カナダのRIMはBlackBerry端末からアプリケーションをダウンロード・購入できる「BlackBerry App World」の提供を開始した。今年はメーカー主導によるアプリケーション配信の動きがいよいよ本格化する年となりそうである。

BlackBerryからアプリケーションを直接ダウンロード可能

2009年4月1日から提供開始されたBlackBerry App WorldはBlackBerry端末向けに約1,000種類のアプリケーションやコンテンツが提供される。対応端末はBlackBerry OS 4.2以上、トラックボールかタッチパネルを搭載した機種で、日本でも発売されたBlackBerry Boldや海外の最新端末BlackBerry Storm、BlackBerry Curve8900などからももちろん利用できる。ただし現時点でのサービス提供エリアは米国とカナダのみであり、他国へは今後展開されていく予定だ。

BlackBerry App Worldはアプリケーションやコンテンツなどを1,000種類前後配信する

BlackBerry App Worldと同類のサービスはAppleがiPhone向けに提供しているApp Storeが成功を収めている。またMicrosoftやNokiaなども2009年中のサービス開始をアナウンス済みで、携帯電話向けのコンテンツ・アプリケーション配信ビジネスが大きな変革を迎えることになりそうである。

これまで携帯電話向けのコンテンツ配信は日本型の通信事業者による垂直統合システムが大きな成功を収めてきた。端末の仕様、動作するアプリケーションやコンテンツの仕様、そして課金システムまで全てを通信事業者が一元管理。それによりアプリケーションやコンテンツの開発が進み、消費者も容易に購入、利用することができるようになったのだ。

しかし端末のスペックの向上、通信回線の高速化、Webサービスの台頭などによりインフラを提供する携帯電話事業者がすべてをコントロールすることの意味合いが薄れ始めてきている。特にOSネイティブなアプリケーションが動作するスマートフォンは、通信事業者にその動作環境をコントロールされる必要性がない。課金方式もPCの世界と同様に、オンラインでクレジットカードを利用すれば通信事業者を経由して支払いを行う必要も無くなる。

BlackBerryのApp Worldもアプリケーションのダウンロードは携帯回線のみならずWi-Fiの利用も可能であり、また支払いは大手ペイメントサービスPayPalを利用する。すなわち利用できるアプリケーションやコンテンツ、支払い方法はどの通信事業者と契約を行おうが変わらないのだ。

"高機能"だけでは端末は売れなくなる

このようにメーカーによるアプリケーションストアの台頭は、通信事業者の差別化がコンテンツやアプリケーションでは行いにくくなることを意味する。そのため通信事業者は今後通信品質や料金体系、アフターサービスなどといった、通信インフラ会社としての基本的な部分でのサービス強化がより求められるようになっていくだろう。

また携帯電話自体も今後は機能だけでは売れない時代がやってくるかもしれない。もちろんボリュームゾーン向けのミッドレンジ端末や新興市場向けのエントリーモデルなどは「価格と機能バランス」が今後も端末の差別化の重要な要因のままであることはしばらく変わらないと考えられる。

一方ハイエンド端末ではメーカーが魅力あるアプリケーションストアを提供し、直接コンテンツやアプリケーションを配信する時代が確実にやってくる。携帯電話を単体で利用する時代では、端末スペックが端末の差別化にそのまま結びついていた。しかしスマートフォンに代表されるハイエンド端末は現在、利用できるアプリケーション、コンテンツの数や内容も重要視されている。そしてそれらの配信は通信事業者ではなくメーカーがコントロールする動きが加速していくだろう。

なお日本の高機能端末が海外で苦戦している理由の一つはここにある。どんなに大画面のディスプレイを備えていても、それを活用できるだけのコンテンツやアプリケーション、例えば高画質な動画配信などがなくては端末の魅力を生かしきることができない。逆にiPhoneを見てみれば、決して高性能なカメラを搭載していないのにも関わらず、さまざまなカメラ関連アプリケーションや写真を利用するWebサービスが登場している。iPhoneのカメラは「画質」ではなく「アプリケーション」で高い評価を受けているのだ。

Samsungもアプリケーションストアを発表し、Sony Ericssonもコンテンツ販売キオスクの「Download Station」を東南アジアなどに展開しはじめた。端末メーカー自らが自前のアプリケーションストアを持つ動きはこれからの主流となり、ストアを持たないメーカーはローエンドや特定用途向け端末などに特化せざるを得ない時代がやってきそうである。また通信事業者も自社開発のコンテンツサービスをやめ、メーカーのサービスを利用する動きも今後活発化していくかもしれない。