票は取るだろうが地方区で圧勝できるとは思えない。また、仮に参院で自公が過半数を割ったからといって直ちに政権交代にはなり得ない。中間政党の取り込みなどで乗り切ることができる
  2. むしろ安倍政権のアキレス腱は日米関係だろう。参議院選挙の直後、退陣した政権は最近では宇野政権と橋本政権。しかしその直接原因は選挙結果というより個人的スキャンダルや、景気政策の失敗(消費税引き上げ)などだった。忘れてはいけないのは民主党のクリントン大統領時代に5代もの政権が退陣している事実だ。宮沢、細川(羽田)、村山、橋本政権である。それぞれ国内要因もあったが、クリントン政権は、この間一貫して中国重視。日本には経済摩擦解決のため理不尽な数値目標をひたすら迫った。特に村山政権では96年にいったん訪日を決めながら"ドタキャン"を喰らわせるなど「ジャパン・パッシング」(無視)の姿勢をとり続けた。こうした「日米冷却」が各内閣の早期退陣の背景事情としてあったことは否めない。私は安倍氏らの、「従軍慰安婦発言」は中国、韓国に向けたナショナリスチックなもの、というより国内の戦後政治、戦後世代への反発、世代交代宣言という風にみている。ただ、そうであってもこうした言動は人権重視派の多い民主党内からみれば、反米ナショナリズムの台頭と見えるだろう。前回、紹介した国務省の担当者が言うように安倍首相には、ブッシュとの、「ラブ・ミー・テンダー」関係もなく、イデオロギッシュなネオコンの応援も期待できない。と、すれば仮に民主党多数の議会が続き、08年大統領選挙で民主党候補が勝てば...?

アミテーイジ氏は、面白そうに聞いていたが、「ブッシュ大統領と安倍首相は、ハノイでの(初対面の)会談でも息が合ったし、ラブミーかどうかはともかく上手くゆくと思うよ。」と楽観的見通しを示していた。しかし民主党政権下での日米関係については、「ウーン、We will see(成り行きを見るしかないね)」と、うなるのみだった。

今回も、安倍首相と昼食をともにするなど二人の仲は深い。民間のコンサルタントになったアミテージさん。あまりキツイことは言いたくないという配慮がうかがえた。