ソフトバンクは10月7日に新製品発表会を行い、6機種の4G対応スマートフォンを発表した。すでに販売されているiPhone5と合わせ、同社の端末は高速通信への対応が一気に進んでいる。しかも新製品はAXGP、すなわち海外のTD-LTEと互換方式を採用している。世界でもTD-LTEサービスはまだ数カ国でしか始まっておらず、同方式に対応したスマートフォンを一気に投入するソフトバンク、そして日本メーカーの動きには世界が注目している。

TD-LTEが25%に達する予想も

3G方式をより高速化したLTE(Long Term Evolution)は2012年夏現在、世界の約90の通信事業者がサービスを提供している。このうちほぼすべての事業者が採用しているのがFDD方式のLTEだ。FDD方式は従来からの携帯電話同様、上りと下りに別の周波数を利用する方式であり、LTEの主力方式となっている。対応端末もスマートフォンやルーターなど数が増えており、日本でもドコモのXi対応端末は全てFDD-LTEの製品である。そしてiPhone5が対応するのもFDD-LTEだ。

これに対しTDD方式を利用するLTEとしてTD-LTEの実用化も始まっている。TDDとはTime Division Duplex、時間分割の意味であり、FDD方式とは異なり上下で周波数を分ける必要が無く周波数の利用効率が高い。実はPHSやWiMAXなども方式はTDDであり、そのためWiMAXを採用する各国の通信事業者は次世代の高速通信サービスとしてTD-LTEへの移行を決定するところが増えている。アメリカのClearwireやロシアのYotaなどのWiMAX大手は、早ければ来年にもTD-LTEサービスを開始する予定だ。

TDD方式を利用するTD-LTE。まだ採用事業者は少ない

とはいえTD-LTEは2012年夏の時点で商用サービスを開始している事業者はわずかであり、北欧のHi3Gや中東のSTCなどが目立つ程度。最近ではインドのAirtelが10月1日からサービスを開始したが、採用事業者はまだ9社と少ない。一方ソフトバンクのAXGPは当初はマイナーな規格というイメージが強かったが、世界市場を見れば先進国として最初の大規模なTD-LTE互換ネットワークの構築なのである。しかも他国ではまだデータ専用端末しか販売されていないのに対し、ソフトバンクはスマートフォンを複数機種投入。TD-LTEの本格的な商用サービスとして海外からも注目が集まっている。

このようにまだ一部の事業者がサービスを始めたばかりのTD-LTEだが、アメリカの調査会社Ovum社によると2016年にはFDD-LTEとTD-LTEの割合は3:1となり、世界のLTE市場の25%がTD-LTEになると予想している。そこまで普及が進む理由は中国が国を挙げてTD-LTEの普及に取り組んでいるからだ。世界最大の加入者数を持つ中国移動は今年から国内約10都市でのTD-LTEの商用テストを開始しており、年内には対象都市を倍増させる予定だ。中国のTD-LTE免許交付は早くとも1-2年後と見られているが、そのころには中国の主要都市のほぼ全域にTD-LTEネットワークが構築され、TD-LTEの本サービス開始と同時に利用者数は一気に拡大することになるだろう。

TD-LTEの普及は中国が鍵を握っている

日本メーカーの海外再進出にもチャンス

LTEサービスの世界的な広がりは端末メーカーの力関係にも大きな変化をもたらしている。すでに端末販売総台数でNokiaを抜きさったSamsungはLTE対応のスマートフォンも次々と投入。今年夏時点で世界のLTE端末の約6割ものシェアを取っている(Forward Concepts社調査)。2位以下のMotorola、LG、HTCは10%前後でほぼ横並びとなり、それに韓国のPantechが続く。いずれAppleもすぐにシェア上位へ顔を出すだろう。

そして実は日本メーカーもLTEスマートフォンでは奮闘している。製品は日本でしか製品を販売していないにもかかわらず、グローバルのシェアでは7位と8位に富士通とNECが入っているのだ。LTEスマートフォン市場はこれから拡大する方向に動いており、日本市場だけに特化する理由は無いはずだ。特にTD-LTEスマートフォンは中国のファーウェイやZTEが製品投入を目前に控えている以外、他社から目立った動きは今のところ無い。ソフトバンク向けのTD-LTEスマートフォンは今ならばライバル無しの存在なのである。

市販/開発中のTD-LTE製品。スマートフォンはまだ日本以外で販売されていない

ソフトバンクは今後、2.1GHz帯とイーモバイルから入手した1.7GHz帯をiPhone向けFDD-LTEとし、Android端末は2.5GHz帯のTD-LTE対応品のみとする公算も高い。つまり日本メーカーのソフトバンク向けスマートフォンはTD-LTE対応品ばかりとなる可能性もあるわけだ。年間10-20機種のTD-LTEスマートフォンが日本メーカーから登場するとなれば、他国の通信事業者にとってそれらは魅力的な選択肢となるだろう。

すでに韓国のPantechはアメリカでLTEスマートフォンを販売しており、10月17日には日本のau向けに『VEGA PTL21』の投入を発表している。グローバルでは大手メーカーに太刀打ちできない同社は生き残りをかけてLTEスマートフォンで世界市場に打って出ているのだ。日本メーカーもLTEスマートフォン、特に他社がまだ手がけていないTD-LTE対応品は積極的に海外展開させるべきだろう。2G/3G時代には全く勝負にならなかった日本メーカーのグローバル展開も、LTEで本腰を入れればまだまだシェア奪回のチャンスは残されているはずなのだ。