【コラム】

世界の街角から

6 ニューヨークで考えたこと(3)

    河内孝  [2007/03/19]

    I-netは民主主義の敵か(2)

    正面切って、「民主主義とI-net」と言われてもイメージがわかない -- という人も多いだろう。少し具体的な議論から考え直してみよう。

    当選すれば最初の黒人系大統領となるオバマ民主党上院議員が出馬の意向を表明したのは1月20日、自らのウエッブ・サイト上で、だった。直後、保守的な論調で知られるルーパー・マードック氏が所有するFOX Newsにこんなニュースが流れた。「オバマ氏は小学校時代を過ごしたジャカルタでイスラム神学校に4年間通っていた」。日本人にはなんということもないニュースに感じられるが、アフガンで、イラクで、あるいはスーダンでイスラム過激派と戦争を繰り広げているアメリカ国民にとっては、「ギョッ」とする話である。

    そこはアメリカのいいところで早速、CNNの記者がジャカルタに出かけてFOXの報道内容が全く事実と反することを確認して報道した。問題はこれからである。FOXは取材に対してニュース・ソースがオバマ氏に批判的なウエッブ・サイトにアップされた記事であることを認めたうえで、「どのようにニュースをコンファーム(再確認したか)」については報道の自由を盾に、「明かせない」と答えていることである。本来なら事実を確認して報道に当たる、「ゲート・ウエイ」の役割をたすはずのテレビ局の報道部門がウエッブ・サイトの書き込みに依拠して報道を展開したらどうなるのか -- という先行例となった。

    これは前回も引用したキャス・サンスティーンが「インターネットは民主主義の敵か」で指摘した「サイバー・カスケード」(雪雪崩現象)の典型例である。サンスティーンは言う。「サイバー・カスケード現象は次の4段階で発生する。(1)少数の人たちが何かについて発言する。(2)直接情報を持たない人達がそれを信じる。(3)大勢の人達がこの発言に注目始める。(4)皆が言っているので間違いはないと考え、この発言を鵜呑みにする人の数が増え続ける。

    重要なのは、多くの人がある情報を確信する際に、「皆がそう言っている」ということを理由にすること。また人間の持つ根本的な感情として、「聞きたい情報を信じたがる」という要素があることだ。

    程度の差こそあるが人によっては、無料を売り物に爆発的に伸びているGoogleのGmailに危惧を表明する。メールの文章内容を分析して、それに合わせた広告が掲載されるしくみは、個人情報の侵害に当たらないか、という疑問からだ。EPIC-2014で描かれる、「人の好奇心を先取りするグーグルゾン」も、この機能を突き詰めてゆけば、犯罪者が犯罪を犯す前に逮捕する、というSF映画「マイノリティ・リポート」になるのではないか、という議論もアメリカにはある。

    インターネットと民主主義の関係を正面から取り上げたセミナーを本にした、そのものずばり「民主主義とニューメディア」(2003年、マサッチュセッツ工科大学出版局)を読むと、こうした疑問への答えに至る道が見えてくる。「至る道」と持って回った言い方をするのは、このセミナーの参加者も答えを見つけてはいないからだ。

    例えば寄稿者の一人、セサミストリートのプロデューサーであるロイド・モリセットは、こんな風に言う。「印刷物や、ラジオそしてテレビジョンがかってそうであったようにインターネットとE-mailも自由主義に貢献する技術となりうる。しかし過去の技術も使いようによっては自由主義を危険に陥れたことがあった。(ここで彼はヒットラーのマスメディア戦略の卓越性を指摘している)。インターネットも同じことなのだ」。技術は結局、使う人次第でどうにでもなる -- という単純な結論なのだが、問題は選択力を持った賢いユーザーをどうやって「多数派」にするか、ということだ。

    サンスティーンは、近未来をこう展望する。「インターネットは期待を超えるものとなっている。これからも進化を続けるが、その理由の一つは数多くの人たちが進化に貢献していることだ。5年後には本当に目を見張るようなものが出てくると確信している」。インターネットが進化を続けていることは疑いようもない。しかし同時に効果的な陰謀、脅迫、名誉毀損のツールにもなりうる。そこで彼は、警鐘を鳴らす。「こうした事態を避けるには、旧来の現実社会と同様の手段を使う以外に方法はない。そのためにも利用者のセルフガバメント(自己統治能力)を推進することが必要なのだ」(エコノミスト'07年2月20日)。

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