わずか数年でスマートフォンの販売シェア世界5位以内に入った新興メーカーのXiaomi(シャオミ、北京小米科技)。iPhoneの半額以下で性能はほぼ同等というコストパフォーマンスの高い製品で販売数を急増させてきた。だがここにきて母国、中国のスマートフォン市場の停滞を受け販売戦略の転換を余儀なくされている。

北京にある同社の直営店、「小米之家」を訪問してみると、スマートフォン依存の事業モデルから脱却しようとしている同社の姿を見ることができる。では小米之家ではどんなものが売られているのだろう?

空気清浄機に浄水器、シャオミは家電メーカー?

小米之家の店内は広いスペースの中にXiaomiの最新製品全てが展示されている。木製の広いテーブルや壁に掲げられたXiaomiのスマートフォンの写真などのイメージはどことなくAppleストアにも似ているが、置いてある製品はほぼ全てがXiaomiの製品だ。サードパーティー製のアクセサリや周辺機器を多数販売するAppleストアとはその様相はだいぶ異なる。

さて小米之家を入ってすぐに目につくのはキッチンを模した水回りの展示。そこにあるのはなんと浄水器だ。また店内中央にはスマートフォンが展示されているものの、そのすぐ横にあるのは空気清浄機なのである。スマートフォンメーカーのXiaomiの製品だけに、どちらもスマートフォンを使って電源の入り切りを行ったり、フィルターの目詰まり状態を監視できる。しかしこれらの製品はスマートフォンの周辺機器ではなく、独立した主力製品のように展示し販売されているのである。

北京市内に数店舗ある小米之家

店舗は明るく広い、あか抜けた印象

店に入ってすぐに目につくのは浄水器

空気清浄機も主力製品だ

もちろんスマートフォンは目立つ位置に展示されているし、スマートホーム用の電源タップ、高速なWi-Fiルーターなども展示販売されている。だがその一方で色をスマートフォンでコントロールできるLEDライトや、同社のマスコットキャラクターのぬいぐるみまで販売されている様を見ると、Xiaomiがスマートフォンだけで生きて行こうと考えているメーカーではないことがわかる。

もちろん最新スマートフォンも展示。このあたりはちょっとAppleストアっぽい

スマートホーム用のドアセンサーなど。これもXiaomiの自社製品だ

同じく自社製品のLEDライト

キャラクターグッズまで販売。Appleには見られない戦略だ

オープン戦略でXiaomiの世界を拡大

Xiaomiは中国スマートフォン市場の伸びと共に急成長したものの、それが見えない海外からは「Appleのコピー」という、不名誉なキャッチコピーが付けられそれが独り歩きを始めてしまった。だがAppleがiPhoneを中心に自社のサービスや規格で独自の世界を生み出しているのに対し、Xiaomiのスマートフォンや周辺機器は「Xiaomiで無くてはできない」というものは無い。Xiaomiのスマートフォンは使いやすい独自のユーザーインターフェースを搭載しているが、できることはSonyやSamsungなど他社のAndroidスマートフォンと同じだ。

しかもXiaomiは「低価格」を大きくアピールしている。Xiaomiの製品は価格が安いのに高性能で高品質、その噂を聞きつけた人たちがこの小米之家を訪れ、実際に製品に触れてその品質を確かめに来ているのである。

ではなぜ空気清浄機や浄水器までも販売するのだろうか。それはXiaomiがスマートフォンメーカーからの脱却を図っているからである。中国では大気汚染や水質汚染が大きな問題となっており、多くの家庭が空気清浄機や浄水器を設置している。つまりこの2製品は中国では今や生活必需品なのだ。

だがそれらは家電メーカーの高価なものか、ノーブランドメーカーの品質の悪い安価なものしかない。Xiaomiはスマートフォンで培った「原価に近い価格で高品質、低価格なモノづくり」をそんな生活必需品の家庭用の家電にも展開を始め、競争が厳しい生活必需家電の世界に割り込もうとしているのだ。

その一例が昨年発売したウェアラブル端末の「Mi Band」だ。リストバンド型で手首に巻き付け、運動量を測定しスマートフォンで管理できる活動量計である。この手の製品は「Jawborn」などすでに多くのメーカーから様々な製品が販売されている。だがMi Bandがすごいのは類似の機能を持ちながら価格は日本円で約1600円。6色あるカラフルな交換ベルトはわずか400円だ。ここまで安い製品は中国といえどもノーブランドのものにもなかった。

Xiaomiのスマートフォンは独自UI搭載のAndroid OSを実装。できることは他社のスマートフォンと変わらない

2000円以下のMi Band。低価格高性能スマートフォンの手法を他の製品にも広げている

Xiaomiのホームページを見ると、スマートフォン以外の製品はアクションカメラ、スマート体重計、スマートTV、Bluetoothスピーカー、モバイルバッテリーと製品展開数は数百を超える。全ての製品は同様に価格が安く品質も悪くない。そして重要なのは、これらの製品はXiaomi以外のスマートフォンでも利用できる。

自社のスマートフォンを購入してもらい、そこから世界を拡大しようとするAppleに対し、Xiaomiはもはや自社のスマートフォンを買ってくれなくとも、家電製品やIoT、周辺機器などを買ってもらい家の中にXiaomi製品を増やしてもらう、そんな製品展開戦略を取っているのである。スマートフォンが爆発的に売れない時代がやってくることをXiaomiはすでに見越しているのだ。数年後のXiaomiは、スマートフォンも取り扱う総合家電メーカーに変身しているかもしれない。

スマートTVでも低価格品で攻勢をかける

モバイルバッテリーだけではなくLEDライトや小型のファンまで、これらのXiaomiの製品だ