三洋電機、三菱電機と大手メーカーの携帯電話事業撤退が続く中、Sony Ericssonも日本向け事業の見直しを図るとのことである。「ケータイ先進国」である日本から、事実上の撤退とも取れる動きを起こすのは、同社の好調な海外事業の結果が最大の要因となっているのではないだろうか。

海外市場では大量の製品を投入し続けるSony Ericsson

2007年の成長率は世界1位

調査会社Gartnerによると、2007年の全世界携帯電話出荷台数は11億5,284万台に達したとのこと。Sony Ericssonの出荷台数は初めて1億台を突破、1億135万台としてシェアも8.8%とし、10%の大台が見えてきている。上位のNokia、Motorola、Samsungの背中はまだ見えてきていないものの、LG電子(シェア6.8%)と争っていた4・5位争いからは一歩抜け出した形だ。また前年からの出荷台数を成長率で比較してみると、NokiaとLGの126%、Samsungの133%をおさえ、Sony Ericssonは138%と堂々1位となっている。

同社の好調を牽引するのは、ブランドを冠した2つのシリーズ、Walkman携帯とCyber-shot携帯が好調であることももちろんだが、着々と拡充してきた製品ラインナップに「隙」がなくなりつつある点にも注目したい。同社は現在、海外のW-CDMA/GSM圏向けに30機種前後の製品を投入している。それらの製品は機能で差別化されているだけではなく、複数のターゲット別に展開が図られており、Sony Ericssonだけで自分の好みの端末が見つかるようにあらゆる種類の製品が揃えられているのだ。

シェアトップのNokiaも同様に複数の製品バリエーションを展開しており、日本市場のように「90xシリーズ」「70xシリーズ」といった、機能を中心とした製品展開では製品数を増やすことは難しい。日本では通信事業者が複数メーカーの製品をバランスよく市場に投入しているが、海外ではメーカー同士が直接のライバルである。各メーカーが自から多数のラインナップを揃え、自社内だけで製品の選択肢を消費者に与えなくては、販売数を伸ばすことは難しい。そのため製品数を増やせないメーカーは特定の市場やニッチ路線に走るしかなく、特徴の無いメーカーは海外市場では生き残れないのだ。

各メーカーのここ4年の販売台数成長率(Gartnerのデータより)。Sony Ericssonは昨年に引き続き高い成長を示している。Motorolaの不振が大きく目立つのも特徴だ

同社のラインナップを大まかにまとめてみた。主力のWalkmanシリーズを中心に、ハイエンドからローコストまで満遍なく製品が揃っている。

機能 <High Low>
XPERIA X1
Business P1 G900 G700
Cyber-shot C902 K850 C702
K770
Walkman W980
W960
W910
W890 W760 W660 W580 W380
W350
W200
Standard K660
K630
K530 K220
K200
Clamshell Z770
Z750
Z555 Z320 Z250
Trend/Style T650 S500 T303 T280
T270
Radio R306
R300
Low Cost J120
J110

日本市場より海外市場へ注力か

今年もXPERIAなど話題の製品が登場予定であり、Sony Ericssonの躍進は止まりそうもない。しかしライバル他社も同社の好調を横目で見ているだけではなく、同社の製品数が増えるにつれて対抗製品も続々と登場してくることが予想される。特に同社の好調を支えるWalkman携帯に対しては、AppleのiPhoneがいずれ「音楽携帯」としてのブランド力を奪っていくだろう。

すなわち今が好調であろうとも、今後もSony Ericssonが販売台数を伸ばし続けることができるかどうかは、実のところ全くの未知数なのだ。これはRAZRが大ヒットし、シェアを20%にまで乗せたMotorolaがわずか1年で凋落してしまったことを見れば明らかだろう。同社はRAZRが売れすぎたが為に、その後の商品展開を誤ってしまった格好だ。また一人勝ちが進めば競合製品も増え、それらと差別化を図った製品を開発していかねば生き残りは難しい。Motorolaの2007年の販売シェアは、なんと1997年以来最低にまで落ち込んでしまったのだ。

Sony Ericssonも商品ラインナップをより明確にし、消費者への認知度を高めるために今年から新しいシリーズを投入している(XPERIA、Cシリーズ、Gシリーズ)。またローエンド端末はフランスのSagemとOEM提携を結び、自社開発をやめて他社からの供給を受けることにしている。それにより空いたリソースを新製品やハイエンド機種の開発に投入することが可能になるわけだ。

一方日本市場を見てみれば、Sony Ericssonの端末販売台数は数百万台規模である。同社全体の販売台数の割合からすると、相対的にはわずか数%まで縮小してしまっている。しかも日本では新しい端末販売方式の導入により、今後端末市場は冷え込むことが予想される。しかしそれに反して通信事業者は新しいサービスや技術の開発に旺盛であることから、メーカー側の開発負担はより増えていくことになるだろう。しかも日本で開発した技術は海外市場向け端末には応用がしにくく、ワンセグなど日本固有の技術は日本向け端末にしか搭載できない。そうなれば、日本市場向けに高い開発費をかけてもそれをペイすることは難しく、企業としては事業を存続していくことにメリットを見出せなくなってしまうであろう。ましてや海外市場での端末開発競争は今後より熾烈になっていくだろうから、日本市場に踏みとどまる「余力」は一層少なくなってしまいそうである。

赤字であるからの事業撤退ではなく、海外が好調であるからこそ日本事業を見直す必要が出てくるとは、日本市場の閉鎖性や特異性が改善されるより前にグローバルメーカーが日本に興味を示さなくなってしまった、ということではないだろうか。日本にも韓国勢など海外メーカーが複数参入しているが、それらメーカーまでもが海外市場のみに注力するということにならぬよう、日本の市場も開放型へ向かう必要があるのではないだろうか。