今や友人や家族との連絡手段はメールに変わり、ソーシャルネットワークサービス(SNS)を使うことが当たり前となった。最近では仕事の連絡もSNSのメッセンジャーで済ますことも珍しくない。しかしそうなるとプライベートのアカウントと仕事のアカウントを分けて使いたくなるのではないだろうか? 仕事の連絡を迅速に行いたいからといって、会社の上司にLineアカウントを聞かれても即答しにくいのが実情だろう。

Twitterなら複数のアカウントを切り替えて使えるアプリもあるが、メッセンジサービスのLineなどはスマホでは1つのアカウントしか使えない。これはサービスの開始当初、アカウントを電話番号と紐づけして登録していたことからそうなっているようだ。海外でもメジャーなアプリ、WhatsAppやWeChatでも同様で、1つのスマートフォンでは一つのアカウントしか使えない。

もちろん2つのアカウントを持てばアカウントを入れ替えることも可能だが、過去のメッセージが消えてしまったりアプリの再インストールが必要だったりと非常に面倒だ。どうしても2つのアカウントを同時に使いたい場合は、現状ではスマートフォンを2台持つしか方法がないのである。

1台のスマートフォンで2つのアカウントを使えるスマホが海外では販売されている

ところが海外では1台のスマートフォンで2つのメッセージアプリのアカウントを利用できるスマートフォンが販売されている。それを実現できる秘密はデュアルSIM機能だ。デュアルSIMとは1台のスマートフォンに2枚のSIMを入れて同時待受けできる機能。スマホにメッセージアプリを2ついれて、2枚のSIMそれぞれに関連づけるという、ちょっと強引な方法で2つのアカウントを同時に利用できるようにしているのだ。それらのスマートフォンは中国や東南アジアでメジャーなWeChatのアカウントを2つ同時に使うことができる。

デュアルSIMスマートフォンは日本でもASUSのZenFoneなどいくつかの製品が販売されている。だがデュアルSIMスマートフォンは1枚のSIMはLTE/3G対応なのに対し、もう1枚のSIMは常に2Gとなる。日本では2Gの電波は飛んでいないために、デュアルSIMのスマートフォンも常に片側のSIMしか利用できない。そのためデュアルSIMスマートフォンをあえて選ぶ人は少ないだろう。日本国内ではドコモなど大手キャリアのSIMと、格安なMVNOのSIMを切り替えながら使う、といった用途くらいにしか使い道がない。

一方海外では多くの国でまだ2Gサービスが提供されいてる。そのためデュアルSIMスマートフォンを買えば「LTEで高速通信するためのSIM」と、「2Gで通話するためのSIM」を2枚同時に入れ、同時待受けができるのだ。2GのSIMは音声通話しかできないスマートフォンもあるが、低速ながら2Gのデータ通信に対応しているモデルもあり、そのような製品は2枚のSIMのどちらも常時データ通信を利用することができるわけだ。

アジアではメジャーなデュアルSIMスマホ。片側のSIMスロットはメモリカード兼用のものも

このように2枚のSIMを入れて、どちらもデータ通信可能なデュアルSIMスマートフォンを出しているメーカーから、2枚のSIMそれぞれに対してWeChatアプリを2つインストールしたモデルが販売されている。つまりそれぞれのWeChatアプリに「個人用と会社用」あるいは「家族用と友人用」のように、異なるWeChatアカウントを登録して同時に利用できるのである。チャットアプリなら2Gの低速回線でも実用上問題なく利用できるだろう。

ちなみにデュアルWeChatスマートフォンを販売しているメーカーはWeimi、Hasee、Kliton、Ebestなど。日本ではほとんど知られていないが、中国や東南アジアでは2番手メーカーとして多数の製品を出している。デュアルWeChatスマートフォンは、ブランドやハードウェアの機能で大手メーカーに勝てないこれら中小のメーカーが知恵を絞って搭載した機能でもあるのだ。

マイナーメーカーの知恵がデュアルWeChatスマホを生み出した

さてこれらの「デュアルSIM、デュアルWeChatスマートフォン」を日本に持ってきても、前述したように片側のSIMの通信方式が2Gのため使うことはできない。だが同時待受けはできなくとも、普段はプライベートなWeChatアカウントのSIMをONにしておき、仕事の連絡の時だけ仕事用WeChatのアカウント側のSIMをONにする、と切り替えての使い方はできる。日本で販売されているデュアルSIMスマートフォンも、両スロットが3G/LTE対応モデルなら、Lineのアカウントを2枚のSIMそれぞれに紐づけて切り替えながら2つのアカウントを使うことは可能だ。

とはいえ同時待受けできなければ、「デュアルLineスマートフォン」としての使い勝手はあまり良くは無い。デュアル3G/LTEに対応して、なおかつ同時に3G/LTEの待ち受けができるスマートフォンは現在海外でも販売されていない。SNSがコミュニケーションツールの主役になった今、SNSサービス側の複数アカウント対応や、デュアルLTE待受けスマートフォンの登場を期待したい。