パナソニックは2013年9月26日、日本国内のコンシューマー向けスマホの開発を休止し実質的に撤退すると発表した。一方で、海外市場でのスマートフォン事業を強化している。海外に投入されるのは同社のELUGAシリーズのハイエンド製品ではなく、ODMメーカーによる普及価格帯の製品となる。すなわちスマホを高機能なIT製品としてではなく、一定の機能を備え価格で勝負できる、「大衆消費者向けの家電製品」として同社は海外市場に再度挑もうとしている。

パナソニックは2012年2月に海外向けのELUGAスマホを発表し、その後ヨーロッパ市場で販売したものの売れ行きは芳しくなかった。海外向けのELUGAは当時としては大型の4.3インチディスプレイにデュアルコア1GHz CPU、IP57の防水防塵機能を備え、7.8mmとサイズにも拘ったハイエンド製品であった。だがiPhoneやGALAXYなど大手メーカーの圧倒的なブランド力の前に全く太刀打ちできなかったのである。パナソニックはその後、1年も経たずにELUGAの海外販売を中止している。

だが2013年になってからパナソニックは改めて海外市場への参入を開始した。ターゲットはインド。しかも製品はODMメーカーによる製品に自社ブランドを冠したもので、価格も低く抑えインドの消費者でも手軽に購入できる製品を揃えている。製品にはもちろんELUGAのブランドも入っていない。

パナソニックが5月にインドで発売したP51。5インチ画面でペンも付属

インドの携帯電話市場もここ1-2年でスマホ需要が一気に高まっている。IDCの調査によれば2013年第2四半期のインド国内のスマートフォン出荷台数は930万台で、前年同期の350万台から大きく伸びている。メーカーの内訳を見るとトップのSamsungのシェアが26%、その後を追いかける地元のMicromaxとKaboonが22%と13%、それにNokiaとSonyが続く。だがこれらトップ5社に対しその他のメーカーのシェアは29%もあり、大手メーカーによる寡占状態にはなっていない。すなわち新規メーカーにも参入するチャンスが十分あるのだ。

IDCによるインドのメーカーシェア

また平均所得が先進国よりも低いインドでは、低価格なスマホにも人気が集まっている。中でも1万ルピーを切る価格の低価格機は高い人気を誇る。それに加え、TVの代わりに動画視聴したいという需要も高く、5インチを超えるいわゆるファブレットがスマホ販売数全体の3割にも達している。

IDCによるとインドではファブレットが3割を超えている

パナソニックはこのインド市場に、まず5インチの大型ディスプレイモデルを5月に投入。これでまずはインドの消費者の目を向けさせ、9月には1万ルピー前後の3機種を発売。さらには10月17日に8000ルピーを切る低価格機も発表した。これでパナソニックのインド向けスマホは大画面、スタイリッシュ、普及モデル、エントリーと一通りのラインナップが揃ったことになる。

現在のパナソニックのインド向けスマホラインナップ

このようにわずか半年で次々と新製品を投入できたのも、自社開発をやめODM品に切り替えたことが功を奏しているわけだ。特に新興市場ではスマホの平均価格は毎月のように下がっており、OEM/OEM品で矢継ぎ早に新製品を投入する地元メーカーに対抗していくには、新規参入のパナソニックも同じ戦略を取らねば市場の動きに追いついていくのは難しいだろう。企業の顔となる製品ともなるスマホを自社開発するプライドを捨て、ODM品に切り替えたのは新興市場で戦っていくうえで正しい戦略だったと言える。

だが現時点はまだ市場への参入を開始したばかりであり、これからは他社との激しい戦いが待っている。新製品の投入は毎月ベースで行う必要があるだろうし、インドの消費者の嗜好にあった製品を提供できなければそっぽを向かれてしまう。勝負はこれから1年だけではなく、数年先までも見ていかねばならないだろう。インド市場での生き残りの道も困難ではあるが、TVや冷蔵庫といった家電でのブランド力を持っているのはパナソニックにとって大きな強みだ。全くの無名メーカーが新規参入する状況とは異なり、この知名度のアドバンテージは高い。

スマホ市場は中国メーカーの躍進により、やがては価格の急落が進むと見られている。パナソニックはその動きを察し、スマホのいわば一般家電化への舵取りを早々と決めたわけだ。白物家電同様にスマホも今後は低価格品が世界中に広がり、薄利多売ビジネスとなっていくだろう。パナソニックがもしインド市場で成功できれば、その後は周辺のアフリカなど他の新興国、途上国への拡大も期待できる。いずれはコスト競争力を武器に先進国でも普及価格帯のスマホでパナソニックが一定のシェアを握る、そんな時代が訪れる可能性も十分あるかもしれない。