いつでもどこでも腕時計で点字が読めるという、視覚障碍者の方々にとって夢のようなウェアラブルデバイスを韓国のDot社が開発している。過去には展示で時間を知ることのできる腕時計が発売されたこともあった。しかしDotの開発した腕時計「Dot Watch」はメールやSNSのメッセージなどを点字にして表示できるという、世界初の点字表示対応スマートウォッチなのだ。

時計の文字盤にピンを使って点字表示

視覚障碍者の方々はスマートフォンの文字読み上げ機能を使えばメールの内容などを耳で聞くことができる。またSiriのような音声アシスタントを利用すれば口頭でWEB検索なども行える。だがそれが自由にできるのは自宅内でのことだ。外出中に読み上げ機能を使えばその内容を他の人に聞かれてしまうし、騒音の大きい所ではイヤホンを使っても聞き取りにくいこともある。しかしDot Watchならばリアルタイムで点字表示を行えるため、情報を音声に頼らず読むことができるというわけだ。

Dot Watchのサイズは直径が42mmほど。一般的な腕時計とほぼ同じ大きさだ。若干厚みがあるが、側面には右手でも楽に操作できるような大きいボタンが3つ搭載されている。そして時計の文字盤部分には30本のピンが内蔵されている。点字は縦3個、横2個のドットで一文字を表すが、Dot Watchもピンは縦に3個、そして右側に横5列、左側にも横5列と左右に分かれて並んでいる。通常は5列のうち真ん中の列のピンは使われない。つまり「縦3個×2列」の文字を4文字表示できる。

MWC 2016で実製品を初公開したDot

Dot Watch。時計表面にピンを使って点字を表示できる

Dot Watchは一般的なスマートウォッチがスマートフォンからの通知を文字表示するように、点字で表示してくれる。アラーム機能もあるので薬を飲む時間や大事な予定を忘れてしまう心配も無くなる。普段は時刻を表示しておくことも可能だ。また点字の学習機能も搭載しているとのこと。

Dot Watchは韓国の通信事業者、SKテレコムから1億2,000万ウォンの資金調達を受け、Dot Watchや点字表示機の開発を行っている。韓国の各通信事業者は通信サービスの強化だけではなく、様々なIoT製品の開発にも力をいれている。その一環としてSKテレコムは積極的にスタートアップ企業の支援を行っている。Dot Watchの世界初の公開も、2016年2月にバルセロナで開催されたMWC 2016のSKテレコムブース内に設置された、Dotのミニブースで行われた。なおそこではDot Watchだけではなく銀行などに設置できる大型の端末も参考展示されていた。こちらの製品はピンが3個×17列上下に並び、それぞれ6文字ずつ、12文字を一度に表示することが可能だ。Dotの説明者によると他にもタブレットなどを開発中とのことであった。

さてせっかくならば、この点字機能を内蔵したスマートフォンも開発して欲しいところだ。スマートフォンにこのピンの上下機構をそのまま搭載すると、本体の厚みが増してしまうので内蔵は難しいかもしれない。だがアタッチメントとして搭載するアイディアなら実現の可能性がある。MWC 2016ではLGが本体下部部分を脱着でき、カメラグリップなどを取り付け出来るスマートフォン「LG G5」を発表した。この部分にDotの点字ユニットを内蔵したモジュールを取り付ければ、点字表示を行えるスマートフォンを実現できる。同じ韓国企業同士としてぜひ両者で協業してほしいものだ。

据え置き型端末の試作モデルは点字を12文字表示可能

LG G5は本体下部にアタッチメントを脱着可能。Dotの点字機能が装着できたら便利だ

Dotによると世界には約2億8,500万人の視聴障碍者の方々がいるという。だが点字に翻訳された書籍の割合は1%以下であり、書籍を読むことでも大きな苦労をしている。また点字の利用できるタブレットも存在するがサイズが大きく持ち運びしにくいだけではなく、数十万円と価格も高い。Dot Watchは300ドル以下という手軽に購入できる価格になる見込みだという。世界中の視覚障碍者の方々のためにも、日本を含む全世界での発売に期待したい。