長らくおつきあいいただいた本連載も、ひとまず、今回で最終回ということになった。そこで基本中の基本に立ち返って、公共交通機関で移動する際のモード(移動手段)の選択について考察してみたい。

本連載のタイトルは「ビジネスお役立ち交通情報」だから、仕事で移動する使い方を前提にする。当然、プライベートの旅行で移動するときとは異なる要求が出てくるはずだ。

安ければよい?

どこの会社でも団体でも、常に「経費節減」ということはやかましくいわれるものである。筆者のような自由業でも、経費を抑えられれば、それに越したことはない。経費の出所は自分が稼いだ売上だから、「経費にできるものなら使い放題」というわけにはいかない。

ただ、仕事で利用する交通手段という話になると、まずは仕事をちゃんとこなせることが先決であり、交通費を抑えた結果として仕事の足を引っ張ってしまったのでは本末転倒である。たとえば、こんな場面が考えられそうだ。

・移動だけで疲れてしまい、仕事の能率が低下する
・移動に時間がかかり、仕事の時間に間に合わなかったり、仕事に使える時間が減ったりする
・自由度がなく、仕事が押して予定の便に間に合わなかったときに振替がきかなくて、結果的に買い直しで高くついた

こんな事態になったのでは意味がなくなるから、あくまで「仕事をきちんとこなせる」「仕事の足を引っ張らない」という制約の範囲内で経費節減を考えるのが筋であろう。

ビジネスパーソンの皆様なら先刻御承知のこととは思うが、従来と比べて安価に商品やサービスを提供しようとした場合、何かを削らなければ成り立たない。その削った部分が、自分の利用形態を初めとする諸事情とマッチするかどうか、悪影響を及ぼさないかどうか、が問題なのである。問題がなければ、そうした商品やサービスを利用することに合理性ができるし、問題があればその逆だ。

新聞・雑誌・テレビなどでは、えてして「激安交通機関」が話題になり、持て囃されるものである。時間に余裕があり、選択の余地が広いプライベートな旅行なら「安さ最優先」で考えても良いかも知れないが、仕事のための移動手段では優先順位が違う。

個人的な話を書くと、筆者は夜行バスが苦手である。なにが苦手かというと、寝られないのである。すると当然ながら、翌日に寝不足になってしまうので、そこで仕事が控えていれば効率低下につながる。そのことを自覚しているので、安くても、時間の利用効率が良くても、よほどのことがなければ夜行バスは使わない。

もちろん、これをもって「夜行バスはダメな交通機関だ」といっているわけではない。あくまで、自分の事情に合わないから避けている、というだけの話である。お間違いのなきよう。

あえて上級クラスを利用することのメリット

そういう意味では、同じモードの中で接客設備の選択を行う場面で、意図的に上級クラスを選択することにはそれなりの意味がある。

本連載の第1回第44回で取り上げた電源コンセントの話が典型例で、差別化要素として分かりやすいこともあってか、上級クラスの方が充実していることが多い。最近の新幹線電車が典型例で、「普通車は窓際席と車端席だけ、グリーン車は全席」といった具合である。そして、空間的な余裕については言わずもがなである。

このほか、乗降の手間という問題もある。飛行機の場合 、上級クラスは機内の前方に席を配置するため、静粛性がやや高いだけでなく、搭乗・降機を迅速にできるというメリットがある。筆者自身、それだけの理由で日本航空のクラスJを利用したことがある。

これは鉄道にも似たところがあって、東海道・山陽新幹線のようにグリーン車を編成の中央付近に連結しているケースでは、駅のホームで階段やエスカレーターがグリーン車の近くに来ることが多い。結果として、乗降の際の移動距離が減って楽ができるわけだ。

もっとも、路線や列車によっては先頭車がグリーン車になっていて、必ずしも階段やエスカレーターが近くないこともあるのだが。その代わり、E5系のグランクラスみたいに編成の端にあるケースでは、他の乗客の通り抜けがなく、その分だけ静かに過ごせるというメリットがある。もっとも、静粛性が高いのも良し悪しで、車内で打ち合わせやPC作業をしにくくなる可能性もある。寝ながら移動するには最高なのだが。

仕事の足に求められる柔軟性

営業や打ち合わせで外出するにしても、あるいは遠方に出張するにしても、予定外のタスクが発生したり、進行中の仕事が押したりして、スケジュールが狂うことがある。

クルマや普通列車のように選択の自由度が大きいモードなら良いが、列車の指定席券を買ってあったとか、飛行機のチケットを買ってあったとかいう場面では事情が違う。JRの場合、通常の指定席券であれば、指定の列車に乗り遅れても後続列車の自由席には乗れるので救いがあるが、飛行機では話が違う。

それに、自由席では座席の保証がないので、ひょっとすると立ちん坊でくたびれてしまうかも知れない。仕事で疲れて、さらに移動で疲れを上積みさせられたのではかなわない。

そのことを考えると、「追加料金なしで何回でも指定の変更が可能」なんていう座席予約サービスは重宝するし、「ビジネスパーソンのニーズを分かっているなあ」と思う。決して最安のモードではなくても、仕事の効率や安心感といった見えないコストまで考慮に入れた場合には、話が違ってくる。