2011年後半以降、海外市場で目立った新製品が無かったシャープ。だが、2012年の夏から相次いで新製品を発表している。いずれも従来の同社製品とは大きく方向転換したモデルで、海外市場での生き残りをかけ、得意分野に特化した意欲的なラインナップとなっている。

5インチやフルHDディスプレイ搭載品を発表

2012年夏に香港や台湾で発売開始した「SH530U」はアジアを中心に人気を集めている5インチモデルだ。だが、その中身は解像度800×480ピクセルのディスプレイにデュアルコア1GHzのCPUとミッドレンジクラスの製品。その分価格は3万円台と低く抑えられている。5インチモデルといえばGALAXY Noteに代表されるハイエンドかつ高価格帯の製品が多い中、シャープの本製品は「手軽に購入できる大画面モデル」とすることで差別化を図っている。

一方10月からは、一転して高性能なモデルを相次いで発表している。「SH631W」は4.5インチ、960×540の高精細ディスプレイを搭載。翌月発表の「SH837W」は4.7インチ、1280×720のHDディスプレイ搭載と、どちらも液晶の美しさを武器にした製品だ。他社の同サイズディスプレイを搭載する製品と真っ向から勝負できる上位製品でもあり、「液晶といえばシャープ」のイメージを改めてアピールするモデルとなるだろう。

お手ごろ価格が人気のSH530U。ピンクのカラバリも投入された

Feel UXも特徴のSH631W

この3モデルは日本で販売している製品を海外向けとしたものではなく、日本の消費者受けのいい「なんでも入り」製品ではない。生産は鴻海とされ、台湾MTKのチップセットを採用するなどEMSに製造を任せ、そして汎用のプラットフォームを利用している。しかし一方では最新のAndroid OS 4.04を搭載すると共に、UIは日本の製品でおなじみのFeelUXを搭載している。生産は他社であってもディスプレイとUIを見ればシャープの製品とわかる、特徴あるモデルなのである。

そして11月には最上位モデルとなる「SH930W」も発表している。OSにAnroid 4.1.1採用し、5インチフルHD、1920×1080のIGZOディスプレイを採用したハイエンド端末。CPUは1.5GHzのQualcomm Snapdragon 8260A、通信方式はLTEには対応せずW-CDMA/HSDPA+止まりだが、443dpiのIGZOディスプレイの美しさや細かい操作への対応は発売されれば高い評価を受けそうだ。

成功と失敗続きの海外進出

シャープの海外進出は2002年に英Vodafoneグループに折り畳みスタイルのフィーチャーフォン「GXシリーズ」を投入したのが最初である。シャープならではの高品質な液晶や高画質なカメラ、スタイリッシュな折り畳みスタイルが受け海外で高い評価を受けた。だがその後は画面の大型化や、端末スタイルのトレンドがキャンディーバーに移行するや失速してしまった。

2008年には日本のフィーチャーフォンを柱に中国市場へ新製品を投入することで海外市場へ本格的に再参入。製品は高機能かつ高価格帯の製品のみとし、画面を横向きに回転できるサイクロイド型など日本でもおなじみの製品を続々と市場に投入。またAQUOSブランドを使い液晶の美しさも大きくアピールし、その結果2009年には中国国内の携帯電話販売台数は100万台を突破するなど好調を極めた。

だがフィーチャーフォンの良好な売れ行きは、iPhoneをはじめとするスマートフォンが市場トレンドとなる中でシャープの方向転換を遅らせてしまったかもしれない。2010年夏に「HYBRID W-ZERO3 WS027SH」を中国向けとした「SH81iUC」を投入するも人気は出ず、年末には低価格な中国向け専用モデル「SH8118U」「SH8128U」の発売を開始した。この2製品はシャープ初の中国向けAndroid端末であった。

ヨーロッパを中心に高い人気を誇ったGXシリーズ

シャープ初の中国向けAndorid、「SH8118U」と「SH8128U」

だがシャープと言えば「綺麗な液晶」「高級感ある製品」のイメージが浸透した中国で、低価格・低スペックな製品が突如出てきたことから「日本メーカーの中国製端末」という揶揄の声もネットなどで聞かれるほどだった。2011年春になって「GALAPAGOS 003SH」を中国向けとした「SH8158U」を投入するも、目玉となる3D機能のアピール力は弱く、シャープは存在感を急激に失っていった。

中国に続きロシアへも積極的な展開

このように中国市場に再参入したシャープの戦略は「中国生産のローコスト品」と「日本製品の海外向けモデル」の2つを柱にしていたが、2011年には行き詰まりを見せてしまった。シャープとして海外市場で生き残るには何をすればよいのか? その回答が「シャープらしさのアピール」であり、その結果生まれたのが冒頭で紹介した4製品というわけだ。

ヨーロッパで賞を受けるほどヒットしたGXシリーズは「液晶」が大きな売りであった。またスマートフォンでは各社が同じOSを採用していることから、使い勝手を向上し差別化するには優れたUIの搭載が効果的だ。「液晶のシャープ」「使いやすいUI」この2本を新たな柱とし、そして台湾の鴻海と業務提携したことにより生産コストを引き下げることが可能になった。もちろんブランド力の回復・構築など問題も多いが、製品特徴の明確化とコスト問題を解決できた今、シャープのグローバル競争力は見違えるほど強力なものになったと見ることもできる。

4モデル揃ったシャープの新スマートフォン

そしてシャープは中国に引き続きロシアにも製品の投入をはじめた。これら新興国ではスマートフォンの普及が始まったばかりであり、人口の数も多いことから新規参入メーカーにも十分な勝算がある。苦戦続きだった海外市場でシャープがどこまで奮起できるか、来年以降の動きは要注目だろう。