経済運営でまともなのは? 衆院選、「岩本沙弓」としての見方

「結局、誰に投票するというよりも、この人だけには当選して欲しくない、という気持ちなんだよね」。お世話になっている出版社の方の談です。「ネガティブ投票のようなものを併せて実施してもらって、通常の得票数からネガティブ得票数の数字を差し引いてもらうというのはどうだろう」という斬新なアイディアも登場し、なるほどと思った次第です。

衆議院選挙を控え、各方面からのお問い合わせがぱらぱらと来るようになりました。経済運営でまともなのはいったいどこなのか。これだけ政党が乱立すると、皆さんが迷われるのも当然のこと。思想・政治的信条については皆様さまざまな見解をお持ちでしょうし、あえてこうした話題については避けてきたわけですが、今回は岩本沙弓としての見方を、というお声に少しだけお答えできればと思います。

はっきり分かれている争点は「原発」「消費税」の2つ

今回の焦点は大きく2つ。我々の生活に直結する原発をどうするか、消費税をどうするか。

東日本大震災を経験した我々にとって最初の大きな選挙です。ここで原発の問題を最重要政策として取り上げない方がおかしい。そして、民主党政権下ではマニフェストにも載っていなかった消費税を堂々と法案として通してしまいました。しかし、法案が通っただけで実施には至っていません。法律を変えればまだ廃止もできるのですから、ここは国民の信託を問うべきでしょう。

TPPについては、党首はTPPには反対だが党全体としてはTPP推進を目指すなど一貫性に欠けており、例えばその政党が政権を取ればどちらにでも転びうるわけです。有権者としてはこうした曖昧な政策に関しては主要な争点からは外すしかなく、そうなると( )つきでTPPということになるかと思います。

そこで、各党の原発・消費税・TPPに対する姿勢ですが、ほぼ、「『原発○=消費税○=TPP○』VS『原発×=消費税×=TPP×』」となっています。争点が明確でないと言われていますが、はっきりNOを訴えている政党とそれ以外と区別してみると、明快にスタンスは分かれるという印象です。利害関係も含めて、「原発・消費税・TPP」のセットをどうすべきか、それにしたがって投票すればよい、ということになります。

安易な日銀バッシングは「金融政策の疎さ」を象徴

日銀法については? と思われる方もいらっしゃるかもしれません。私とて、例えば景気が悪化する中、金利がとんでもなく高止まりしていて日銀に緩和の姿勢がない、というのであれば文句の1つも言います。しかし、金利0%に張り付いている今の日本では金融政策、つまり金融緩和だけでできることには限界がある--金融政策の基本中の基本については、このコラムを読んで下さっている皆様は、既にご存じのことと思います。

第20回『日銀が金融緩和しても給料上がらず…"あり余る資金"どう民間に流すかが問題

第21回『日銀の「金融緩和」は海外に資金が流れるだけ? "海外バブル→崩壊"再生産も

(※上記2回のコラムで金融緩和の限界について書きましたので、ぜひご一読下さい。)

いくら選挙用とは言え、現在のような環境下で「景気が悪いのは日銀の金融政策がまずいのだ」などという話を露骨に持ち出してくると、「我が党は金融政策に疎いです」と自ら公言しているように有権者に受け止められはしないかと、逆に心配してしまいます。そういう意味では日銀への見解は各政党をふるいにかける際のネガティブ・インディケーター(逆指標)として見るのには有効でしょう。

ちなみに無制限量的緩和で円安という話から、為替市場もそれで動きだしたとされているようですが、大量の量的緩和を世界に先駆けて実施した2000年代、いくら資金供給をしても円安にならなかったのは国際金融市場の現場では周知の事実です。参考までに今回解散を言い出した前後から原稿を書いている今日現在(11月23日)のドル円レートの推移と出来事をあげておきます。

【出典:Yahoo!ファイナンス】

【出典:Yahoo!ファイナンス】

この実質10日間でドル円の為替レートは3円以上円安に進みました。もっとも動きが大きかったのは衆議院が実際に解散となった16日までです(終値ベースで1円89銭)。それに対して、無制限量的緩和の発言があった15日から4日間の終値ベースでは、実は52銭しか円安に振れていません。小動きと称されるような状況です。つまり、無制限量的緩和発言よりも、突如解散を首相が言いだして解散までわずか数日という事態の方に市場も反応したと言えるでしょう。

さらに週末の時点で建設国債の日銀による引き受けに触れたことで各方面から「財政法の禁じ手」と批判が続出。非常に単純な話、法律問題として取り上げる以前に、金融機関の国債購入意欲が旺盛な現状で、わざわざ建設国債を直接日銀に引き受けてもらう必要性は全くありません。したがって、発言の真意はどこにあるのかと不思議に思っていたところ、買いオペ(通常行われている資金調整の方法)と直接引き受けとをメディアが混同していると、報道に対して軌道修正を求めているようです。しかし、周知の通り発言は突飛と受け取られ、予想以上の赤字となった貿易収支の発表と相俟って、週明けに円安で反応した状況でした。

こうして実際の為替市場の動向を見る限り、緩和発言だけによって円安に動いたとは言い切れず、日本の政治そのものへの不安や悪化した経済指標など他の材料とタイミングが重なって円が売られた、と見る方が自然です。財政拡張政策によって実体経済に資金が流れていくことの期待から円安・株高となった部分もありますが、この点については複数政党が訴えていますので、民主党以外になればという反応でしょう。

選挙戦に優位な展開になりそうだと思えば、それを使うのは候補者として当然のことです。直接引き受けは日銀への政治介入だと批判している政党が、実は日銀へ外債購入を促したりしているわけですから、この辺は有権者である我々が冷静に判断する必要があるかと思います。

経済現象よりも、原因そのものの追及を

誤解なきよう申し上げますが、円安をきっかけに株価が上昇したことが悪いと言っているわけではありません。政情不安で動く為替市場、そして円安を一義的に好材料と捉えて動く株式市場という具合に、別の要因で各市場は動き出しています。

結果として発生している経済現象に飛びつくのではなく、発生した円安・株高の原因は何かを客観的に判断する--現象ではなく原因を追究する姿勢は、今後どの政党が政権を担ったとしても日本の経済政策を展開する上で必要なこととなるはずです。是非とも国民目線で、冷静な経済分析や情勢判断が出来る政党に政権を担っていただきたいと思っています。

執筆者プロフィール : 岩本 沙弓(いわもと さゆみ)

金融コンサルタント・経済評論家・大坂経済大学 経営学部 客員教授。1991年より日・加・豪の金融機関にてヴァイス・プレジデントとして外国為替、短期金融市場取引を中心にトレーディング業務に従事。銀行在職中、青山学院大学大学院国際政治経済学科修士課程修了。日本経済新聞社発行のニューズレターに7年間、為替見通しを執筆。国際金融専門誌『ユーロマネー誌』のアンケートで為替予想部門の優秀ディーラーに選出。主な著書に『新・マネー敗戦』(文春新書)、『マネーの動きで見抜く国際情勢』(PHPビジネス新書)、『世界恐慌への序章 最後のバブルがやってくる それでも日本が生き残る理由』(集英社)など。新著『世界のお金は日本を目指す~日本経済が破綻しないこれだけの理由~』(徳間書店)が発売された。