Nokiaは9月に開催されたNokia Worldで同社初のノートPCである「Nokia Booklet 3G」の詳細を発表した。携帯電話メーカーである同社がノートPC分野に参入する狙いはどこにあるのだろうか?

「インターネット端末」であるBooklet 3G

Booklet 3Gは、10.1型ディスプレイ(1280×720ピクセル)、Intel Atom Z530(1.6GHz)プロセッサを搭載した小型のノートPC。寸法・重量は264×185×19.9mm・1.25kg。いわゆる最近主流のネットブック系列の製品である。しかしアルミボディーを採用するなど「安価なノートPC」にはしていない。そもそもNokiaが自社ブランドでネットブックを投入するのは、価格勝負で他の大手PCメーカーのネットブックと競合することを狙っているのではないようだ。

Nokia初のノートPCとなる「Nokia Booklet 3G」

Nokiaはここ数年、自社の携帯電話、特にスマートフォンの「インターネットマシン化」を進めてきた。例えば2005に登場したNokia Nseriesは「Multimedia Computer」という別称を持っていた。このMultimedia Computerの意味は「現代のコンピューターとは、インターネットとマルチメディアを扱う道具。Nseriesは小型サイズでその両方を実現できる端末だ」という同社のインターネット戦略を表すものだった。すなわちNseriesスマートフォンは、今のiPhoneと同じ方向を狙った製品でもあった。

Nokia Nseriesはマルチメディアとインターネットに特化した端末として登場

またLinux OSベースのmaemoプラットフォームを搭載したNokia 770を発売。携帯電話機能は搭載しないものの、Webサービスの利用に特化した端末であり、同社は着々と「インターネットマシン」のラインナップを拡充しているところだった。ちなみにこのmaemo端末はWiMAX搭載製品も発売されたものの、WiMAXの市場展開が進まないことから、Booklet 3Gと同時に発表されたHSPA搭載のN900へと進化することになる。

一方、WebサービスとしてはOviブランドで写真アルバムやファイル共有、カレンダーなどを昨年から展開。携帯電話からも利用が可能であり、携帯電話を単なる音声通話端末ではなく「Webサービスと連携できる、手のひらに乗るインターネット端末」として利用できる土台も構築している。

maemoプラットフォームのN810

このようにNokiaは「音声通話で人と人が繋がる」携帯電話メーカーから、「インターネットを通じてコミュニケーションする」インターネット端末メーカーへと脱皮を図ろうとしているのだろう。Booklet 3Gもすなわち「安価なノートPC」ではなく「インターネットをより快適に、手軽に利用できる」端末として同社のラインナップに位置づけされるわけだ。

Nokiaブランドの強さと、通信事業者との連携

ネットブックは価格が安く、ハイエンドスマートフォンよりも安価に製造することができる。携帯電話メーカーが直接製造・販売に乗り出すことも容易なわけだ。だが単純に安価なネットブックを投入しても、消費者へ売る販路が問題となる。例えばPC専門店で販売するにしても、そこにはすでに老舗のノートPCメーカーの製品が多数展示されている。携帯電話メーカーのネットブックが入り込む余地は無いだろう。

逆に、通信事業者の販売店舗であれば、Nokiaの製品はすんなりと消費者にも受け入れられるだろう。特に普段PCなどに興味の無い層であっても、事業者の店舗にNokiaの製品が置かれていればちょっと触れてみようと思うことだろう。最近では大手ノートPCメーカーのネットブックが通信事業者店舗で販売されるようになっているが、店舗を訪れた消費者にとってはたとえ安価であろうとも「ネットブック=パソコン」であり、自分には関係無い商品、と考えてしまいがちだ。

ところが同じネットブックでもNokiaの製品であれば、携帯電話の一種類と認識されるため来訪客が展示品に触れる真理的な壁も少ない。事業者の販売員にとっても「ノートPC」ではなく「Nokiaのインターネット端末」と割り切った販売ができるため売りやすい製品になるだろう。販売価格もBooklet 3Gの価格は570ユーロだが、通信事業者とのHSPA定額契約でおそらく半額以下、事業者によっては無償になる見込みだ。

Nokiaのネットブック市場参入により、今後、通信事業者がネットブックを積極的に販売する動きが加速するだろう。またSamsungやLGなどの総合家電メーカーはすでに3Gモデム内蔵ネットブックを多数ラインナップしている。こちらも家電店だけではなく通信事業者店舗での販売にも力を入れていくだろう。

そうなると将来は、ネットブックは名前のとおり「いつでもどこでもネットに繋がる、データ通信モジュールを内蔵した製品」となり、販売先も通信事業者の店舗が主流となる可能性がある。Nokia Booklet 3Gの今後の売れ行きや販路の広がりが、ネットブック市場の今後の動向を見るひとつの指針となるかもしれない。