【コラム】

海外モバイルトピックス

24 "Appleの理論"が通じない香港、iPhoneの単体販売を開始

 

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Appleは香港でAppleストアによるiPhoneの直販を開始した。iPhoneは各国で特定の通信事業者を通して販売するビジネスモデルを展開している。事業者によってはiPhoneにSIMロックをかけその事業者専用端末とし、さらに長期間の固定契約を結ばせて無料でiPhoneを販売しているところもある。しかし香港ではこの方式は消費者に受け入れ難く、Appleも単体販売に踏み切らざるを得なかったようだ。

香港の街中でもiPhoneの販売広告はよく見かける

2年契約、特定事業者販売は"不自由、不合理"

香港のiPhoneは大手事業者のHutchison(ハチソン)から販売されている。固定契約期間は2年で、最大割引を利用すると実質無料で購入できる。最低基本料金のプランでもiPhoneの価格は25,000円近く割引されるため、他社の端末を買うよりもお買い得感は高い。

しかし2年間という長期契約は、iPhoneのような先進性のある端末を利用したいと考える香港の消費者にとっては長すぎるようだ。なぜならどうせ1年もすれば新しいiPhoneが出てくることはわかりきっているからだ。Appleが今のiPhoneを2年間も販売することはありえないだろう。そのため1年後になって新しい製品が出てきたにもかかわらず、契約期間がまだ1年間も残っているというのは、iPhoneのような製品を好む香港の消費者には耐えられない苦痛だ。

さらに特定の通信事業者と契約が必要という点も購入意欲を下げる要因となっている。香港はMNPの利用率が高く、同じ電話番号での他事業者への移転は容易だ。しかし現在使っている事業者の自分に合った料金プランを捨てて、Hutchisonへ移転してiPhone専用プランに加入しなくてはならないというのは端末の選択の自由度を著しく下げている。香港では端末と事業者の回線契約は完全に切り離されており、自分の使いたい端末を自分の好きな事業者で利用できるのがあたりまえになっている。「iPhoneが使いたい」と考えている消費者に「他の事業者へ乗り換えろ」しかも「iPhoneの専用プランに契約変更せよ」というのは香港では極めて"非常識"な考えだ。またiPhoneはパケット定額プランに入りWebサービスを自在に利用するのに適した端末ではあるが、iPhoneをどう使うかは消費者が自分で自由に考えてもよいはずだ。音声通話だけに利用するから安い料金で利用したい、と考える消費者もいて当然なのだ。

それに加え、香港では携帯料金が頻繁に改訂される。料金は変わらなくとも利用できる無料通話分数、パケット料が増量されることは日常茶飯事である。たとえば最近はモバイルインターネットの普及に向けた料金プランが各社から出てきているが、同じ料金で比較すると、1年前はわずか5MBしか利用できなかった無料データ通信利用分が、今では100MBにまで増量されている。2年間も固定契約を結ぶより、1年おきに契約を更新したほうがはるかに得というわけだ。

価格よりも自由度を選ぶ香港の消費者

また香港ではSIMロック販売がほとんどされていない。SIMロックをかけて見かけ上端末の値段を下げても「固定契約期間が長い」「中国や台湾など隣国へ出かけたときに現地のSIMカードに入れ替えできない」などデメリットのほうが多いからだ。またSIMロックは改造業者などによって簡単に外れてしまう場合もある。すなわち香港の消費者は"安くて不自由なSIMロック端末"よりも"完全自由なSIMロックの無い定価販売の端末"を好み、香港の事業者もせっかくかけたSIMロックがはずされる可能性があるのならば、SIMロックをかけた安価な販売方式は取らないというわけだ。消費者と事業者、双方の思惑が一致した結果が香港ではSIMロック販売が一般化されない理由なのである。

このように端末の定価販売が一般的な香港市場では、メーカーが値段の高い端末を販売する場合、その値段に見合っただけの魅力のある端末を投入しなければ消費者からそっぽを向かれてしまう。逆に言えば価格に見合っただけの価値があれば、高い端末でも飛ぶように売れるのだ。たとえばNokiaのプレミアモデルは10万円以上するが、常時品切れになるほどの売れ行きだ。日本では大幅に割引販売されているHTCのスマートフォンも、香港では6万円以上の価格ながら販売は好調である。もちろん価格が高いと思うなら、”携帯電話=家電製品”にすぎないのだから分割払いなりローンを組めばよく、このあたりは自動車を買う感覚に似ているだろう。

iPhoneも同様であり、特定の事業者と長期契約して安価に入手できるよりも、単体で相応の価格であれば購入したいと考える香港の消費者の数が予想以上に多いのだろう。そのためAppleは世界中で統一している「事業者販売」というビジネスモデルを香港市場に完全導入することはできなかったようだ。事業者と無関係に単体販売を行えば、Appleが何らかの収益を事業者から得ることもできなくなってしまう。しかしAppleだけが事業者販売を強行し続けたとすると、他社から出てくる魅力的な新製品に消費者の興味が移行してしまう可能性も高い。たとえば8月に発売されたBlackBerry Boldは1ヶ月ほど品切れが続き、iPhone以上の人気を見せていたくらいだ。すなわちAppleの理論や考えを市場に押し付けたところで、消費者にそっぽを向かれてしまってはiPhoneの売れ行きそのものまでもが失速してしまうだろう。

オンライン販売で購入できる単体のiPhone。中国から空輸で届けられる(写真は輸送パッケージ)

Appleストア香港(オンラインのみ)のiPhone単体価格は8GB版でHK$5,400(約7万円)、16GB版でHK$6,200(約8万円)だ。これを高いと考えるか安いと考えるかは利用スタイルにもよるが、重要なことは契約不要で単体で買えるということだ。たとえば会社経費で購入できれば自分の懐を痛めずにiPhoneを入手することもできる。価格が高いと感じたとしても、契約などの余計な拘束なく単体で自由に買えるメリットは高いのだ。今後iPhoneの販売は他国へも広がっていくだろうが、Appleの考える端末販売方式が、どこの国でも成功するとは限らない。香港のように単体販売を行う国が出てくることもありうるだろう。

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インデックス

連載目次
第100回 ポストiPhoneを狙う新興メーカー、スマートフォンの歴史10年を振り返る
第99回 Huawei新製品「P9/P9 Plus」発表会フォトレポート
第98回 情報をリアルタイムに点字表示できる、世界初の点字対応スマートウォッチがまもなく発売
第97回 1台のスマホで2つのLineを使いたい! 海外ではデュアルWeChatスマホが登場
第96回 空気清浄機や浄水器も売る、脱スマホメーカーを目指すシャオミ
第95回 2015年秋冬のスマートウォッチは丸形がトレンド
第94回 指先2本サイズの超小型なスマホが登場
第93回 スワロフスキーで装飾した本気の女子スマホ「Sugar」に注目
第92回 旅先でスマホが無料で使える! 香港で旅行者向け無料SIMが登場
第91回 日本のSIMロック解除にアジア周辺国が注目する理由
第90回 これからの旅行はスマートに! スマホで管理できるスーツケースが登場
第89回 日本人も便利になる!訪日客プリペイドSIM自販機が続々登場
第88回 八百屋や雑貨屋でも買える! スペインの格安SIM売り場の現状
第87回 ブランド時計が続々参入、2015年はスマートウォッチブームがやってくる?
第86回 世界に広がるガラホ?折り畳み型スマホがアジアで人気
第85回 来年はバレンタインチョコも"印刷"する時代がやってくる
第84回 先進国をターゲットに入れた中国新興メーカーのシャオミ
第83回 SIMフリースマホの国香港、海外用プリペイドSIMの販売が活発化
第82回 Facebookが無料? ソーシャルSIMの時代がやってくる
第81回 韓国で復活するデータ定額
第80回 出揃った中国各事業者のLTEサービス
第79回 スマートフォンシェア3位入りを目指すZTEの最新戦略
第78回 2014年はライフログ系スマートウォッチが熱くなる
第77回 中国で4G免許が交付、2014年は4G普及が一気に進む
第76回 台湾のLTE免許が6社に確定、競争激化で再編も
第75回 ライバルはFirefox OS-Nokiaの新端末に注目
第74回 パナソニックの「家電スマホ」はインドで成功するか
第73回 いよいよ始まる中国のTD-LTEサービス
第72回 Windows Phoneが中南米でシェア2位に浮上
第71回 価格下落が世界のスマホ需要を後押し
第70回 いよいよ出てきたFirefox OSスマホ
第69回 ミッドレンジモデルも魅力のSamsungの2013年春の陣
第68回 日本からも注目したいHuaweiの最新モデル
第67回 得意分野で勝負するシャープの海外戦略
第66回 パナソニックも海外市場から撤退
第65回 TD-LTE端末市場で一気に増す日本のプレゼンス
第64回 アジアで加熱する「5インチスマホ」競争
第63回 全社がLTE開始、競争が激化する香港
第62回 LTEで変わる韓国の業界勢力図
第61回 大きく変わる世界のメーカー勢力図、今年後半の動きを探る(後編)
第60回 大きく変わる世界のメーカー勢力図、今年後半の動きを探る(前編)
第59回 Vodafoneとドコモらが提携、一気に広がる国際提携
第58回 韓国でグローバル対応LTEスマートフォンが登場 - 日本への投入も期待
第57回 香港でも7000円台!! - HP TouchPad販売のドタバタ劇
第56回 韓国で全事業者が4Gを開始 - 月額料はパッケージ制、データ定額廃止の方向へ
第55回 「繋ぎ」には勿体無い、MeeGo OS搭載のNokia N9
第54回 世界の端末メーカーの勢力図が大激変
第53回 アジアで転売されるiPad 2、その現場を見た
第52回 ドコモのSIMロック解除、中国で大歓迎
第51回 2011年は低価格スマートフォンが流行に
第50回 2010年はMotorolaの復活に注目
第49回 AppleもNokiaも脅かす「その他」勢力が増大
第48回 気がつけば海外メーカーばかりな日本のスマートフォン
第47回 この冬はオール"フルタッチ"、本気で反撃に出るNokia
第46回 香港でiPadが発売、SIMロックフリー&単体販売
第45回 海外でも広がる「海外パケットし放題」サービス
第44回 発売開始前なのに何故!? - iPadが大量販売されている香港
第43回 海外も日本も同料金でデータ通信-日本通信がサービス開始予定
第42回 実用化が始まった太陽電池搭載ケータイ
第41回 Nokia、業績回復も今後が勝負 -急がれる「フルタッチ」端末の強化
第40回 「簡単ケータイ」が海外でも流行に
第39回 2009年の海外端末市場を振り返る
第38回 LGの「新チョコレート」がスゴイ - 21:9ディスプレイ搭載の「LG BL40」
第37回 いよいよ中国でもiPhoneを発売 - 出だしは不調?
第36回 WiMAX/Wi-Fi/W-CDMAに対応した「3W」端末がSamsungから登場
第35回 Nokiaが3G対応ミニノート「Booklet 3G」発表 - ノートPC市場参入の狙いとは
第34回 OEMメーカーのAltekが携帯内蔵デジカメ発表 - 将来Flickrケータイもでる?
第33回 中国にも3Gの時代がやってきた!! - 各社のサービスや戦略を紹介
第32回 iPhone 3G Sへの買い替えでiPhone 3Gが中古市場に登場?
第31回 機能性とデザインを追及した「ケータイストラップ」は日本に根付くか?
第30回 新型iPhone対抗端末? - Nokiaのフラッグシップ端末「N97」がいよいよ登場
第29回 アプリのメーカー直接配信時代がやってくる
第28回 海外メーカーが韓国市場にスマートフォンで参入開始
第27回 終焉を迎える中国のPHS、残した功績は大
第26回 滑り出し好調なNokiaのタッチUI端末「5800 XpressMusic」 - iPhone超えも?
第25回 中国で売れ筋の携帯機種は? - Nokiaが圧倒的人気の中シャープも健闘
第24回 "Appleの理論"が通じない香港、iPhoneの単体販売を開始
第23回 iPhoneを脅かす存在になるか? Nokia 5800 XpressMusicが登場
第22回 日本向けOMNIAの姉妹品? 韓国でHaptic 2が発売開始
第21回 パケット通信+無線LAN定額がトレンドの香港
第20回 販売国の増えるiPhone、注目市場の投入はいつ?
第19回 カシオの海外進出が期待できる? - ソフトバンクとの端末供給合意
第18回 日本で増加する中国メーカー端末
第17回 マルチメディアへの対応を強化するBlackBerry
第16回 香港におけるiPhone 3G - SIM差し替えは当たり前
第15回 Motorola、新型「明」で中国市場奪回なるか
第14回 LGのデザイン携帯"Secret"、その秘密に迫る
第13回 Appleの発表を待たずに「3G iPhone」の発売が確定
第12回 中国の通信事業者6社が3社に再編
第11回 iPhone拡販のために販売戦略を変更するApple
第10回 不振のMotorola、事業建て直しはなるか
第9回 中国でTD-SCDMAの商用テストサービスが開始
第8回 チョコレートからウォン・ビンまで - ユニークな韓国携帯のニックネーム
第7回 シャープの中国市場参入、勝算の道はどこにあるか
第6回 Sony Ericsson、海外事業の好調が日本事業の見直しに?
第5回 "3G版iPhone"はいつ出てくるのか?
第4回 EMONSTER、海外ではいくらで売られている?
第3回 XPERIAを投入するSony Ericssonの意図
第2回 メーカーの勢いの差が表れたMobile World Congress 2008
第1回 Nokiaの決算報告から見た2007年の海外携帯市場

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