本連載も今回で100回目を迎えることになった。第1回のネタは「Nokiaの決算報告から見た2007年の海外携帯市場」。まだ最初のiPhoneがアメリカで発売された直後であり、世界の携帯電話市場の優劣はいまとは全く異なる状況だった。フィーチャーフォンからスマートフォンへの移行、OSをめぐる争い、メーカー順位の入れ替わり、そして新興メーカーの台頭と、今もスマートフォンを取り巻く環境はめまぐるしく変わっている。あっという間にシェア1位の座に上り詰めたSamsungも成長に苦しみ、そして今度はAppleにも陰りが見え始めている。果たしてこれからメジャーになるメーカーはどこだろうか?

今では想像できない10年前のスマホ市場

2008年第1四半期の世界の携帯電話の販売シェアを振り返ってみると、1位はNokia、2位がSamsung、3位がMotorola、4位がLGそして5位がSony Ericssonと、その顔触れは今とは大きく異なっている(ガートナー調査。以下同)。Samsungは2位につけているもののNokiaとの販売数の差は2.7倍もあった。しかもNokiaのマーケットシェアは39.1%と一人勝ちの状態だったのだ。だが翌2009年にはNokiaの販売数は減少しSamsungとの差を縮め、MotorolaはLGに抜かれるなど老舗メーカーの凋落がはじまった。スマートフォンだけで見ればこの時すでにAppleは10%のシェアを持っており、発売からわずか1年ちょっとで市場におけるプレゼンスを高めていた。

iPhoneの登場は携帯電話とインターネットをシームレスに融合させただけではなく、手の平の上で常に外とつながる「Connected」な環境を日常的なものとした。またスマートフォンを活用する様々なアプリが生み出され、アプリ市場も生み出した。もちろんiPhone以前には日本のiモードが携帯電話インターネットとアプリビジネスで成功を収めていたものの、そのビジネスは日本の中だけのものであり、海外展開を図ったものの結局は失敗に終わっている。

2008年の携帯電話の世界シェア。今とは全く異なる状況だ

携帯電話市場のすべてを変えたiPhone

2010年代に入ると人々はこぞってiPhoneの中で有料アプリを買い、さらにはiTunesで音楽を購入した。iPhoneは携帯電話を取り巻くエコシステムを根本から変えていった。しかも高速な通信環境を求めるiPhoneユーザーの満足度を高めようと、通信事業者の設備投資も急激に進んでいった。iPhoneが無ければ今のスマートフォンを取り巻く環境は生まれなかったといっても過言ではない。

しかしSNSの普及がスマートフォンの使い方を大きく変えていった。アプリそのものを楽しむのではなく、アプリを通してコミュニケーションを図る使い方へと変わっていったのだ。有料アプリビジネスの話は今ではあまり聞かなくなり、アプリを通して課金やサービスを提供するビジネスが主流となった。さらにはAndroidが実質的にスマートフォンのメジャーOSとなったことで、新しいアプリやサービスはまずiPhoneから、という時代も終わりを迎えようとしている。

新興勢力も世代交代、サービスがスマートフォンの覇者を変える

これから先しばらくはSNSがスマートフォンの中心的存在として消費者の生活をより便利なものにしていくだろう。しかし2016年7月にサービスを開始するや、一気に利用者を増やした「ポケモンGO」のような、新たなアプリやサービスがこれからも次々と生まれてくるかもしれないのだ。それにより人々がスマートフォンに求める機能が変わり、スマートフォンメーカー間のパワーバランスも大きく変わる可能性もある。

たとえば2011年にスマートフォン市場に参入し、一気に販売数を増やした中国のXiaomi(シャオミ)は、4年目の2015年に早くも成長の勢いが止まり販売数を増やせないでいる。同社の製品の売りは「高性能・低価格」で、驚異的なコストパフォーマンスが特徴だった。しかし今では同じ価格の製品を他社も続々と市場に送り出しており、Xiaomiの優位性は大きく揺らいでいる。またスマートフォンにしっかりとした品質を求めるユーザーも年々増えているが、Xiaomiの製品はAppleやSamsungの製品と比べ、製品の仕上がりはまだ追いついていない。「安くていい商品は作れても、高くても売れる製品が無い」これがXiaomiのジレンマになっている。

急成長を遂げたXiaomiにも陰りが見えている

セルフィーブームで人気急上昇のVivo

Xiaomiの代わりに人気が急浮上しているのが同じ中国のOPPOやVivoだ。両者ともに金属ボディーの高い質感の製品を次々に開発している。最新モデルはiPhoneにかなり近いデザインだが、両者の狙いはiPhoneユーザーの取り込みでは無い。フロントに1,600万画素カメラを搭載し、どんなシーンでも最高に美しいセルフィーを撮ることのできる「自撮りスマートフォン」として売り込みをかけているのだ。若い女性のSNSのタイムラインがセルフィーで埋め尽くされていることからわかるように、今は自分の顔の表情を使ったコミュニケーションがトレンドとなっている。そんな時代のスマートフォンに求められるのは「大画面」「高画質なフロントカメラ」であり、OPPOとVivoはそれに対応した製品を次々と製品化しているのである。

Appleはこれからも重要なプレーヤーとしてスマートフォン市場の中心に位置するだろう。しかしスマートフォンの使い方に合わせて消費者ニーズも変化していく。たとえばポケモンGOの普及は大容量バッテリーや急速充電へ対応したスマートフォンの人気を高めるものになるかもしれない。これからはトレンドを先読みできるメーカーが一気に力をつける時代となるだろう。