【コラム】

世界の街角から

8 ニューヨークで考えたこと(5)

    河内孝  [2007/03/31]

    ニューヨークから(2)

    ロースクールでのセミナーなどというとホコリ臭い判例集、堅苦しい法衣などを思い浮かべるだろう。無論そういう授業もあるに違いない。一方で我々市民が聞いても大変興味あるイベントも頻繁に開かれている。たとえば2月21日に行われたステーブ・フォーブス氏を招いての税制の勉強会はとても面白かった。

    ご存じのようにフォーブス氏は、雑誌「フォーブス」のオーナーで億万長者。1996年と2000年の大統領選挙に、「均一税制」を引っ提げて名乗りを上げたことでも有名だ。コロンビアというブランド力のせいかもしれないが、こういうセレブが気楽に弁護士の卵や教授連中(及び我々聴講生)と意見を交わしに来るカジュアルさがアメリカの大学教育の強味だと思う。

    フォーブスの税制論は極めて単純だ。年収6,000ドルから所得課税するが累進率は極度に単純化する。課税上限を設定する。貯蓄には課税しない。法人税は17%に一本化するが何千とある税控除は原則廃止する。

    彼によれば米国税制は歳入側に問題があるのでなく歳出側に問題があるのだから、政府の規模、関与を極小化すればこれでも十分やってゆける。同時に、「税、特に法人税を下げることが経済成長に役立つことは歴史が証明している」としてケネディ、レーガン、ブッシュ歴代政権の減税を説明する。「たとえばブッシュ政権の減税により03年から4年間、4%台の成長が続いたが、このボリュームは中国一国の経済規模と同じなのだ。つまり減税で中国一国分の経済を作ったのだ」。

    フォーブス税制では無論、金持ちほど優遇される。「それが何が悪いのか」とフォーブスは胸を張る。誰もが金持ちになる可能性を秘めているのがアメリカではないか。フォーブス家だって3代前にさかのぼればヨーロッパから移民してきた貧民だった。必死に働き、苦しくても子供への教育投資を惜しまなかった。そしてビジネスのリスクをとって来たことで、「アメリカン・ドリーム」を体現させたのだ。

    「だから税制は人間性を変える」と主張する。「なぜ西欧各国の競争力は落ちているのか。彼らは今や年10週間の休暇を取っている。働いても働かなくても税負担が同じだからこういうことになる。米国も60年代に同じ社会病に罹ったことがある。こうした社会風潮を変えたのがレーガンの保守革命だ。働いた者(稼いだ人)が報われる税制にすれば人はリスクを取って必死に働く。金が貯まればもっと働くようになる」。

    彼によれば現在の連邦税科目の多くが1898年の米西戦争戦費調達のために導入された戦争目的税。だからその一つ一つを引っ剥がすのは当たり前なのだ、という理屈になる。適者生存、天は自らを救うものを救う--。賛成か、反対かは別にしても明快な共和党本流の論理展開はまことに分かり易い。

    プレゼンテーションもさることながらその後の質疑応答がさらに面白い。たぶん、これは小学校以来の教育のせいだと思うのだが、質問する人ほど、手を挙げる生徒ほど熱心に授業に参加している、意欲があるという評価、価値観が骨の髄からしみ込んでいるとしか思えない。

    笑ったのは、「そんなにいい税制なのに皆が反対するのはどういうわけか」という質問。フォーブスは嫌な顔も見せずに、こう答えた。「君らワシントンには国税庁、議会、タックス・ロイヤー、君らもその一人になるかもしれないが(笑)、議員、ロビーストが何人いるか知っているか? 彼らにとっては現在の複雑で控除やルールが毎年変わる税制が飯の種なのだ。私のフラット・タックスが導入されたら彼らは皆失業してしまうのだ」(大拍手)。

    質問、「貧しい人への配慮がないではないか」。フォーブス、「これは成長と教育の問題なのだ。勤労の価値を教え、この国では働き、リスクを取ることが成功の道であることを分かってもらわなくてはならない」(つまり金持ちになれぬものが悪いのだ)。

    無論、この議論をそのまま日本に持ち込むことは不可能だ。しかし法人税を徹底的に減税して国際企業の誘致に成功したアイルランド(同国の個人所得は英、独、仏を抜いた)。また、その後を追おうとする東欧諸国の動きをみると均一税制のダイナミズムは半端ではないという気がする。

    それより何より大統領選挙にまで出た億万長者の出版社オーナーが、骨の髄からのジェファーソン・アメリカンであることに感心してしまった。つまり建国の父たちは、権力が自己作用として必ず肥大化し腐敗することをヨーロッパの歴史に学び、いかにして政府が個人と、コミュニテイの生活に関与しないようにするかに腐心した。そのため常備軍すら否定したのだ。建国の歴史とDNAがこういう人の背骨に残っていることが分かってとても楽しい2時間だった。

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