メーカー製のSIMフリースマホが通信事業者や家電量販店で自由に販売されている香港。最近になって香港から海外へ渡航するための便利なSIMカードの販売が相次いでいる。SIMフリースマホのメリットの一つは他社のSIMを利用できること。だが海外で現地のSIMを買おうにも、事前に料金を調べておいたり販売場所を確認しておく必要がある。また世界のたいていの空港には通信事業者のカウンターがありその場でプリペイドSIMを買うこともできるが、いざ行ってみると営業時間外だったり大行列ですぐに買えなかった、なんてこともある。

海外のプリペイドSIMが自分の国で購入できれば一番便利ではあるが、通信事業者が他国で自社のプリペイドSIMを販売するには現地の営業許可を取る必要があるなど現実的には難しい。ならば他国で使えるプリペイドSIMを自社サービス品として販売すればいい、と考えたのが香港の通信事業者だ。都市国家である香港は隣町へ行くことがすなわち海外渡航となる。香港の消費者にとって海外用のプリペイドSIMは日常的に必要な商品でもあるのだ。

台湾・台北の空港はプリペイドSIMを求める客でカウンターが常に混んでいる

アジアの空港は比較的プリペイドSIMが買いやすいが、ヨーロッパでは日曜休みや夕方過ぎに営業終了していることもある

では香港ではどのような海外用プリペイドSIMが販売されているのだろう。音声通話がメイン利用となるプリペイドSIMはすでに昔から販売されているが、最近目立っているのがスマホ利用に特化したデータ通信専用タイプのSIMだ。中でもラインナップを多数用意しているのが中国聯通香港(チャイナユニコム香港)である。

同社は香港のMVNO事業者で格安プリペイドSIMも販売しているが、海外用データ通信プリペイドSIMの種類をこの1年で一気に増やしている。例えば中国用のデータプリペイドSIMは7日間1GBで150香港ドル、約2000円と手軽に購入できる。香港人はみなSIMフリースマホを持っているので、中国に行く際は普段使っている香港の事業者のSIMを抜いて、このSIMに入れ替えればそのまま使えるわけだ。

プリペイドSIMのメリットはデータ利用上限になれば使えなくなるため使い過ぎてしまうことが無い。またローミングではないため誤課金の心配も無い。もちろんSIMを入れ替えるので普段使っている自分の電話番号に電話がかかってきた場合は受けることができないが、SIMフリーのケータイなら5000円以下で買えるため通話用にそちらを用意し、香港で普段使っているSIMをそちらに入れのもよい。あるいは連絡はメールやTwitter、LINEなどと割り切ってしまってもいいだろう。それに今やソーシャルサービス全盛の時代だけに、誰かが自分に電話をかけてきて通じなくてもメッセージで連絡をしてくれるはずだ。

手軽に中国でデータ通信できる中国聯通香港の中国SIM

韓国、台湾、日本用など種類を増やしている

中国聯通香港は他にも台湾用、韓国用、日本用、ヨーロッパ用といったプリペイドSIMも揃えている。いずれもデータ通信に特化しているので、スマホでソーシャルサービスを利用するのに最適だ。しかも現地へ出発する前に購入できるため、飛行機を降りて渡航先の地に降り立った瞬間から利用できる。それぞれのプリペイドSIMの料金は現地料金より若干割高ではあるものの、ローミングよりは格段に安い。また台湾でプリペイドSIMを買う時は事業者の店舗でユーザー登録が必要だが、中国聯通の台湾SIMは中国聯通が登録者となっているためその必要も無く、行列に並ぶ必要も無いのだ。

中国聯通のこれら海外用データプリペイドSIMは香港の消費者の間でも評判が高く、人気商品となっている。そこに目を付けたのが中国移動香港(チャイナモバイル香港)で、この夏休みに合わせ韓国用と台湾用のデータプリペイドSIMを発売した。実は中国聯通香港の韓国用SIMはパスポート写真を送るなど事前登録手続きが若干面倒であった。だが中国移動香港の韓国用SIMは台湾用SIM同様、ユーザー登録が不要というメリットがある。韓国で手軽に通信したい香港人にはこちらのSIMが人気となりそうだ。

中国移動香港も海外用プリペイドSIMの販売を開始

韓国のプリペイドSIMは現地でも買いにくいのが難点

通信事業者が自ら海外渡航用のプリペイドSIMを販売するということは、利用者が現地で国際ローミングを利用しなくなるわけであり、その分の収入がゼロになってしまう。だが自社の顧客が安心して海外でスマホを利用できるようにと、この2社は「SIMを入れ替えさせる」という禁断の手に出たのである。日本のスマホもいずれSIMフリー化が自由に行えるようになれば、日本でも香港のような海外渡航向けのプリペイドSIMが販売される日がやってくるかもしれない。