Sony Ericssonは、韓国市場でスライドタイプのスマートフォン「XPERIA X1」を発売すると発表した。現地事業者のSK Telecomを通じて販売する予定で、同社は韓国市場初参入となる。韓国では海外メーカーの力が弱く、Samsung、LG電子を筆頭に、Pantech、SKY、EVERなど国内メーカーが台頭している。海外メーカーはこれまで、MotorolaやCanUブランドで参入したカシオ計算機(現カシオ日立モバイルコミュニケーションズ)が目立つくらいで、国産品がシェアのほとんどを占めていた。

WIPI撤廃で海外メーカーに門戸が開放

韓国の携帯販売店店頭。国産メーカー端末ばかりが目立つ

韓国で海外メーカーが弱い理由は、携帯アプリの共通プラットフォームである、WIPI(Wireless Internet Platform for Interoperability)搭載の義務付けと言われてきた。WIPIはそれまでバラバラだったコンテンツのプラットフォームを韓国内の3キャリアが中心となって共通化したものだ。これによりメーカーやコンテンツプロバイダーが開発のコストや時間を縮小できるだけではなく、利用者側も全ての事業者の全ての端末で、共通のコンテンツを利用できるようになるなど、韓国の携帯コンテンツ普及に大きな役割を果たしてきた。

だが韓国独自規格のWIPIの搭載が政府により義務付けられたことで、海外メーカーは国外で販売している端末をそのまま韓国内で販売することはできなかった。通信方式や言語の対応以前に、WIPIを搭載しなくては韓国で端末を販売することはできなかったからだ。しかし韓国政府はWIPI搭載の義務を撤廃し、2009年からは非WIPI対応端末が自由に販売できることとなった。これを受けて、BlackBerryが韓国でも端末発売とサービスを開始。iPhoneの販売も噂されている。今回、韓国市場への参入を発表したSony Ericssonのように、今後も海外メーカーの参入が相次ぐことが予想されている。

急速に変貌を遂げた韓国の通信方式

WIPIの廃止により、海外メーカーの韓国参入は容易になった。しかしWIPIが廃止されたことだけではなく、韓国の通信方式がこの1年で急速に変化したことも海外メーカーにとってとしては大歓迎だろう。

韓国の通信方式は長らくCDMA2000が採用されていたが、シェアトップのSK Telecomが2003年にW-CDMA方式の採用を開始し、シェア2位のKTFも追従した。今では韓国全土にW-CDMA/HSDPAネットワークが構築されている。韓国の携帯電話総加入者4598万のうち、2008年末のW-CDMA/HSDPA利用者数は、1794万と全体の約40%にまで迫っている。最近では、両事業者の新規加入者のうち80%前後がW-CDMA/HSDPAサービスに加入している状況だ。

今回Sony EricssonはWIPI廃止のタイミングで韓国市場に参入したが、通信方式がCDMA2000のままであれば参入することはなかっただろう。"WIPI廃止"と"海外で主流の通信方式が韓国で普及したこと"、この2つの条件が重なったことで海外メーカーの目が韓国に向き始めているわけだ。

スマートフォンが多数登場か

ただしWIPI搭載義務が無くなったからといって、韓国の消費者がWIPI非搭載の端末をすぐに使い始めるとは考えにくい。韓国も日本と同様に、携帯事業者による各種サービスが広く普及していることから、一般的な消費者が求めるのはやはり従来通りのWIPI搭載端末、すなわち韓国メーカーの製品になるだろう。また海外メーカーは、韓国内でのブランド力が低い。そのため海外で人気の製品であるからといって、韓国でも売れるとは考えにくい。

韓国市場に参入した海外メーカーは、BlackBerryにしてもSony Ericssonにしてもどちらもスマートフォンを投入している。高機能携帯電話とは違う路線、すなわちPCやインターネットとの親和性の高いスマートフォンで勝負をかける戦略のようだ。

このあたりは日本と状況が若干似ている。韓国は日本よりもPC普及率が高く、PCからのインターネット利用も高い。特に街中にはPC房(PCバン)と呼ばれるインターネットルームが普及しており、老若男女を問わず誰もが利用している。スマートフォンが受け入れられる余地は日本よりは高そうである。

Samsungのスマートフォン広告。ビジネス向けではなくスタイリッシュなハイエンド端末というイメージを演出

この動きに対抗するかのように、すでにSamsungはハイエンドスマートフォンT-OMNIAなどを韓国市場に投入している。今年の韓国は海外勢の動き、特にスマートフォン戦略が注目の一つになりそうだ。