2015年春に発売になったApple Watch以降、スマートフォンと接続して利用できる腕時計型のウェアラブルデバイス、いわゆる「スマートウォッチ」への関心度が高まっている。スマートウォッチは数年前から発売されていたが、最近の製品は電話やソーシャルサービスの着信通知だけではなくアプリが利用できる高機能な製品も多い。スマートフォンほどまだ製品のバリエーションは多くはないものの、様々なメーカーから毎月のように新製品が発売されている。

2015年9月にドイツのベルリンで行われた家電の大型展示会であるIFA2015でも、スマートウォッチの新製品が各社のブースに並んだ。それらの製品をざっと見てみると、ある一つのことに気が付く。それは多くの製品が共通の外見を持っていることだ。

Apple Watchをはじめ、SonyやASUSなど各社のスマートウォッチは正方形または長方形のディスプレイを採用している。それに対してIFA2015で見かけた各社の新製品は、そのほとんどが丸形のディスプレイを採用していたのだ。またそれだけではなく本体のデザインも「いかにもIT機器」あるいは「ちょっとしたデジタル製品」というイメージのものは少なく、ぱっと見ると普通の腕時計に見えるような製品ばかりだった。

たとえばSamsungが発表した『Gear S2』を見てみよう。同社はこれまでスクエアな画面のスマートウォッチを毎年販売してきた。だがGear S2は円形画面となり過去のモデルとは全く異なるデザインを採用している。しかも画面の縁、すなわちベゼル部分を回して操作するという独特なユーザーインターフェース(UI)を搭載した。スマートウォッチの狭い画面の操作方法としてはこのベゼル方式は使いやすく、円形の画面を採用したのもこのUIを採用するためだったのかもしれない。

SamsungのGear S2の画面は円形となった。ベゼルを回して操作できる

IFA2015のSamsungブースでも、Gear S2の丸い形状をアピール

またSonyがクラウドファウンディングを利用して製品化を行う『wena wrist』はこれまでのスマートウォッチとは異なり、時計のベルト部分にスマート機能を内蔵している。時計部分はアナログ時計で、シチズン時計が設計している。つまりwena wristが目指すのはまずは腕時計として使える製品であり、それをスマート化するためにベルト部分に機能を詰め込んだのである。

この他にも運動量を計測するスポーツ用品メーカーの製品も同様に「円形画面」「腕時計らしいデザイン」のものが目立っていた。これらの製品はプラスチックバンドにカラフルなボディーを採用するなど、スポーツ用品のようなデザインの製品が多かったが、Runtasticが発表した『MOMENTO』は普段の生活の中でスーツや私服を着ていてもそのまま腕時計として使える外見をしている。

Sonyのwena wristは腕時計のベルトをスマート化した製品

Runtasticの『MOMENTO』。普段から腕時計として使えるデザインだ

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しかしどうして各社は急に円形ディスプレイの採用を進めているのだろうか。Apple Watchを見ればわかるように、情報を表示するのならば正方形のディスプレイのほうが円形よりも多くの情報を表示できる。アプリを使う場合でもスマートフォンの画面を超小型化した正方形、長方形のディスプレイ形状のほうが使いやすい。

だが実際にスマートウォッチを使ってみると、まだまだ使い勝手はいいとは言いがたく、また通知機能などもポケットの中でバイブレーションで振動したスマートフォンを取り出して画面を見れば事足りる。予定の時間になれば時計が教えてくれると言われても、それを毎日必要とするような人はそれほど多くないだろう。便利なアプリも生活に無くてはならない、というほどのものはまだ少ない。

つまり今のスマートウォッチは、あれば便利だが無くても困らない、という域をまだ越えられていない状況なのだ。鳴り物入りで登場したApple Watchも、最近はあまり目立った話題が効かれなくなっている。そこで各メーカーは機能を強化することよりも「まずは腕時計として使ってもらう」ことを第一に考えだしたのだろう。円形ディスプレイを採用した製品が相次いでいるのはそんな背景があるのだ。

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果たしてこの腕時計スタイルのスマートウォッチが今後しばらくはトレンドとなるのか、あるいは生活を便利にするようなキラーアプリが生まれ、正方形画面の製品が人気になるのか。スマートウォッチの製品開発はまだまだ各社の試行錯誤が続きそうだ。